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龍華の英雄〜亜人戦記と弓を握りし臆病な少年〜  作者: オルレアンの人
第三章『過去の罪』

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48.あの日の罪

「お母さん....?」

「紅蓮、お母さん達ちょっと用事があって離れちゃうの。だからここで待っててくれる?少し迎えに来るのが遅くなるかもしれないけど....」

「うん、わかった!ずっと待ってるねお母さん!」

「うん、待っててね紅蓮」


 そう言って母と父は、どこかもわからない街に私を置いて消えた。

 それからどれほど待てど、両親が私を迎えに来ることはなかった。

 私は捨てられたんだ。


 家も身寄りも金もない私は、毎日をゴミ溜めで過ごした。

 決して裕福な家の生まれではなかったが、この生活と比べるとあの頃が天国のように思える。

 その日の収穫物に、誰かの食べかけでも新鮮なパンがあれば運がいい。

 殆どはゴミ箱に捨てられた腐った野菜、カビの生えたパン、何も無い日は虫を食べた。


 なぜ両親は私を捨てたのか。

 そんな事はその日から夜の数だけ考えた。

 けど、貧乏だったからくらいしか答えは出ない。

 もし私に原因があったのなら今すぐ直す、だから迎えに来て。

 そう泣いて願ったところで、目を覚ませばゴミの上。


 そんな長いゴミ溜め生活で私は確信した。

 世の中は金だ、金があれば幸せになれる。

 親との絆も兄妹愛もいらない。

 家族なんてくだらない。

 そんな仮初の幸せには何の意味もない。


 そう考えるようになった頃、街の壁に貼られた兵士募集の紙が目に入った。

 兵士は給料が良い。

 武勲を立て、それなりの地位を得れば食うに困らない。


 私は兵士になる事を決意した。


 

「『赤・突(せきとつ)』ッッ!!!!」


 蔓絡人マングルマンには胸の中心に核がある。

 そこを貫けば確実に死ぬ。

 私はフォルネストの胸、その核があるはずの位置へ偃月刀を突き刺した。


 だがフォルネストは死ななかった。


「.....核狙いか......残念だが我の核はそこにはない......」

「あぁ!?ごッ.....!!!?」


 次の瞬間、偃月刀はへし折られ、同時にフォルネストの蔓の一撃が私の体を正面から叩きつける。

 視界が反転し、地面に叩き落とされた。


 体が動かない。

 骨が折れたか、全身の内側から今まで感じたことのない激痛が込み上げてくる。

 

「....さて....どう殺そうか......」


 フォルネストは動けなくなった私を見下ろし、ゆっくりと考え始める。

 恐ろしい待ち時間だ。

 フォルネストは人間を激しく憎む怪物、私をここで殺すことはすでに決まっている。

 あとはどれだけ苦しめて殺すか、それを奴が決めるだけ。


 足が動かない、手も動かない、指一本まったく動かせない。

 私はこの時初めて、死の恐怖というものを知った。

 体は抑えきれないほど震え、息が荒れる。

 逃げられない。

 ここは森の奥深く、助けが来るはずもない。

 

 自業自得とはこのことだろう。

 孫華隊長の言っていた言葉の意味が、ようやく理解できた。

 だが、その時にはもうすべてが遅すぎた。


「......ふむ......栄養にするとしよう.......」


 フォルネストが蔓を伸ばし、私を掴んだ。

 抵抗できない私はそのまま宙へ持ち上げられ、眼下に広がる口内を見下ろす。


 (食われる.....!!嫌....嫌だ.....!!死にたくない!!誰か....助けてっ.......!!)


 初めて救いを求めた。

 情けなく、哀れに、存在するはずもない誰かに助けを。


 思えば、酷い人生だった。

 最期に脳裏に浮かんだのは、吐き気のするゴミ溜めで眠っていた頃の記憶。

 冷たい地面、腐臭、鳴り止まない腹の音。


 私はただ幸せになりたかった。

 普通の人が当たり前に味わえる幸福を、至福を知りたかった。

 そのために必死になった結果がこれだ。

 惨めすぎて涙まで出てくる。

 


 私の人生とは、一体何だったんだろう。



「まだ、貴方の人生は終わらないわよ....紅蓮!!」


 その声と同時に、私の体は落下し始めた。

 口に放り込まれるためではない、私を持つ蔓が切られたのだ。


 そして、落下する私は空中で受け止められた。

 受け止めたのは、孫華隊長だった。


「大丈夫紅蓮!?すぐ皆んなのところ連れてくから!!」


 孫華隊長はボロボロの私を見て、すぐに森を駆け出した。

 仲間たちのもとへ、私を連れて行くために。


「孫華......隊長.....なんで私を.....」


 あれだけ命令を無視し、あれだけ見下していた私を、何で助けたのか。


 (何で危険を顧みず......私を.....)


「だって....私隊長だし、それに......初めての部下だもん....孫覇と何も変わらない、愛おしいよ」


 愛おしい。

 そんな言葉、今まで誰からも言われたことがない、初めて言われた。

 

「何で.....私まだ....金なんて大して持ってない.....」


 ゴミ溜めで生きていた頃、誰も助けてはくれなかった。

 世の中は金だ、金がなければ誰も手を差し伸べない。


 隊長だから助ける?

 そんなのあり得ない。

 絶対に他に、何か理由があるはずだ。

 

「紅蓮....あまり言いたくなかったけど、貴方が兵士になるまで何をしてたか、ある程度調べて知ってたの、私。親に捨てられた事も、悲惨な生活を送っていた事も」


 孫華隊長は悲しい表情を浮かべていた。

 まるで私の気持ち、その全て知ってるかのような、同情するかのような。


「紅蓮、これだけは言っておく。お金なんて温もりの一切ないものがどれだけあっても、幸せになんかならない。それを求めて死ぬことほど、寂しくて悲しい事はない。貴方が本当に求めるべきなのは冷たい硬貨じゃない、貴方を必要とする人の....温かい手よ」

「手......?」

「貴方は強い、きっとまだまだ強くなれる。そんな貴方だからこそ守れる人が、命が沢山あるの!」


 そう隊長が言った直後、視界が開けた。

 森を抜けた先、そこには第二偵察部隊の仲間たちがいた。

 全員が孫華隊長の帰りを待っていた様子で、姿を見るとすぐに行動を開始しようとした。


「姉さん!.....何があったの.....?」


 孫覇は私を見るなり睨みつけたが、すぐに動揺の表情を見せた。


「説明はあと、紅蓮をお願い」

「は!?嫌だよこんな奴!何があったのか知らないけど、その怪我どうせ自業自得だろ!?自分でどうにかさせるべきだ!!」


 孫覇の言葉に同調するように、部隊の仲間たちからも「そうだそうだ!」と声が上がる。


「孫覇.....お願い」


 孫華隊長は真っ直ぐに孫覇を見つめた。


「......ああーもう!!今回だけだぞ.....!」


 孫覇は苦しそうに顔を歪めたあと、舌打ちしながら私を受け取り、背負った。


「それじゃあ皆んなは急いで長城へ帰還して!任務は失敗と報告するように!」

「え、皆んなは?姉さんは?」

「私は......」

「ヅルァァァァァァァァッッ!!!!」

 

 森の奥から、耳を引き裂くような咆哮が轟いた。

 次の瞬間、木々がへし折れ吹き飛ぶ。

 地面を抉りながら、極太の蔓が何本も森の中から突き出した。

 そして、ゆっくりと1体の怪物が姿を現す。


「.....さて.......どう殺そうか......」


 フォルネストだ。


「な、何あの化け物.....!?」

「孫華隊長....!どうしますか!?」

「姉さん......!!」


 叫びが飛び交う中、孫華隊長は一度静かに目を閉じた。

 だがすぐに目を開き、孫覇を見つめた。

 まるでその姿を目に焼き付けているように。

 そして最後に小さく微笑み、優しく抱きしめた。


「え....姉さん.....?」

「孫覇.....貴方がいたから、私は幸せだった......本当に...大好きだよ。絶対生きて....長城まで帰ってね」

「.......え?」


 孫華隊長はゆっくりと孫覇から離れ、その手が腰の剣へ伸びる。


 双剣。

 一つの鞘に、二振りの剣を収めた剣。

 鞘から抜かれた二本の剣を構え、孫華隊長は部隊の全員を見渡した。


「第二偵察部隊ッ!!」


 張り詰めた声が響く。


「長城へ帰還せよッ!!!私は奴を倒し遅れて帰還する!!死ぬ事は許さない、絶対に生きて帰れッ!!!」

「「「.....はっ!!」」」


 仲間達は感じたのだろう、孫華隊長の覚悟を。

 生きて自分達を帰そうとする、孫華隊長の想いを。


「.....いや.....いやだ......いやだよ姉さん.....一緒に.....」

「孫覇!行くぞ!!」


 隊長の元へ、震えた声を発しながらゆっくりと近づこうとする孫覇を、仲間の1人が腕を掴み、無理やり引こうとする。


「嫌だ....!姉さんっ!!一緒に行こうよっ!!!一緒に帰ろうよっ!!!まだ俺....姉さんと話したい事沢山....「孫覇ッ!!!」


 涙を流しながら手を伸ばし、置いていくのを拒む孫覇に、孫華隊長は叫んだ。


「お姉ちゃんとの約束.....忘れたの?」


 孫覇の動きが止まった。

 まるで、見えない鎖に縛られたかのように。


「孫覇ならもう1人でも生きていける!大丈夫!私の弟だもん!」


 孫華隊長はニッと笑った。

 危険なことなどない、またすぐに会えると言うかのような笑顔で。


「....わか....った.....絶対.....帰ってきてね......!!姉さん........!!」

「勿論!私が今まで孫覇に嘘ついたことある?さ、行って!」


 孫覇は、孫華隊長に背を向ける。

 それから一度も振り返らず、部隊の仲間たちと共に真っ直ぐ長城を目指し走った。

 堪える涙を、地面に溢しながら。



「......自分1人を犠牲に.....他の人間を助けろとでも........?無駄な事だ.......1人残らず.....我が殺しに行く.......」

「そうさせないために私がここに残ったのよ。私を殺せたら皆んなを追うといいわ......殺せたら、ね」

「.......貴様1人程度で我を止められると........?」

「....私、こう見えて結構強いのよ?」

「.......ほう........」


 孫華はゆっくりと息を吐いた。

 心を落ち着かせ、双剣を強く握りしめる。

 そして叫んだ。


「我が名は孫華ッ!!!龍鱗の長城・東部方面軍第二偵察部隊部隊長、又の名を『鋭龍えいりゅう』ッ!!!龍華帝国一の切れ味....とくと味わえッ!!!!」


 フォルネストが、ゆっくりと蔓をうねらせる。


「.......そうか.......来い........」

 

 あぁ〜あ......。

 できればもっと....皆んなと一緒にいたかったんだけどな......。

 孫覇....私がいなくても大丈夫かな?


 ....いや、きっと大丈夫!

 私が信じないで誰が孫覇を信じるのよ!!


 いつか孫覇にも素敵なお嫁さんができて.....子供なんて作っちゃって...........。


 あぁ....見たかったな....孫覇の子供.......。

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