42.蔓九皐に在りて、腕天を貫く
(あとは口を開かせればいいだけだ!!)
祐基は駆けながら弓を引き絞り、即座に矢を放った。
雷と化した矢は一直線にフォルネストの眼の部分、窪みへと走る。
(口の蔓も鉄以上の硬度なら手も足も出ない.....けどあの眼、眼球はないけど俺の位置を正確に把握してるってことは見えてるはずだ)
最初に攻撃した時、フォルネストがわざわざ腕の蔓で庇った箇所。
攻撃が通るとすればそこ以外に考えられなかった。
(刺され....せめて怯め....!!一瞬だけでいいから口を開け....!!)
祐基は祈るように、走りながら矢の行方を見つめた。
だが、キンッ!と硬質な音が弾け、矢はあっさりと弾かれた。
「っ.......!!?」
フォルネストの口が大きく開き、中から伸びたのは蔓でできた舌だった。
蔓の舌が瞬時に防御したのだ。
「舌も蔓....!」
一瞬の驚き。
だが祐基は足を止めなかった。
(けど口は開いた.....舌さえ避け続けながら行けば!)
祐基は伸びてくる舌の蔓をかわしながら、距離を詰める。
一歩、また一歩と噴水の中へ踏み込み、水を跳ね上げながら突き進む。
「......煩わしい.....何のつまりか知らんが.......近づいたところで我には勝てんぞ........」
フォルネストが不気味に呟くと、地面が再び震えた。
次の瞬間、辺りの地面より何本もの尖った蔓が一斉に突き上がる。
石畳を破壊して現れたそれらは意思を持つかのように蠢き、まるで炎のように揺れている。
「蔓恐怖症になりそうだ......!」
「.....串刺しになれ......人間.......」
その呟きに呼応するかのように、蔓が一斉に動いた。
祐基は直感だけを頼りに、咄嗟に跳び退く。
次の瞬間、先ほどまで立っていた地面を何本もの蔓が貫いた。
一本一本が鉄槍のように硬質で石畳を砕き、砕けた石片が宙を舞い、衝撃音が響いた。
(くそっ!こんな攻撃続けられたら地面がもたない.....!!)
避けることに集中しなければならない、それは分かっている。
だがそれ以上に祐基は、フォルネストへの道が無くなろうとしていた事に焦り始めていた。
祐基は怯むという選択肢を切り捨て、再び走り出し、走りながら矢筒に手を伸ばす。
(残り.....数本......)
その時、フォルネストの口から伸びる蔓の舌が、獲物を狙う蛇のように祐基を追ってきた。
祐基は跳ねるように身を翻し、紙一重で蔓をかわす。
(あと15メートル....!)
瞬間、足元の地面が割れた。
地下から別の蔓が突き出し、左脚に鋭い痛みが走る。
「ッ.....ぐッ......!!?」
脹脛をかすめ、鮮血が噴水の床を染めた。
転倒しかけた祐基だが、反射的に受け身を取り、転がるように体勢を立て直す。
(止まるな....!!走り続けろッ....!!)
そして、歯を食いしばりそのまま走り続けた。
左脚が地面につくたび、耐え難い激痛が響く中。
「.....無謀と知ってなぜまだ近づく......」
「っ....!顔がっ!?」
フォルネストの顔である蔓の皮膚。
そこよりズゾゾゾゾ....と、まるで内側から押し出されるように、無数の人間サイズの蔓の体が湧き出てくる。
人型の動く物体、蔓絡人だ。
右腕から胴体、顔、足、そして最後に左腕が出るとそれらは皮膚から千切れるように剥がれ落ち、ボトッと音を立てて地面に降り立つ。
その数は30体以上。
「......これらは我の子供の様なもの.......全ては我が生み出している.........どこでだろうと......何体だろうと生み出せる..........」
生まれた蔓絡人たちは、走る祐基へと一斉に腕を伸ばした。
祐基は矢を番え、射線上にいる3体の蔓絡人に向けて射つ。
雷光が走り、途中迫る他の蔓を巻き込みながら、3体の蔓絡人を打ち抜いた。
だが、残りはまだ多い。
迫ってくる蔓は数こそ多いものの、先程のフォルネスト本体の攻撃に比べれば動きは単調だ。
本来なら避けられる。
だが、足に深手を負った祐基にとっては難しかった。
必死に体を動かし、何本かはかわす。
しかし1本が顔を掠め、1本が脇腹を貫いた。
「うッ.....あああぁッ!!」
その痛みに耐えきれず声が漏れ、祐基は地面に倒れ込んだ。
引き抜かれた蔓の傷口から血がボタボタと滴り落ち、地面を赤色に染めていく。
(くそっ.....体が....動かないッ.....!!?)
腕に力を込め、歯を食いしばり起き上がろうとするが、どれだけ力を振り絞っても体は言うことを聞かなかった。
「......死を覚悟して来るか......貴様は苦しめるだけ時間の無駄だな.......」
フォルネストは見下ろしながらそう言い放つと、地面を破壊して左腕を地上へと持ち上げた。
さらに、掲げられた腕に生える無数の手が腕の内側へ引っ込んでいくと、左腕が肥大化していった。
空に広がるその手のサイズは、家一軒を丸ごと押し潰せる程の大きさだ。
まともに動けない今の祐基には、回避という選択肢を取る事ができない。
「......潰れろ......」
フォルネストは手を振り下ろす。
それは、人間が蚊を叩く時と何ら変わらぬ感覚。
避けることも、防ぐことも不可能。
祐基は暗い空を見上げながら、何も成し遂げられなかった己の非力さを呪った。
(あぁ...ダメか.......こんなところで俺は.......)
亜人王を倒すことができずに死ぬ。
今もどこかで見守ってくれている屈釖に申し訳なさと、耐えがたい情け無さが込み上げる。
祐基は、ゆっくりと眼を閉じた。
「祐基ッ!!!」
自分の名を呼ぶ、男の叫び声。
祐基は反射的に目を開き、声のした左側を見た。
広場へと続く上り坂のその先。
そこに、一人の男が立っていた。
「孫覇さん......!?」
対立し、別れたはずの男。
孫覇だった。




