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龍華の英雄〜亜人戦記と弓を握りし臆病な少年〜  作者: オルレアンの人
第三章『過去の罪』

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41.祐基VSフォルネスト

 張按ちょうあんの街に蠢く影が無数にあった。

 だがそれは人間の影ではない。


 (蔓絡人マングルマン.....凄い数だな)


 それは蔓絡人の影。

 地下から地上へ上がってきた祐基の眼前には、街の至る所を歩く蔓絡人の姿があった。


 (俺たちを誘き寄せたから隠れるのをやめたのか......?しかもこの数.....まさか街の門は既に塞がれてるのか?)


 初めは1体の姿も街にはなかった蔓絡人だったが、今は街中を歩いている。

 逃げた祐基達を見つけ出そうとしているのだろう。


 祐基の見える範囲で10体を超える数。

 恐らくこの街にいる蔓絡人の総数は万は超える。

 そしてその数であれば、門を塞ぐ事など容易い事だ。


 (....まぁこの雷衝動さえあれば、普通の蔓絡人は敵じゃない。問題はフォルネストだけだ)


 祐基は潜むのをやめ、矢を番え天に向けて放つ。

 曇る空にいかづちの龍が舞い上がり、雷鳴が街全体に轟く。

 その瞬間、周囲にいた蔓絡人たちが一斉に祐基の方へと振り向く。


「フォルネストッ!!!俺はここだ!!何処にいる!!?」


 叫びは空に響き、街中へと広がっていった。

 すると、遠くの方で何かが崩れ落ちる大きな音が響いた。


「そこか....!!」


 祐基は即座に走り出す。

 だが、蔓絡人たちは当然黙ってはいなかった。

 無数の腕...蔓が伸び、鞭のように祐基へと叩きつけられる。


 祐基は地を蹴り、壁を飛び、身を捻り、迫る蔓を紙一重で避けながら矢を放つ。

 雷は核ごと蔓絡人の身体を消し飛ばす。


 (敵ではない.....敵ではないけど、フォルネストに使う矢は残さないと......!紅蓮隊長.....すぐに行きますッ!!)


 祐基はなるべく敵を避けながら進むが、蔓絡人はそこら中に溢れている。

 それも、まるで個々の意識が繋がってるかのように、一度捉えた祐基の位置を決して見失わない。


 結果、極力矢を節約しながら進んだにもかかわらず、倒した蔓絡人の数はすでに20体を超えていた。

 残された矢の本数は、心許ないほどに少ない。

 

 だがその甲斐もあり、祐基はあの音のした場所へと辿り着くことができた。

 瓦礫と化した家屋の上。

 踏み台にするように、そこに立つ巨大な影がある。


「フォルネストッ!!!」


 祐基は叫び、フォルネストがゆっくりと振り向く。


「......我の名を気安く呼ぶな.......わざわざ死にに来てくれたか........人間....」


 視線が合ったその瞬間。

 祐基は即座にフォルネストに背を向け、走り出した。


「お前を倒しに来たんだよ!」


 フォルネストから距離を取るように、街路を駆ける。

 その姿だけを見れば、まるで尻尾を巻いて逃げ出す兵士。

 だが、恐れのある逃走ではない。

 勝利を掴むための逃走だ。

 

「......罠でも張ったか.......小癪な人間が.....」


 フォルネストは低く唸るように呟き、逃げる祐基を追い始めた。

 一歩踏み出すたびに巨体が家屋にぶつかり、建物は紙細工のように倒壊し、石畳は砕け瓦礫が宙を舞う。


 (よし....来た!)


 祐基はフォルネストが追ってきていることに心の内で喜び、そのまま目的の地へと走り続ける。

 

「....逃すか......」


 しかし、ただ追いかけてくる程フォルネストは甘くはなかった。

 無数の蔓が生えた腕を、背を向けて逃げる祐基へ向けると、次の瞬間それぞれの蔓が一斉に伸びた。


「っ!?」


 その速度はあまりに速い。

 祐基は反射的に近くの家の影へ飛び込み、身を投げ出すようにして避けた。

 蔓は家々を貫き、破壊する。

 その威力に家屋の耐久力はなんと脆いものか、紙でも貫くかのようだった。


 祐基の周囲およそ20軒ほどの建物が次々と倒壊し、街には濃い土煙が巻き上がる。

 祐基は辛うじて生き延び、瓦礫の陰で咳き込みながら身を低くした。


 (まるで災害......そういえば、世界には『六つの災害』とかいう獣だかモンスターがいるって聞いたことあったっけ......こいつ以上に強いのかなそいつら......いやまさかな)


 ふと、昔どこかで聞いた話を思い出しながらしゃがみ込んでいた祐基。

 その背後より、土煙を裂き蔓が飛んでくる。


 間一髪でそれに気付いた祐基は跳び上がり、空中で矢を番えそのまま放つ。

 雷を纏った矢は煙を一直線に切り裂き、奥に潜んでいた蔓絡人の1体を消し飛ばした。


「.....そこか.......」


 (やばっ!!)


 フォルネストの声が響くと、地面をズゾゾゾゾと何かが掘り進んでくる振動を体で感じた。

 最初に見た、あの攻撃だ。

 祐基は即座に走り出す。

 その直後、さっきまで立っていた場所から極太の蔓が五本、地を引き裂いて天へと突き上がった。


 1本でも十分すぎる威力。

 それを5本同時に使う、その殺意に背筋を冷たいものが走る。

 だが、祐基は立ち止まらない。


「......何処まで行く気だ.......」



 息を切らしながらも走り続けた祐基は、やがて街の中でもひときわ開けた場所へと飛び出した。


 そこにあったのは噴水。

 半径およそ25メートルにも及ぶ巨大な噴水が広場の中心に据えられている。

 灰色の石で造られた噴水の中央には、青い石像の龍が鎮座し、その口から勢いよく水を噴き上げていた。

 水は浅く張られ、足首が浸る程度。

 もし晴天であれば水面は陽光を反射し、見る者の心を和ませる美しい景色になっていたことだろう。


 ここが祐基の目的地だ。


 祐基は噴水の中へ駆け込み、水を跳ね上げながら一気に渡り切る。

 そして立ち止まり、振り返って追ってきた存在を睨みつけた。


「......噴水......ここを目指していたのか.......何を用意したんだ.......」

「さぁな....ビビってんのか?」

 

 内心では、(早く来い.....)と胸が早鐘を打っていたがそれを悟られまいと軽口を叩く。

 フォルネストは罠であることを察している様子だった。

 だが、それでも一切の警戒を見せず、堂々と噴水の中へ踏み込んでくる。


 そして中央に立つ龍の石像を、無造作に押し潰し粉砕した。

 そして、そのタイミングで祐基は矢を番えた。

 

「そこだッ!!」


 放たれた雷は、矢から噴水の水へと一気に走った。

 一筋の閃光だった雷は、瞬く間に噴水全体を包み込む光へと変わる。


 凄まじい感電音が響き渡り、広場が白く染まる。

 祐基は腕で目を覆いながらも、いつでも放てるよう二射目を番えて身構えた。


 噴水の上には、黒い煙を立ち上らせ動かなくなったフォルネストの姿があった。

 その体の蔓の一部は黒く焼け焦げ、空気には微かに植物の焼ける匂いが漂っていた。


「.....やったか?」


 祐基がそう呟くと。


「....いいや......」


 フォルネストの口が僅かに動いたかと思うと次の瞬間、予備動作など一切なく凄まじい速度で尻尾が地を這い、水を割りながら祐基めがけて迫った。


「うぉッ!?」


 だが祐基は咄嗟に身を投げ出す。

 あらかじめ警戒していたおかげで、その軌道を読めていた。


「....雷など効かん.......それとも焼く算段だったか.........どちらにせよ無駄だ.......」

「なに!?」

「......遥か昔.....冥友めいゆうより学んだ権能........我には炎と熱に対する完全耐性がある........」

「権能持ちだったのか!!」

「.....そうだ......もう手はないのか......ならば死ね.......」


 祐基はあからさまに驚いた表情を浮かべた。

 それを見下ろし、フォルネストは一歩前へ踏み出す。

 だがその時、祐基は心の奥底で静かにほくそ笑んでいた。


 (知ってるよ、紅蓮隊長が言ってたからな....)

 

 フォルネストが足を置いた、その瞬間。

 噴水の床から石材のヒビ割れる音が響き、一部が崩れ落ちた。


「.....ぬ.....?」


 前足の1本が沈み、フォルネストは慌てて引き戻そうとした。

 だがもう遅い。


「翠鳳さんの言葉がヒントになった.....俺が狙ったのは水じゃない、床だ!!」


 その言葉と同時にフォルネストの足元、噴水の床全体が限界を迎えたかのように一斉に崩れ始めた。

 水と瓦礫を巻き込みながら、巨大な体が沈み落ちていく。


 フォルネストは蔓の腕で必死に踏みとどまろうとするが、自身の圧倒的な重量を支えきれるはずもなかった。

 その自らの重さを持ち上げることはできず、胴体が地下へと沈む。


「......貴様........」

「思ったとおり.....ピッタリだ!」


 地面に埋まったフォルネストは、見事に首から上だけを地表に残していた。

 巨大な体は完全に地下へ沈み込み、残された頭部だけが無様に晒されている。

 自分の策が完璧に決まり、祐基は思わず口元に笑みを浮かべた。


 下水道で孫覇と翠鳳と別れた後、祐基は考えていた。

 フォルネストの口内へ侵入する方法を。


 まず孫覇が言っていた方法を考える。

 あの巨体を登って入る方法。

 登ってる最中に叩き落とされ終わる、そもそも近づく事すらできない。


 眠っている間に入る方法。

 時間がかかりすぎるのでこれもダメ。

 そもそも眠る習性が蔓絡人にあるかどうかもわからない。


 お願いして入る方法。

 考えるまでもなく論外。


 では他に手はないのか、祐基は必死に考え続けた。

 その時ふと脳裏に浮かんだのが、翠鳳の言葉だった。

 

 転ばせて入るのはどうか。

 普通に考えれば不可能だ。

 あの巨体、そこらの家を遥かに超える重量をどうやって転ばせるというのか。

 だがその発想は祐基に一つのヒントを与えた。


 転ばせる必要はない、自分が入れる位置まで奴を落とせばいい。

 

 そう考えついた祐基は下水道を探索した。

 フォルネストを落とせる場所がないかを。


 そして辿り着いたのがこの噴水の下。

 噴水用の水を溜めるために造られた巨大な空洞。

 地下二層構造の水溜め場で深さはおよそ13メートル。

 ここならフォルネストを埋められる。


 そして今。


 祐基の作戦は完璧に成功し、フォルネストは顔だけを地上に残して身動き一つ取れなくなっていた。


 (あとは....口に入れば紅蓮隊長の所に....!!)


 祐基は迷わず走り出す。

 目指すはフォルネストの口。


 そして紅蓮のもとへ。


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