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龍華の英雄〜亜人戦記と弓を握りし臆病な少年〜  作者: オルレアンの人
第三章『過去の罪』

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39.六荒王・フォルネスト

「六荒王.....!!紅蓮隊長、どうしますか!?」


 祐基は紅蓮へと視線を戻し、指示を仰ぐ。


「フォルネストっ.......!」


 紅蓮は自身の左胸、心臓の辺りを押さえるように服を強く握りしめていた。

 歯を食いしばり、フォルネストを睨み続けているが指示を出そうとしない。


「あの......」


 緊迫する空気の中、翠鳳が小さく口を開いた。


「こっち....見てませんか........?あの蔓巨人.....」

「え.....?」


 祐基は再びフォルネストへと視線を向けた。

 その瞳のない窪みの眼は、確かにこっちを向いていた。

 

 (バレた....!?)


 その瞬間、地面から音が響いた。

 まるで巨大な何かが、地中を引き裂きながら進んでくるかのような音。

 長く太い何かが土を掻き分ける振動が、足裏から伝わってくる。


「くそっ離れろ!!あいつ俺らの存在に気付いてやがった!!」


 孫覇が叫び、翠鳳の腕を掴みその場から咄嗟に離れた。

 その声に祐基も反射的に動き出したが、紅蓮は気づいていないのか動こうとしなかった。


「紅蓮隊長っ!?」


 祐基の叫びに、紅蓮はぴくっと肩を震わせ我に返った表情を見せる。

 しかし、その一瞬の遅れが致命的だった。


 地面が爆ぜるように割れ、地中から極太で先端の鋭く尖った蔓が、凄まじい速度で突き出された。

 直撃すれば即死の一撃。


 祐基は地面を転がり、間一髪でそれを躱す。

 だが紅蓮は。


「紅蓮隊長ッ!!!」


 叫んだ瞬間、紅蓮の姿が完全に蔓の影に飲み込まれた。

 蔓の勢いに生まれた突風に怯みながらも、紅蓮を目で探すが姿は見えず、生きているのかわからない。


「紅蓮さんっ!!」


 翠鳳も必死に叫ぶ。

 だが、返事はなかった。


「ッ....!?お前ら気をつけろ!!」


 孫覇が再び怒鳴り、その声に祐基は振り返り、周囲を見渡した。


 建物の内部、路地の奥、瓦礫の影。

 あらゆる場所から、無数の蔓絡人マングルマンが這い出るように姿を現していた。


 (あの叫び声は罠だったのか.....!)


 あの咆哮は獲物を誘い出すためにやったのだ。

 祐基たちはそれにまんまと釣られ、逃げ場のない場所へと追い込まれてしまった。


 紅蓮は行方不明。

 周囲は敵だらけ。

 そして、六荒王フォルネスト・アース。


 状況は最悪だ。


「.....仕方ない、俺がここでフォルネストを仕留めます....!」


 どのみちいずれは倒さなければならない敵。

 それに、こいつを倒す事ができなければ亜人王に勝てるはずがない。


 祐基は覚悟を決め、弓を強く握り、矢を番えた。

 矢に電流が走り出し光を発する。


「待て祐基!」

「大丈夫です....!この弓さえあれば!!」


 制止する孫覇の声を振り切り、祐基はフォルネストへと狙いを定めた。

 まだこの弓に完全には慣れていない。

 狙いの精度は落ちているが、距離は許容範囲内。

 

 (多少ズレはするけど.......当たる!)


 祐基はそう確信し、矢を放った。

 

 いかづちと化した矢が、雷鳴を轟かせながら雷速で空を裂き、フォルネストへと突き進む。

 だが。

 

 ガギンッッ!!!!


 矢はフォルネストの頭部、目の窪みに到達する前に腕の蔓に弾かれた。

 まるで鋼を超える何かに命中したような重い音が響き、矢は無惨にも地面に転がる。


「弾かれたっ!!?」

「フォルネストは蔓の硬さを鉄以上に変えれるんだ!!矢は通用しない!!それに体が鋼鉄の植物だから雷も効かない!!」


 そんなの反則だろと、心の中で泣き言を言ったその直後。

 祐基の背後より蔓絡人の手が伸び迫った。


「っ!?しまっ....」


 蔓絡人の1体が祐基の腕をがっちりと掴んだ。

 同時にもう1体が祐基の腹部目掛けて、先端の鋭く尖った蔓の手を突き出してきた。


 (刺されるっ.....!!)


 祐基は反射的に目を強く閉じ、歯を食いしばった。

 

「祐基ッ!!!」


 孫覇が叫び、祐基を庇うように一歩前に出ると、迫る蔓に向かって剣を振るい、鋭い一閃でそれを切り落とした。


「孫覇さん!」

「祐基くんを離しなさいっ!!」


 さらに翠鳳が駆け寄ると、祐基を掴む蔓の腕を錫杖で叩いた。 

 だが特に効果はない。


「あ、あれ?効かない?」

「お前は下がってろ翠鳳!」


 そう言って孫覇はその蔓も剣で断ち切り、祐基の腕が解放された。


「助かりました孫覇さん....!」

「俺とした事が.....冷静さを失ってた....!次来るぞ!!」


 孫覇は自分を責めるように歯を食いしばり、迫り来る蔓絡人の群れへと剣を構える。


「『せきせん』ッ!!」

 

 背後より鋭い声が響くと、祐基たちの頭上を影が通り過ぎた。

 その影....紅蓮は蔓絡人の群れの只中へと降り立つ。


 着地と同時に、大きく構えた偃月刀を横一文字に薙ぎ払った。

 刃が走った範囲、半径およそ五メートル以内にいた蔓絡人の胴体が、まとめて真っ二つに裂かれる。

 切断面から覗く核も切られており、再生を見せぬまま次々と蔓絡人は地面へ崩れ落ちた。


「紅蓮隊長!」

「すまない....油断した.....」


 紅蓮は低く息を吐き、刀を構え直す。

 先程の攻撃は間一髪で避けたのだろう、その体に目立った傷はなかった。


「紅蓮さん!あれ祐基くんの弓が効かないんですけど!撤退しますか!?」

「この事態を招いた俺らが言うのもなんだが、今は都へ行くべきだ。撤退するぞ」

「いや.....」


 翠鳳に孫覇が答えると、紅蓮は小さく呟き、ゆっくりと偃月刀を持ち上げた。

 そしてその切っ先を、フォルネストへ向けて構える。


「あいつは私が倒す.....!!あいつを倒すために、私は強くなったんだッ!!」


 腹の底から絞り出すような叫びだった。

 

「は!?馬鹿かお前....あいつは倒そうと思って倒せる程甘いやつじゃない!!それはお前が1番よく知ってんだろ紅蓮ッ!!!」

「あの時とは違うっ!!あの蔓を壊せる技を私は持ってる!!」

「自殺ならやる事終えてから勝手にやってろッ!!!今優先するべき事は都に行く事だッ!!!」

「ちょっ、2人とも落ち着いてください!」


 こんな時に言い争いを始める2人を止めようと翠鳳が割って入る。


 その時、地面を揺らす重い足音が響いた。

 祐基たちが視線を向けると、フォルネストの四本の蔓の脚が動き出していた。

 速度は遅いが一歩が大きく、確実に距離を詰めいた。

 考えている時間は、もうほとんど残されていない。


「私1人だけでいい!!お前達は都へ行け!!」

「何言ってんですか紅蓮隊長!?一緒に行きましょう!」

「隊長命令だ!!さっさと行け!!」

「聞けません!!」


 1人残ると言い出した紅蓮の命令を無視し、祐基は再び弓を構えた。


「勝手にしろッ!!」


 吐き捨てるように言い残し、紅蓮はフォルネストへ向かって一直線に駆け出した。

 

「おい祐基!!命令だろ!あいつ置いて行くぞ!!」

「孫覇さんは逃げ道の確保をお願いします!!」

「おいっ!!」


 怒鳴る孫覇を背に祐基は振り返らず矢を番え、そして捻る。

 ラージャンの水の硬さを打ち破った、あの技。

 同じ様に今度こそ蔓に穴を穿とうと。


 (40メートル....いけるか.....!)


 不安が残る中、祐基は矢を放つ。

 走る紅蓮を追い抜いた雷矢らいやはそのままフォルネストに向かう、はずだった。


「....くそっ!」


 矢はフォルネストに届く前に、あらぬ方向へと飛んでいってしまう。

 40メートルの距離であれば絶対に外すことのない祐基だが、この弓の場合は違った。


 雷衝動は纏う膨大な雷のエネルギーゆえ、通常の弓よりも極端に命中精度が落ちる。

 捻り射ちなどよほど近距離でない限りは当たらない。


 (まだこの弓を扱いきれてない......もっと精度を高めないと....!!)


 この弓を使いこなすには、まだ経験が圧倒的に足りなかった。


「フォルネストォォォォオオオッ!!!!」


 紅蓮が咆哮し、フォルネストの眼前へと跳び上がる。

 偃月刀が紅く輝き、突きを放つ。

 

「......あの時の兵士か.......」

「っ........」


 声がした。

 フォルネストの口が確かに動き、地の底から響くような沈みきった重い声が。


 その瞬間、紅蓮の表情が凍りついた。

 驚きではない、恐怖の色だ。


「.....また....仲間を犠牲に逃げるか......」

孫華そんか......隊長.......」

 

 紅蓮の動きが空中で止まった。

 

「紅蓮隊長っ!!!」


 叫びが届くより早く、フォルネストは口を大きく開いた。

 歯はない、口の中も蔓でできているようだ。


 次の瞬間、フォルネストは凄まじい速度で首を伸ばし、そして。

 紅蓮の姿はそのまま、フォルネストの口の中へと消えた。


「あ.....紅蓮....さん?」

「っ....!」


 紅蓮を丸呑みにしたフォルネストは、喉を鳴らすようにゴックンと飲み込み、その顔を次に祐基に向けた。

 

「紅蓮隊長......っ!!吐け.....吐けお前ッ!!!」

 

 怒号と共に、祐基は三本の矢を立て続けに放つ。

 雷光が走り、雷鳴が轟く。

 だがすべて弾かれ、フォルネストに傷一つ付ける事ができなかった。


「.......隊長......?お前にとって大事な人間だったのか........」


 フォルネストは祐基を見下ろしながら問いかけた。


「だったらなんだ!!」

「.......そうか.....なら味わって食そう.......お前達が苦しむ表情を浮かべる事ほど.......我の楽しみはない.......」

「あぁッ!!?」


 挑発。

 いや、明確な悪意。

 それを受けた祐基は理性を失い、フォルネストへと駆け出そうとした。


 (接近すれば捻り射ちは当たるッ!!あの蔓を貫けるッ!!)


 だが、背後から強い力で体を掴まれた。

 孫覇だ。


「落ち着け祐基!!一旦退くぞ!」

「紅蓮隊長がまだあそこにいるっ!!!」

「ダメだ諦めろッ!!!翠鳳、手を貸せ!!」

「え、あっはい!」


 孫覇と翠鳳が両側から祐基を掴み、無理やり退かせようと引っ張り始めた。


「離してください!!紅蓮隊長が!!」

「祐基くんダメ!!今突っ込んでも絶対無駄死にして終わりますよ!」


 祐基は必死に抵抗するが力が無く、2人に抱えられフォルネストから距離が開いていく。


 祐基は手を伸ばした。

 ほんの少しでも、近づこうと。


「紅蓮隊長ぉぉぉぉぉッッ!!!!」


 街に響く祐基の叫び声はただ無常に、敗北と損失を告げる鐘の音となった。

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