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龍華の英雄〜亜人戦記と弓を握りし臆病な少年〜  作者: オルレアンの人
第三章『過去の罪』

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35.倒すべき敵

「なるほど......亜人王.....聞いた事ないが、それが長城の襲撃、帝国への侵攻を主導する存在か」

「亜人王って....なんだか強そうな名前ですね.....亜人の王様なのでしょうか?」

「だがそんな存在、今まで一度も聞いたことがない。そもそも水のオークや魔道機人マギカロイドが他種族に....それも人なんだろ?人に従っているのが信じられないな」


 祐基は屈釖が遺した情報と、自らの目で見た亜人王の存在、そしてその戦いの一部始終を三人に伝えた。

 紅蓮は事態の重大さを静かに噛み締め、翠鳳は何となく凄そうということを。

 孫覇はその実在性そのものに疑念を抱き、それぞれがそれぞれの形で受け取っていた。

 

「六荒王を従わせる人間......そんな奴が今まで表立たずにどこにいた。しかも体を他種族に変える力.....確実に権能持ちだ」

「権能って.....あのラージャンの水を操るアレと同じ?」

「ああ、それもさらに強力だろう。祐基の兄貴....屈釖って奴がどのくらい強いのかは知らないが、ラージャンを倒したお前が一目置いてる存在が手も足も出なかったか.....」

「.....孫覇。屈釖の腕は私が保証できる、私と打ち合える強さではあった........」


 恐る恐るといった様子で、紅蓮がそう口にした。

 孫覇は振り向くことなく、しばらく沈黙した後、「そうか」とただ一言だけ返した。


「紅蓮さん凄い強いのに互角に打ち合えた人ですか.....祐基くんの兄貴さんって凄かったんですね!」

「うん!本当その通り!!」

 

 祐基は動く馬車の中で立ち上がり、誇らしげに声を上げた。


「兄貴は、いつだって俺が追いつけない速度で前に進んで、どんな困難も1人で解決しちゃうような.........憧れの人なんだ」


 屈釖に関して語る時、祐基の胸には今でも温かな気持ちが湧き上がる。

 だが同時に、もう二度と会えないという現実が懐かしさとともに押し寄せ、胸の奥に静かな寂しさを残した。


「兄弟か.....」


 孫覇がぽつりと小さく呟いた。

 その声には、自分と同じ様に少し悲しみが滲んでいるように祐基は感じた。


「でもそんな兄貴さんでも敵わないなんて.....亜人王、一体何者なんでしょうか....」

「亜人王の対策もそうだが、六荒王にも依然として注意する必要がある....どう動いてくるか」

「ポリズンはあの様子じゃ敵対するつもりはなさそうですし、実質あと4体ですね」


 ラージャンはあの後、間違いなく死んだはずだ。

 例え死んでなくともあれほどの重傷では、少なくともこの戦いにはもう復帰できないだろう。

 ポリズンもまた、名の知れた紅蓮を討てるかもしれない絶好のチャンスを自ら捨てた。

 その態度から考えて、今は本当に戦いを望んでいないと見ていいだろう。


 となれば残りは4体、亜人王とその4体の荒王。

 それらを打ち倒せば、この戦いは終わる。

 

「あの....六荒王って他にはどんなのがいるんですか?」

「お前....絶対習ったところだろそこ」


 翠鳳が手を挙げて尋ねると、孫覇はため息混じりに呆れた声色で口を開いた。


「残る4体、鱗魚人リンギョジンの地上侵攻軍総指揮官クライケン・テロ・マーヤン。蛇蜻蟲ドブソンの女王、リベレル。現魔道機人(マギカロイド)の指揮機。.........蔓絡人マンドルマンの祖、フォルネスト・アース」

「どれも強そうですね.....全員が権能持ちなんですか?」

「いや、少なくとも魔道機人は権能を持っていない。クライケンは知らんが長年ラージャンと殺り合ってんだ、恐らく持ってるだろうな」

「フォルネストは....名前はわからないが火や熱に対する耐性をつける権能。リベレルは『振翅共鳴しんしきょうめい』という権能を持っている。羽音の音波を対象の内部に起こし、内側から破壊できる力だ」


 孫覇に変わり、紅蓮が口を開き答えた。


「それは....また恐ろしい権能ですね.....」

「脳みそを一瞬でシェイクにされた者もいたらしい、私は会ったことがないが」


 淡々と話すその凄惨な内容に、翠鳳は思わず「ひえっ.....」と引いた。

 

「確かに恐ろしく強い敵だろうが、恐ろしく強いのは帝国も同じだ」

「同じ?それってもしかして....」


 孫覇の言葉に、祐基の脳裏に浮かんだのは帝国最強と名高い二人の存在だった。

 噂でしか聞いたことはないが六荒王と対等、あるいはそれ以上の強さを持つとされる男たち。

 その名は。

 

「ああ、皇帝の『双刀そうとう』.....帝国の切り札である2人、『強龍きょうりゅう』と『飛龍ひりゅう』。あの2人がいる限り、龍華帝国は敗れない。お前の持つその雷衝動も『飛龍』のために回収してくるよう命じられた物だ」

「この弓を....」


 祐基は思わず、腕に抱えた雷衝動へと視線を落とした。

 『飛龍』の名は祐基も知っている。

 現龍華帝国において最高の弓使いとして知られ、祐基のような弓兵にとっては目指すべき目標、憧れの存在だ。


 そんな『飛龍』が近いうちに武器とする弓を、自分が握っていてもいいのかと戸惑うと同時に、『飛龍』がこの弓を手にした時、どんな戦いを見せるのか。

 そんな想像が、自然と胸をよぎった。


「特に『強龍』は龍華帝国最強の存在。亜人王とやらも、あの人なら必ず倒してくれるはずだ」

 

 そう言い切る孫覇の声には迷いがなかった。

 ただの期待や願望ではなく、確信に裏打ちされた言葉。

 それほどまでに、『強龍』という存在は別格なのだろう。

 

「そういう事なら、なおさら早くみやこへ行く必要があるな。挙抄きょしょうが抜かれたのなら、今は権香けんこうが攻撃を受けているか、もう落ちているか.....下手をすれば都に既に敵が来ている可能性もある」


 紅蓮はそう言うと、チラッ...と御者台で馬車を操縦する孫覇へ視線を向けた。

 

「.....孫覇......」

「....都まではあと2日はかかる。明日張按(ちょうあん)に着く」

「そうか.....ありがとう.....」


 返事が返ってきたことに、紅蓮はほんのわずかに安堵したように息を吐き、静かに礼を述べた。

 

「ねぇねぇ祐基くん」


 重苦しい空気を痛々しく眺めていた祐基の耳元に翠鳳がそっと寄り、声をかけてきた。


「あの2人の空気、本当最悪なんだけど....どうにかできないんですか?」

「う〜ん.....したいんだけど踏み込みにくくて」

「はぁ....仲良くいきたいのになぁ.......あ、そうだ!」


 翠鳳の表情が、ぱっと明るくなった。

 

「日も落ちてきましたし、そろそろ野宿するはずです。私は紅蓮さんにそれとなく孫覇さんと何があったのか聞くので、祐基くんは孫覇さんにそれとなく聞いてください!」

「え、普通逆じゃないですか?孫覇さんとは知り合ったばかりですし....まだそんな話できるほど親しくないですよ....聞きづらいです」

「男は男同士で、女は女同士で...ですよ。同性の方が心は開きやすいものなんです!」


 妙に自信満々な翠鳳に、祐基は苦笑する。


「それはそうかも知れませんけど.....」

「いいんですか?このまま都に着いて、いざ亜人王と戦うぞって時、2人がギスギスしたままだったら連携も上手く取れずに最悪な結果になるかもしれませんよ?」


 まぁ一理ある、祐基は内心納得した。

 今ですらあの空気なのだ、命を懸けた戦場でそれがどう影響するか。

 考えたくもない。

 

「何があったのかさえ分かれば、きっと歩み寄れる道も見つかるはずです!」

「うーん....そうかなぁ?」


 孫覇の紅蓮に向ける視線、声色。

 あれは単なる不和ではない、本気で憎んでいる人間のそれだ。

 過去を知ったところで、簡単にどうにかできるとは思えない。


 (.....けど、何もせずに都に向かい、取り返しのつかない事態になるよりかは.....)


「はぁ....じゃあ紅蓮隊長の事、お願いしますね」

「任せてください!」


 翠鳳は自身の胸をぽんっと叩き、任せなさいと言葉に出さずに伝えてきた。

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