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龍華の英雄〜亜人戦記と弓を握りし臆病な少年〜  作者: オルレアンの人
第二章『水の試練』

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29.頭を垂れよ


 祐基と翠鳳は、必死に階段を駆け上がった。

 後ろでは、仲間たちが水のオークと激しく交戦しており、一刻の猶予もない。

 息を吐きながら最後の段を踏みしめると、眼前には荘厳な宮殿が聳え立っていた。

 その目の前の圧倒的な威風に飲まれる暇もなく、二人はそのまま一直線に宮殿へと駆け出した。


「はぁはぁ....!確か地下は....宮殿の....!」

「帝の間....」


 二人は大扉の前に辿り着く。

 息を整える間も惜しみ、祐基と翠鳳が力を込めて押し開けた。

 宮殿の大扉は長い年月のせいか重く、軋む音を立てながらゆっくりと開いていく。


 中に広がっていたのは、息を呑むほど広大な広間だった。

 高い天井には金の龍が走っており、広間に立つ幾つもの柱には龍の鱗のような模様が施されている。


「すごっ.....誰の像.....!」


 そしてその最奥に、ひときわ目を引く存在があった。

 玉座と思われる跡の背後に聳え立つ、巨大な石像。

 顔には威厳と慈悲が現れ、その眼差しは今も国を見守っているかのようだ。

 恐らく初代皇帝の像なのだろう。


「祐基くん....ここがもしかして、帝の間じゃない?」

「多分.....」


 かつてこの場所で初代皇帝は国の政を執り、国を動かした。

 当時は人々の声が溢れ輝きに満ちていたのだろうが、今は人の気配はなく、静寂が空間を支配している。


「だとすれば.....ここに地下への入り口があるはずです、手分けして探しましょう」

「うん、了解!」


 祐基達は早速、地下の入り口を探し始めた。

 広間の壁や像の裏、柱の影にまで手を伸ばし確かめる。

 だがどれだけ叩き、摩ろうと壁は壁、柱は柱だった。

 地下の入り口なのだから床にあるかもしれないと、床も叩いて空洞がないかを確かめる。

 しかしどれだけ探そうと、どこにもそれらしき入り口は見つからなかった。


 焰秋は、何度か来てるが知らないと言っていた。

 もとより簡単に見つかるものではないと祐基も思ってはいたが、全くの手掛かりも見当たらない現状に焦燥感を感じていた。


 そして、長い探索の末、二人は再び帝の間の中央へ戻ってきた。


「そっちもないの!?」

「.....見当たりませんでした」

「地下の入り口.....一体どこに.....」


 沈黙が広間を満たし、翠鳳は腕を組んで考え込んだ。

 一方の祐基は、心の内である疑問が生じていた。

 

 (.......この帝の間に.....本当に地下への入り口なんてあるのか......?)


 数十分と隈なく探しても、それらしきものが一切なかった。

 もしかすると帝の間にあったとされる伝承事態が誤りで、入り口は別の場所にあるのかもしれない。

 そんな考えも浮かび上がってくる。


 早く皆んなで逃げるためにも地下を見つけ、武器を回収しなければならない。

 祐基の焦りの色はじわじわと強くなってくいた。


 (何かないか......それらしき場所や、目印みたいなものは.....)


 祐基は改めて帝の間を見渡す。

 だがあるのは玉座の跡、柱、そして初代皇帝と思われる石像だけだ。


 (石像.......)


 祐基はふと思い出した、もう一つの伝承を。


『頭を垂れよ』


 さっぱり意味のわからなかったその言葉。

 だが、言ったとされるのは初代皇帝。


 (.......まさか)


「翠鳳さん、こっち来てください....」

「え?」


 祐基は翠鳳を呼び、共に石像前まで歩み寄る。


「祐基くんわかったの!?地下の入り口!」

「.....多分わかりました。この石像に頭を下げてください」

「え?石像に?」

「はい」


 理解できていない翠鳳をよそに、祐基は一歩前へ出て、深く頭を垂れた。

 翠鳳もそれを見て、戸惑いながらも真似をする。


 すると....地響きがし、帝の間を揺らした。


「えっ!!なになに!?」

「.....正解だったっぽいですね」


 驚く翠鳳の前で、石像の足元。

 その両足の間の床がゆっくりと左右に開いていき、中から冷たい風が吹き上がる。

 どういう仕掛けなのか、この石像に頭を垂れることが鍵だったようだ。

 つまりあれが。


「地下への入り口....」


 祐基は石像の足元に近づき、開いた穴の中を覗き込んだ。

 そこには、地下へと続く長い石の階段が伸びていた。

 壁面には間隔をあけて光を放つ石が埋め込まれ、ほのかな明かりが階段を照らしている。

 間違いない、これが地下の入り口だ。

 

「すごい!!よく分かりましたね祐基くん!!」


 翠鳳が感嘆の声を上げる。

 しかし祐基は、その褒め言葉にボソッと呟く。


「......兄貴なら、もっと早く気付けた」

「え、兄貴?」


 それだけ言うと、祐基は静かに階段を降り始めた。

 翠鳳は一瞬戸惑いながらも、すぐにその背を追いかけていく。

 


 階段は、長い年月を経ているにもかかわらず、驚くほど綺麗な状態で保たれていた。

 まるで入り口が閉じている間は、時間でも止まっていたかのように。

 ただ、壁も床も天井も全て冷たい石でできているせいか、空気がひんやりとしていて少し肌寒さを感じる。


 階段は終わりが見えないほど深く続いている。

 一段、また一段と降りるたびに、胸の奥に不安が広がっていく。

 地上へ無事に戻れるかどうか....という不安が。


「....あ、あの!祐基くん!」


 手に持つ錫杖を鳴らしながら後ろを歩く翠鳳が声を掛けてきた。

 祐基と同じような不安を紛らわすためだろうか、少し声が高くなっていた。


「さっき言っていた....兄貴とは、祐基くんのお兄さんですか?」

「....いや、違います。兄貴は....実の兄弟じゃ....」

「違うんですか?じゃあ、どうして兄貴って呼んでるんですか?」

「......憧れだから」

「憧れ?」


 翠鳳が首を傾げた。


「兄貴は.....僕ができない事を何でもできた。いつも僕の進むべき道を教えてくれた......どんなに絶望的な状況でも、兄貴がそばにいるだけで.....希望が見えたんだ.......」

「へぇ...まるで神様みたいな人ですね!その兄貴さんも兵士なんですか?無事だといいんですけど.....」

「っ.......兄貴は......しに........しにま.......」


 祐基は足を止めた。


「う....しっ....しに......うぅ.....」


 自分の眼で見たあの光景が、脳裏に浮かぶ。

 兄貴の最期が。


「祐基くん?」

「うぅぅっ.......無理だ......」


 祐基は目を強く閉じ、俯いた。

 受け入れたくない現実を、どうしても受け入れられなかった。


「祐基くん....手、震えてますよ?握ってあげますから一緒に階段下りましょ?」


 翠鳳がそっと祐基の手を取る。

 指先に彼女の温もりが伝わってきた。

 そのまま、引かれるようにして祐基は階段を降り始める。


「なにか....聞いちゃいけないこと聞いたみたいでごめんね。私、あんまりそういうの察するの得意じゃなくて......」

「いや.....僕が悪いんです......僕なんかがっ......」


 翠鳳は何も言わずに手を離し、そのまま祐基の頭に手を移動させゆっくりと、優しく髪を撫で始めた。

 無言のまま数十秒が過ぎていき、翠鳳はチラッと前を向いた。


「あっ....!祐基くん見て!扉だよ!」


 翠鳳が声を上げた。

 その視線の先、階段の終わりに1枚の木製の扉が見える。

 翠鳳が走り出し、祐基も引っ張られ走る。


 扉の前に着くと、翠鳳はドアノブを握り、扉をゆっくりと開ける。

 中に足を踏み入れると、そこもまた光る石によって照らされていた。

 だがそれよりも、最初に目に飛び込んできたのは石の棚に置かれた黄金の王冠や黄金の剣、古代の金貨など。

 金色に光り輝く宝の山だった。


「お宝部屋だぁ〜!!」


 棚は一つではなく五つほど並んでおり、それぞれに宝石や装飾品がぎっしりと並んでいる。

 まさに、トレジャーハンターや冒険者が夢見る宝部屋そのものだった。


 だが、二人の目的はそれではない。

 国の秘宝と呼ばれる伝説の武器。

 祐基と翠鳳は宝に目もくれず、それらしき武器を探し始めた。


「祐基くん....あれって....!」


 翠鳳が部屋の奥を指差した。

 そこにあったのは、かなり古く歴史を感じる掛け軸が二つ、どちらもどこかの山が描かれている水墨画だ。

 そして、その二つの掛け軸に挟まれるように壁に掛けられている一つの武器、いや弓だ。

 ただの武器でない事は一目でわかる。

 黄金の光を放ち、細部には精緻な彫金が施されている。

 国の象徴と呼ぶにふさわしい、気高い輝きだ。


 幼い頃から弓を握り続けてきた祐基にはわかる。

 あれは世界で二つとない、超一級品の弓だ。


「あれが秘宝.....」


 祐基は呟く。

 その瞬間、馬車での移動の途中に焰秋から聞かされた話が、脳裏に浮かんだ。


『世界には、かつて勇者と共に魔王と戦ったドワーフの職人が作り上げた、数々の伝説の武器が存在する。剣や防具、そして弓。三大王弓さんだいおうきゅうと呼ばれる伝説の三つの弓、その一つが今から取りに行く秘宝だ。その名を.....』


「『雷衝動らいしょうどう』......」


『かつて初代皇帝が使っていた、神の力を宿す武器だ』

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