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龍華の英雄〜亜人戦記と弓を握りし臆病な少年〜  作者: オルレアンの人
第二章『水の試練』

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28.水の権能


「翠鳳!祐基!お前ら2人で秘宝を回収しにいけ!!運が悪かったなお前ら、俺らはここで水のオーク共の相手だ!!」

「隊長!?戦うんですか!」


 焰秋の指示に、翠鳳は驚きの声を上げた。


「あいつらと殺し合いながら探すなんてできねぇだろ。頼りにしてるぜ紅蓮殿!」

「はい、ラージャンは私が.....」

「そういうことだ、早く行け!」


 すでに焰秋、紅蓮と孫覇、そして兵士二人が武器を構え、水のオークを迎え撃とうとしていた。


「...了解です!行こ、祐基くん!」

「....はい」


 祐基が短く返事をし、翠鳳と共に階段を駆け上がろうとした.....その時。


「あ!ちょっと待て祐基」


 焰秋は再び声を上げ、祐基の足を止めさせた。


「.....何ですか?」


 祐基が振り返り、焰秋を見ると。


「兵士である以上、親しい者との別れは幾度とある。大事なのは、死んでいった者達の魂を背負えるかどうかだ......小さな兵士よ、お前の覚悟をわしに見せてくれ」


 焰秋は真っ直ぐな視線を向けた。

 恐らく大切な友を失ったのであろう祐基に、乗り越えてくれと静かに伝えるために。


「ほら!早く祐基くん!」

「.....はい」


 祐基は翠鳳に手を引っ張られ、共に階段を駆け上がり宮殿を目指す。

 すると。


「同胞よ、行け!!」


 ラージャンが叫び、手に持つ金と蒼の杖を宮殿へと向けた。

 その合図と共に、水のオークたちは剣を構え、一斉に動き出す。

 

「焰秋隊長、もしもの時は隊長だけでもお逃げに....」

「バァカ野郎、孫覇!わし1人生き延びたところで国が救えるかよ。どうせなら優秀なお前、それと紅蓮殿と若い2人....お前ら4人が逃げるべきだ」

「焰秋隊長....」

 

 孫覇は眉を寄せ、ゆっくりと紅蓮へ視線を移した。


「翠鳳と祐基はともかく、私も.....2度と隊長を殺されたくないんで、逃げませんよ」


 孫覇の言葉にか紅蓮の瞳が揺れ、苦しそうな表情を浮かべた。


「孫覇.....」

「......許せるわけねぇだろ」


 孫覇は俯き、低く、吐き捨てるように言った。


「ったく....いま仲間同士で歪み合ってる場合か孫覇?」


 見かねた焰秋は孫覇の肩を軽く叩き宥めようとした。


「焰秋隊長は知らないんです.......こいつが昔、どういう奴だったかを」

「........すまない」


 紅蓮が弱々しく孫覇に謝った。

 焰秋にとって紅蓮は、都でも噂を聞くほどの一騎当千の強者にして、兵士の鏡のような人物。

 確かに底知れぬ強さを、偃月刀とその構え方から伝わってくる。


 だが、あまりに若い。

 兵士としての心は持っているのだろうが、精神はまだ完全に成長できていない。

 孫覇の言っている過去の事件、恐らくあれ以降止まったままなのだろう。


 何とかしてやりたい。

 だが、自分では無理だろう。

 紅蓮のことを知らなすぎる。

 彼女の内も過去も理解する、本当の意味で隣に立てる、そんな奴でないと。


「....っ!お前ら避けろッ!!」


 頭上に違和感を感じた焰秋は瞬時に叫ぶ。

 次の瞬間、天より大量の水が落ちてくる。


「あれは....!」


 ただの水ではない。

 粒というにはあまりに鋭い無数の水粒が数千、かなりの速度で降り注ごうとしていた。

 焰秋は直感で悟る。

 あれは、防げるものではないと。


「くそっ!!」


 焰秋は階段脇へと身を投げ出す。

 孫覇、兵士二人も反射的にそれに続いた。


 だが、紅蓮だけが一瞬遅れた。


「くっ....!?」


 粒状の水が石段に降り注ぐ。

 とても水が衝突したような音ではない。

 まるで石に石を叩きつけているかのような凄まじい音が鳴り響き続けた。


 そして、避けるのが遅れた紅蓮の右肩に、一粒が命中してしまう。

 血が弾け、紅蓮は体勢を崩しながらも咄嗟に、反対側の階段脇へと転がり込んだ。


「紅蓮殿!!大丈夫か!?」

「大丈夫です....ちょっと肩にもらってしまいましたが......」


 その顔には痛みの表情。

 人体を貫く水、石段には無数の小穴が穿たれ、まるで砕石を散らしたかのような惨状が広がっている。

 誰の仕業か、聞くまでもない。


「ザバババ.....『痛みの雨』」


 水のオーク族長ラージャン・パラード、奴の仕業だ。

 杖を高く掲げ、避けた焰秋達を嘲笑っていた。


「お前達に用はない、あのチビの弓兵を寄越せッ!!」

「祐基....!?」


 何故か知らないが、奴らがここに来た目的は祐基のようだ。

 水のオークが祐基を狙っている理由、焰秋は考えたいがそれを考える時間はなかった。

 水のオークたちはすでに水から上がり、階段を上り始めている。


「よくわからんが.....仲間を渡すわけにはいかねぇな!お前ら、この階段を死守するぞ!!」

「「おお!!」」


 掛け声と共に、孫覇と兵士二人が前に出る。


「ナンダニンゲン....邪魔スルナラ殺スゾ!!」

「都を守護する兵士の力、思い知れ!!」


 水のオークが剣を振りかぶる。

 だが、兵士は身を低くして回避、そのまま首を一閃。

 血を散らしながら、最初の1体が階段を転げ落ちた。

 

「貴様ヨクモ!!」


 怒号と共に、別のオークがその兵士に向かって剣を投げ放つ。

 しかし宙を飛ぶ剣は、横から孫覇の剣が防ぎ、弾く。

 弾いた瞬間、隣の兵士が踏み込み、武器を失ったオークの胸に剣を突き刺す。

 2体目の水のオークが倒れた。


「世界一の龍華帝国軍を舐めるなよ、亜人。壁が壊れようと、我らは健在だ」


 孫覇たちの戦いぶりを前に、先程まで侮りの見えた水のオークたちの顔つきが変わった。

 あれは戦いの目だ。


「ザバババ.....長城を越えればあとは雑魚しかいないと思っていたが.....なかなかやるようだな。それにあれは......『赤龍』か.....。えらい大物がいやがる.....」


 部下が戦っている隙に、焰秋は紅蓮の元へ駆け寄った。


「紅蓮殿、戦えますか.....?」

「えぇ....大丈夫です。部下を守るのは私の責務、奴を仕留めねば....!」


 肩を押さえながら、紅蓮はラージャンを睨みつけた。

 だが、ラージャンを仕留めると言ってもどうやってか。


 奴は今、水の張っている階段下で鎮座しており、動く様子はない。

 あの権能であれば、あそこから動くことなく焰秋達を攻撃できるため、わざわざ近づく危険は冒さないということだろう。

 かといって、こちらが降りて水の中で戦うとなれば、あの水を操る権能相手に勝算は低い。

 奴をどうにかして階段までおびき寄せなければ、勝ち目はない。


(さて、どうするわし.....!)


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