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龍華の英雄〜亜人戦記と弓を握りし臆病な少年〜  作者: オルレアンの人
第二章『水の試練』

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27.六荒王


 宮殿へ入るにはまず、大きな石の階段を上る必要があった。

 一段一段がデカく、上るだけでも結構な体力が必要になりそうだ。


「一段が普通の階段より2倍くらい大きいですね!二段飛ばしは流石に無理そう!」

「わしできるよ」


 そう言って、焰秋は軽々と二段飛ばしで上って見せた。

 翠鳳が「わ〜!」と声を上げ、感心したように見つめる。

 

「うわっ!」


 その様子を少し離れたところから見ていた祐基だったが、慣れない大きさの段だったためか足を踏み外し、前へ倒れそうになった。


「っ!」


 その瞬間、紅蓮が素早く手を伸ばし、祐基の身体を支え、間一髪で頭を階段に打ちつけずに済んだ。


「大丈夫か?」

「......すいません」


 祐基はすぐに立ち直し、紅蓮に軽く頭を下げる。


 そのとき、紅蓮の横を孫覇が無言で通り過ぎた。

 その視線は、紅蓮を射抜くように睨みつけ、何かを言いたげな顔をしている。


 空気が一瞬、張り詰めた。


「大丈夫祐基くん!?」


 すぐに翠鳳も駆け寄ってくると、心配そうに祐基に怪我がないかを確認してくる。

 祐基は「.....大丈夫です」と伝え、階段を上り始めた。


「......ところで、なぜ今になってその秘宝を回収しに来たんですか?」


 祐基はふと、秘宝の話を聞いてから気になっていた疑問を焰秋にぶつけた。


「存在を知ってたなら、もっと前に取りに行くべきだったんじゃ......?」

「確かにそうだな。だが.....実は秘宝には言い伝えがいくつかある。歴代皇帝はそれを恐れて、今まで手を出さずにいたんだ」

「言い伝え....?」


 焰秋がゆっくりと頷く。


「要約して言うなら.......秘宝に触れたその瞬間、その時の皇帝は失脚する.........って話だ」

「.....所詮言い伝えですよね」

「だと思うよわしも。けどこれ言ったの、亡くなる直前の初代皇帝だったらしいから、血筋を受け継ぐ歴代皇帝には恐ろしく感じたんだろうよ」

「初代皇帝は建国の父と言われる反面、魔法技術に関する書物や魔導士を危険視し焼き払い、自分と異なる思想を国を滅ぼす種と見なして徹底的な思想統一を行い、多くの人を処刑した。名君であるが暴君、そんな人間が死の直前に残した言葉と考えると....そりゃ誰も取りに行かない」


 祐基の横から、孫覇が会話に加わった。

 

「まぁ、単に敬意を込めて掘りに行かなかった皇帝もいたと思うが......覇王はきっと、言い伝えにも秘宝にも興味なかったんだろうな。じゃなきゃ掘るどころか婀尨宮あぼうきゅうを燃やすなんて畏れ多い事はしない」

「違いない!」


 焰秋が軽く笑いながら言ったその時、祐基は何気なく後ろを振り返った。

 すると、後ろを歩く兵士二人の動きが止まっていることに気付いた。

 

「.....?」


 なぜ止まってるのか、二人はさっきまで歩いていた街の方を無言で見つめていた。


「ん?おいどうした、疲れたか?」

「焰秋隊長.......あれ.....なんですか........?」


 片方の兵士が小刻みに震える腕をあげ、街の方を指差す。

 焰秋と祐基達は、指された方へ目を向けた。


「.....水?」


 婀尨宮の壁を越える高さにまで徐々に天へと上がっていく水の柱があった。

 位置からして、さっき渡った橋のあたりだ。


「なんだあれ?」

「昔の噴水ですか!」

「黙ってろ」


 焰秋は眉をひそめ、翠鳳の能天気な一言に孫覇は辛辣な一言を返す。

 その直後、紅蓮の表情が一変した。

 瞳に警戒の色が宿る。


「焰秋隊長.....急ぎ宮殿へ」


 あの顔は防衛戦で見せた、敵を前にした時の顔だ。


「紅蓮殿、あれをご存知で?」

「はい、私の知る限り....あのように水を自在に操れる存在はこの世に1体....」


 紅蓮がそう話していると、水の柱が動き出した。

 山の噴火のように一気に空へと上がった水は、壁を超え婀尨宮の内部、階段前に落下する。

 激しく水がぶつかる音が鳴り響き、婀尨宮内に膨大な水が流れ込んできた。


「婀尨宮が....!」


 階段下は水で埋まり、泡立つ水面の中から次々と影が起き上がる。

 祐基は息を呑む。

 何故なら、あの姿に見覚えがあったからだ。


「あれは....」


 長城を襲った、水を統べる亜人の一種。

 水のオーク。


「オーク!?」

「いや、よく見てみろ翠鳳ちゃん。肌色が違う、水色だ。ありゃ水のオークだ」

「なぜ奴らがここに....!」


 水中よりさらに姿を現す水のオークたち。

 その群れの奥、ひときわ異様な存在がゆっくりと浮上した。


「馬車を使われた時は逃げられたと思ったが....目的地が聞こえたのは運が良かった.....そこに川さえ流れてれば追いつける.......」


 濁った声が聞こえた。

 額に極太の縄を巻き、水流の模様が刻まれた緑の衣を身につけ、その手には金と蒼で装飾された魔法の杖。

 その存在感は、一目でこの水のオークたちを従えている者であるということが伝わってくる。


 そう祐基は見ていると、視線が合った。

 思わず目を逸らしたくなるその強い睨みに、祐基は少しビクッとした。


「六荒王....」


 紅蓮の言葉に全員が反応を見せた。


「奴は、水のオーク族を統べる族長....ラージャン・パラード。水を操る権能を持つ.....六荒王の1体」

「あれが.....」


 権能、それは魔力を持つ生物の鍛錬の結晶。

 一つの魔法やスキルを極めた先にある、それらの領域から外れた、体に刻まれる力。

 その力は、死からの復活や武器創造等、様々なものがあり、過去には国を一撃で滅ぼせる権能を習得した者もいた。

 

 一同がそれを見つめていると、ラージャンはゆっくりと動き出す。


「チビの弓兵......追いついたぞ.....」


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