20.森で見た才能
ここは龍華帝国のとある田舎の村。
山の中にある、森に囲まれた何にもないつまらない村。
俺はここで生まれ、ここで育った。
人一倍強い体を持って生まれたものの、俺には夢も、やりたい事もなく、ただ日々を適当に過ごしていた。
「そんなに強いなら兵士になれば?」
そう言われたこともある。
けど、気分が乗らない。
国のために戦いたいなんて崇高な魂なんざ持ってねぇし、誰かの下に就いて命令に従うなんて性に合わねぇ。
きっと俺は、一生この村でダラダラ生きてくんだろう。
.......夢がねぇのに生きてるなんざ、そこらの獣以下だ。
目標も壁もねぇ道を、ただ歩き続ける。
人生ってのは、いったい何なんだ。
「ん?」
そんなことを考えながら、村の外れを歩いていると森の中、何かが動いた気がした。
一瞬しか見えなかったが、恐らく人影だ。
「誰か森に入ってんのか?」
訝しく思い、影に近づいて目を凝らす。
そして、見えた顔に思わず声を漏らした。
「ん....?あいつ.......」
森の中にいたのは、確か村で1番若い....7歳だっけか?楊祐基って奴だった。
いつもおどおどしてて、親の背に隠れて歩くような臆病な奴。
(あいつ、森の中で何してんだ?)
声をかけようか、一瞬迷った。
だがなぜか胸の奥がざわつき、俺はそっと足音を殺し、木の影に身を潜めた。
(.....弓?)
祐基は狩猟用と思われる弓を構え、矢を番えていた。
小さな肩をピンと張り、視線は真っすぐ、森の奥を見据えている。
俺もつられて、あいつの視線の先を追う。
だがそこには木々しかない。
(何だ....この感覚.....?)
胸の奥が、なぜか重くなる。
普段の祐基は、誰かに話しかけられただけでビクビクするような、男のくせに少し情けない奴だ。
だが今のあいつは何か違う。
弓を構えるその姿は、まるで別人だ。
鋭い眼光はまっすぐ獲物を射抜くようで、全身から漂う空気がまるで歴戦の弓兵。
息を潜めるその背に、気安く声をかけられる雰囲気ではなかった。
(本当にあいつ......あの祐基か?)
瞬間、祐基は矢を放った。
矢は真っすぐに飛び、森の奥の闇へと消えていく。
「......!」
祐基は弦を離したその勢いのまま、矢を追って森の中へ駆け出した。
俺も訳が分からないまま、思わずその背を追いかける。
木々の間をすり抜け数十秒ほど走ると、やがて祐基はぴたりと足を止めた。
(っ....!?あれは....!!)
祐基の視線の先、そこにあったのは木製の的だった。
中心には、墨で描かれた極小の黒い点。
そして、そこに矢が寸分の狂いもなく、突き刺さっていた。
(まさか....的当てしてたのか.....あの距離で....!!?)
さっきの場所からここまでおよそ150メートル。
しかも森の中だ。
木々や風の流れを考えれば、矢が届くだけでも奇跡みたいなもの。
そもそも俺の目じゃ的すら見えやしなかった。
確か....昔いた名射手の武将に、130メートルまでの距離なら絶対に矢を外さなかった奴がいたらしいが、こいつはそれを軽く超えてる。
しかも....。
「.........」
特に驚いたり喜んだりもしてねぇ。
あいつにとっては普通ってことか。
だが、少しだけ違和感があった。
的を見る祐基の顔、どこか落ち込んでいるようにも見える。
(おもしれぇ......こんな特技隠してやがったのか、こいつ)
「おい、お前!」
声をかけた瞬間、祐基はビクッ!と肩を震わせ、弓を下げてこっちを振り向いた。
「えっ....!?だ......誰ですか.....!」
怯えた目に震える声。
いつもの祐基に戻った。
「俺を知らねぇのか?なら!聞いて驚き知って驚き.....そしてその眼で見て驚きやがれ!!」
俺は胸を張り、ドンと拳で自分の胸を叩く。
「俺の名は屈釖!!腕っぷしだけなら村1番の男だ!!お前の弓の腕、見せてもらった!隠してたな、気に入ったぜ!お前のこともっと教えろ!!今日からお前は、俺の弟分だ!!!」




