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龍華の英雄〜亜人戦記と弓を握りし臆病な少年〜  作者: オルレアンの人
第一章『崩れた平和』

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17.異様な存在

「ん....ぅぅ....」

 

 かすれた声と共に、祐基はゆっくりと目を開く。

 視界が霞んでおり、よく見えない。

 体を動かそうとすると、上半身に重みを感じた。

 どうやら瓦礫の下敷きになっているようだ。


 何が起きたのか、記憶が曖昧だった。

 最後に見たのは、光。

 焼けつくような白い閃光と、屈釖の叫び。

 そして、轟音。


「......くっ!」


 両腕で瓦礫を押し退ける。

 幸い、上に乗っているのは軽い石や木片ばかりで、骨が折れるほどの怪我はしていない。

 祐基はなんとか体を起こし、立ち上がると近くに落ちている自身の弓を拾い、周囲を見渡した。


「兄貴........?」


 舞い上がる土煙が視界を覆い、あたりは薄暗い。

 耳に入るのは、風と瓦礫の崩れ落ちる小さな音。

 その中で、祐基は屈釖を目で探した。

 だが辛うじて見えるのは、茫然と立ち尽くす兵士たちの姿。

 彼らもまた、まだ生きていることを喜ぶ様子がなく、ただ現実を受け止められない顔を浮かべていた。


 (.....土?)


 ふと足元を見れば、そこは土の地面。

 どうやら長城の上から吹き飛ばされ、そのまま地上へと落ちてしまったらしい。

 周囲に亜人の姿がない事から、荒野の外側ではなく内側に落ちたようだ。

 自分のいた歩廊はどうなったのか、何より兄貴は何処にいるのか、祐基は目を凝らす。

 そして、見た。


「....嘘......長城が.....」


 土煙の向こうに浮かび上がったのは、崩れ果てた長城の残骸だった。

 誇り高き龍華帝国の象徴、絶対の防壁。

 だが今、その壁にはぽっかりと空いた巨大な穴がある。

 壁が破れ、荒野と帝国とを分かつ境界が、消え去っていた。

 そして。


「あ....亜人......!!」


 その穴よりぞろぞろと、まるで群がる蟻のように亜人が姿を見せた。

 亜人達は穴を超え、龍華帝国の国内へと侵入してしまった。


 兵士たちが急いで武器を構えるが、足が竦んでいる者もいる。

 荒野と繋がってしまった以上、もはや亜人の侵攻を止める術はない。

 それ故に何をどうすればいいのか、わからないのだろう。


「い、行かせないっ.....!」


 それでも祐基は叫び、弓を構えて矢を射つ。

 だが倒れたそばから別の影が現れ、次々と長城の穴から湧き出てくる。

 祐基の放つ矢など、押し寄せる波の前では小石のようなものだった。


「....さ、退がるな!ここで防ぐぞっ!!」

「ひっ、来るなっ……来るなあああ!!!」


 兵士たちの叫び、剣や甲冑のぶつかる音、断末魔。

 長城の外は、もはや戦場ではなく屠殺場と化していた。

 祐基がどれだけ亜人を殺そうと、その数は減らず、むしろ増えていく。


「痛っ.....!」


 弓を引いた瞬間、親指の皮が裂け、鋭い痛みが走る。

 血が滲み、力が抜けた。

 その刹那、視界の端を黒い影が横切った。


「っ……!?」


 回避するより早く、蛇蜻蟲(ドブソン)の短剣が祐基の右肩を貫いた。


「ああああああッ!!!!」


 焼けるような激痛が肩から全身を駆け抜ける。

 視界が歪み、呼吸が止まりかけた。

 しかし、握っていた弓が落ちそうになるのを、祐基は必死に堪えた。


 歯を食いしばりながら祐基は右手で矢をつかみ、そいつに向かって直接刺した。

 矢は蛇蜻蟲の頭に刺さり、血飛沫と奇声を上げて倒れる。


「はぁっ……はぁっ……痛っ……!」


 遠ざかる意識を無理やり繋ぎ止め、必死に目を見開く。

 次の亜人が迫る中、腕が重く、弓を構えることさえままならない。


 (死ぬ.....死んじゃう.....!!お母さん......兄貴........!)


 喉が詰まり、呼吸が荒くなる。

 涙が、頬を濡らす。

 足は震え、逃げ道もない。


 祐基は最期の瞬間、幼い日々の記憶を思い出した。

 母のぬくもりと、兄貴の大きな背中。

 それが脳裏に浮かんだ、その時。


「祐基ィィィッ!!!」


 天を裂くような声が轟いた。

 瞬間、祐基の眼前に迫っていた亜人の首が跳ね飛ぶ。


 倒れた亜人の向こう側。

 立っていたのは、血に塗れ、剣を握りしめた1人の男。


「あ.....兄貴っ!!!」


 屈釖だ。


「んだその顔、まさか俺が死んだと思ってたんじゃねぇだろうな!!」

「思った.....!」

「おい!....けど、よく無事でいてくれた。その怪我大丈夫か?」

「うん....!」


 言葉を交わした瞬間、張り詰めていた何かが切れた。

 肩の痛みも不思議と和らぎ、祐基の瞳から、冷たい涙から熱い涙がこぼれ落ちる。


「そんじゃ祐基、ひとまずお前は......」

 屈釖が言いかけた、その時だった。


 長城の穴より、“何か”が出てきた。


 その“何か”の姿に祐基は、無意識のうちに防御姿勢をとっていた。

 得体の知れない未知の怪物を前に、驚愕と同時に体から警告が発せられたのだ。

 命の危険だと。

 

 それは、資料書でも見たことのない亜人のような生物。

 下半身は黒光りする鱗を持つ蛇の体。

 上半身は膨れあがった筋肉を持つ、緑色の肌のオークの肉体。

 そして頭は、オレンジ色の縞模様の毛の生えた、ユンピョウに少し似ている獣の頭で、黄色い双眸がぎらついている。

 まるで複数の獣や亜人の死骸を、無理やり縫い合わせて作られたかのような、異様な存在。


 そいつの視線はゆっくりと、祐基たちへと向けられた。


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