16.崩壊
「っ....!!!くそっ!!!」
紅蓮が助けに向かおうと身を翻すも、周囲を囲む亜人たちが進路を塞ぐ。
屈釖も叫びながら駆け出した。
「てめっ....やめろッ!!!」
だが間に合わない。
蛇蜻蟲は仲間の絶叫をかき消すように、大顎を左右に開き。
ガリッ。
肉を裂く音と共に血飛沫が噴き上がり、紅い霧が空中に舞う。
宙に浮いた新兵の手から、剣が力なく滑り落ち、歩廊に転がった。
「.....おい、お前.....俺らの仲間に...何やってんだッ!!!」
「馬鹿っ!やめろッ!!!」
屈釖の制止も虚しく、近くにいた一人の新兵が怒りに駆られ、蛇蜻蟲に向かって駆け出した。
その瞬間、新兵の背後に現れた蔓絡人の鋭い尾が、風を切って走り、その新兵の胸を貫いた。
「……っ!!!」
新兵の目が大きく見開き、蔓絡人が尾を引き抜くと、血を撒き散らしながら地に倒れ込む。
蛇蜻蟲の手に掛かっていた新兵も、歩廊に投げ捨てられ、2人の亡骸が無惨に歩廊の上に転がった。
「う、う.....うわぁぁぁぁぁぁッ!!!??」
張り詰めていた糸が切れたように、恐怖が爆発する。
数人の新兵が悲鳴を上げ、手にしていた剣を放り出し、背を向けて逃げ出した。
「おいお前らっ!!」
長城を降りようと、階段へ駆ける新兵達だったが、その行く手を亜人達が塞ぐ。
「ひっ.....!」
続いて響いたのは、助けを呼ぶ間もない断末魔の悲鳴。
流れ出た血が、足元を緋色に染めていく。
「くっ....屈釖ッ!!!」
紅蓮の声が戦場に響く。
「もういい!!生き残っている新兵を連れて撤退しろッ!!!」
「はぁ!!?お前はどうすんだよ!!」
「私はここでコイツらを食い止めるッ!!!」
紅蓮はそう叫びながら、亜人を次から次に切り倒していく。
「馬鹿!!仲間1人置いていけるわけねぇだろッ!!!」
「これは命令だッ!!!黙って従えッ!!!」
「兄貴!ここは退がろう!まだ敵があんなにいるんだよ!」
祐基は叫びながら荒野をチラリと見下ろす。
視界の果てまで続く黒い波。
長城へと押し寄せる、万を超えた亜人の群れ。
兵士たちの数はすでに半分以下。
とてもじゃないが、もう防ぎ切れない。
「よし....祐基。お前があいつら連れて退がれ。俺は紅蓮1人置いては行けない!!」
「兄貴、何言って....!一緒に逃げようよ!!」
「仲間置いて行けるほど俺は利口じゃねぇ!!お前は知ってんだろ、俺がそういう奴だって」
「兄貴.....!」
その背中を見て、祐基は胸が締め付けられた。
どうすべきか。
このまま兄貴と共に残るか、それとも、生き延びてる仲間を連れて撤退するか。
僅かな逡巡ののち、祐基は歯を食いしばった。
その時だった。
風が止まり、空気が凍りつく。
祐基は一瞬、荒野の方角に違和感を覚え、視線を向けた。
「......え」
そこに、ありえないものがいた。
さっきまで見えなかった。
地響きも、足音も、風の揺らぎすらも感じなかった。
なのにそれは突然、現れたのだ。
長城をも見下ろすほど巨大な、黒鉄の巨影。
魔道機人。
「は.....?」
「何だ.....あれは.....」
屈釖も紅蓮も、そして兵士たちも言葉を失う。
誰もがその存在を視るまで、気づけなかった。
まるで、そこに至るまでの時間を飛び越えたかのように。
静寂の中、巨大な魔道機人はゆっくりと右腕を上げた。
指が開かれその掌が、長城へと向けられた瞬間。
「っ!!祐基ッ!!!」
轟音と共に、掌の中心から灼熱の光弾が放たれた。
祐基の視界が白に染まる。
凄まじい熱風と衝撃が長城を貫き。
次の瞬間、崩壊音が大地を揺らした。




