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龍華の英雄〜亜人戦記と弓を握りし臆病な少年〜  作者: オルレアンの人
第一章『崩れた平和』

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16.崩壊

「っ....!!!くそっ!!!」


 紅蓮が助けに向かおうと身を翻すも、周囲を囲む亜人たちが進路を塞ぐ。

 屈釖も叫びながら駆け出した。


「てめっ....やめろッ!!!」


 だが間に合わない。

 蛇蜻蟲(ドブソン)は仲間の絶叫をかき消すように、大顎を左右に開き。


 ガリッ。


 肉を裂く音と共に血飛沫が噴き上がり、紅い霧が空中に舞う。

 宙に浮いた新兵の手から、剣が力なく滑り落ち、歩廊に転がった。


「.....おい、お前.....俺らの仲間に...何やってんだッ!!!」

「馬鹿っ!やめろッ!!!」


 屈釖の制止も虚しく、近くにいた一人の新兵が怒りに駆られ、蛇蜻蟲に向かって駆け出した。

 その瞬間、新兵の背後に現れた蔓絡人(マングルマン)の鋭い尾が、風を切って走り、その新兵の胸を貫いた。


「……っ!!!」


 新兵の目が大きく見開き、蔓絡人が尾を引き抜くと、血を撒き散らしながら地に倒れ込む。

 蛇蜻蟲の手に掛かっていた新兵も、歩廊に投げ捨てられ、2人の亡骸が無惨に歩廊の上に転がった。

 

「う、う.....うわぁぁぁぁぁぁッ!!!??」


 張り詰めていた糸が切れたように、恐怖が爆発する。

 数人の新兵が悲鳴を上げ、手にしていた剣を放り出し、背を向けて逃げ出した。


「おいお前らっ!!」


 長城を降りようと、階段へ駆ける新兵達だったが、その行く手を亜人達が塞ぐ。


「ひっ.....!」


 続いて響いたのは、助けを呼ぶ間もない断末魔の悲鳴。

 流れ出た血が、足元を緋色に染めていく。


「くっ....屈釖ッ!!!」


 紅蓮の声が戦場に響く。


「もういい!!生き残っている新兵を連れて撤退しろッ!!!」

「はぁ!!?お前はどうすんだよ!!」

「私はここでコイツらを食い止めるッ!!!」


 紅蓮はそう叫びながら、亜人を次から次に切り倒していく。


「馬鹿!!仲間1人置いていけるわけねぇだろッ!!!」

「これは命令だッ!!!黙って従えッ!!!」

「兄貴!ここは退がろう!まだ敵があんなにいるんだよ!」


 祐基は叫びながら荒野をチラリと見下ろす。

 視界の果てまで続く黒い波。

 長城へと押し寄せる、万を超えた亜人の群れ。

 兵士たちの数はすでに半分以下。

 とてもじゃないが、もう防ぎ切れない。


「よし....祐基。お前があいつら連れて退がれ。俺は紅蓮1人置いては行けない!!」

「兄貴、何言って....!一緒に逃げようよ!!」

「仲間置いて行けるほど俺は利口じゃねぇ!!お前は知ってんだろ、俺がそういう奴だって」

「兄貴.....!」


 その背中を見て、祐基は胸が締め付けられた。

 どうすべきか。

 このまま兄貴と共に残るか、それとも、生き延びてる仲間を連れて撤退するか。

 僅かな逡巡ののち、祐基は歯を食いしばった。


 その時だった。

 風が止まり、空気が凍りつく。

 祐基は一瞬、荒野の方角に違和感を覚え、視線を向けた。


「......え」


 そこに、ありえないものがいた。

 さっきまで見えなかった。

 地響きも、足音も、風の揺らぎすらも感じなかった。

 なのにそれは突然、現れたのだ。


 長城をも見下ろすほど巨大な、黒鉄の巨影。

 魔道機人(マギカロイド)

 

「は.....?」

「何だ.....あれは.....」

 


 屈釖も紅蓮も、そして兵士たちも言葉を失う。

 誰もがその存在を視るまで、気づけなかった。

 まるで、そこに至るまでの時間を飛び越えたかのように。


 静寂の中、巨大な魔道機人はゆっくりと右腕を上げた。

 指が開かれその掌が、長城へと向けられた瞬間。


「っ!!祐基ッ!!!」


 轟音と共に、掌の中心から灼熱の光弾が放たれた。

 祐基の視界が白に染まる。


 凄まじい熱風と衝撃が長城を貫き。

 次の瞬間、崩壊音が大地を揺らした。


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