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龍華の英雄〜亜人戦記と弓を握りし臆病な少年〜  作者: オルレアンの人
第一章『崩れた平和』

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15.死守

 長城は修羅場と化していた。


 梯子を駆け上がる亜人、壁面を這い上がる亜人、そして空より飛来する亜人。

 あらゆる方角から押し寄せる亜人たちに、歩廊では人と亜人の殺し合いが激化していく。


 戦場に矢を放っていた弓兵達は、もはやそっちを狙う余裕はなく、弓を歩廊へと向けていた。

 だが、矢の雨が止んだ戦場には、さらに多くの亜人が雪崩れ込む。

 押し寄せる敵の波に、兵士の数はみるみるうちに減り、逆に亜人の数は徐々に増えていった。

 

「くそっ!!誰かっ!矢が切れッ.....!?」

「おいっ!大丈夫がっ.....」


 近接戦闘となれば、弓兵では分が悪い。

 弓兵部隊はすでに壊滅的な被害を受けていた。

 頼みの近接隊も、数に勝る亜人の猛攻に押され、次々と命を落としていく。


「死守しろっ!!!何としてもここを守りぬッ......!!!」

雲照(うんしょう)指揮官!!!!」


 場を指揮していた雲照という指揮官の頭部が、鱗魚人リンギョジンという全身が濃い緑の鱗に覆われ、背と肘に生えたエラが生えている亜人の鋭い牙に食いちぎられた。

 その口元から滴る赤黒い血が、長城の床を汚していく。


 指揮官が倒れ、命令を失った戦場。

 それでも兵士たちは退かない。

 死を覚悟した瞳で、彼らは剣を構え、再び亜人の群れへと立ち向かっていった。


「くそっ、もう持たねぇぞ!!」

「退くな! 俺たちが退けば国は終わりだ!!」


 剣と盾、槍を構える兵が、1人、また1人と倒れていく。

 長槍がへし折れ、鉄がぶつかり合う金属音と悲鳴が交錯するたび、歩廊の上は狭くなっていった。

 足元はすでに、人と亜人の血で滑り始めている。


 そんな中、第三偵察部隊の新兵たちは、死に物狂いで剣を振るっていた。

 ほとんどの新兵の顔には、恐怖の色が濃く刻まれている。

 だが、誰ひとりとして、退こうとはしない。

 歯を食いしばり、死の気配に抗うように前へと踏み出していた。


「おおおおお!!紅蓮隊長と屈釖に続けッ!!」

「生きて.....生きて故郷へ帰るぞッ!!!」

「「おおおっ!!!」」


 新兵たちの叫びが響く。


「おい祐基!!無事か!?」

「うん....!まだ、なんとか!!」

 

 屈釖は次々と迫り来る亜人を切り倒し、その背を祐基が支えるように矢を放つ。

 矢筒はとうに空になっているが、周囲に転がる矢箱から矢を掴み取り、休むことなく弦を引いた。

 息は荒く、視界は霞む。

 体力は限界を超え始めていた。


「兄貴は!?」

「俺も怪我一つしちゃいねぇよ!あいつらもまだ戦ってんだ!!俺が倒れるわけにはいかねぇってもんよ!!」

「.....っ!?兄貴!!腕から血がっ!!!」


 屈釖の腕に視線を落とすと、血がぽたり、ぽたりと地面に落ちていた。

 その血の道を辿ると、肩に切り傷があった。

 傷口は浅そうではあるが、血は流れ続けていた。


「あぁ、ちょっとヘマした....!けどこの程度なら大丈夫だ!!」


 屈釖は血に濡れた腕を軽く振るい、まるで気にする様子も見せない。

 こんな状況でも、祐基を安心させるためか、屈釖はいつもと変わらぬ笑みを浮かべ、前へと踏み出した。


「『赤龍』ダ!!!コロセッ!!!」


 突如、奇声が聞こえた。

 人の声ではない、亜人の声だ。


 亜人には言葉を持つ種と、持たぬ種がいる。

 蔓絡人と魔道機人の一般個体は喋ることも痛みで叫ぶこともなく、対話ができない。

 だがそのほかの亜人であれば、殆どが人間と同じ言語を喋るため、一応会話は可能ではある。


 祐基は声のした方へと目を向けた。

 そこには、紅蓮を囲むように集まった多数の亜人たちの姿。

 彼女を「赤龍」と呼び、まるで獲物を狙う狼の群れのように、息を荒くして迫っていた。


 だが紅蓮は怯まない。

 迫る敵を次々と切り払い、血飛沫と肉片をまき散らしながら、冷徹に胴を切り、正確に首を落としていく。

 その瞳には恐怖の色はない。

 ただ、わずかに焦りの影が宿っていた。


「どうした亜人共!!この程度では私は殺せんぞッ!!?」

「コイツヲ殺セバ亜人王様ニオ褒メ頂ケルハズダ!!」

「新タナ荒王ニ選バレルカモ知レン!オレガ殺ス!!」


 紅蓮は敵の注意を自分に引き寄せ、味方の被害を抑えようとしていた。

 その姿は、まさに“隊長”だった。


「流石隊長.....強いな.....」

「俺も負けちゃいられねぇな!!」


 屈釖もまた、紅蓮の背を追うように、亜人を切り伏せる。

 まるで二人の間で競い合いでもしているかのように、互いの存在が戦場の士気をなんとか押し上げていた。


 希望が、ほんの僅かだが確かに見えた。

 祐基の胸にも、もう少し戦える、そんな光が差しかけた、その時だった。


「ああああぁぁあッ!!!?」


 甲高い悲鳴が響いた。

 祐基が振り返ると、蛇蜻蟲(ドブソン)が1人の新兵の腹に短剣を突き立て、まるで戦果を誇るように宙へ持ち上げていた。

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