13.開戦
「っ!!亜人接近!!!回回砲用意ッ!!!」
指揮官の怒号と同時に、太鼓が響く。
長城全体に命令が伝わり、兵士たちが動き出す。
弓兵部隊は一斉に矢を番え、バリスタが唸りを上げる。
亜人の群れは主に地上を疾走して接近してくるが、中には空を飛ぶものもいる。
羽音が風を裂き、緑色の影が飛行する。
「蛇蜻蟲.....!!」
その姿は巨大な昆虫そのものだった。
大きな二つの複眼と長い触覚、鋭く湾曲した鎌状の顎。
全身を覆う甲殻は緑がかった黒色で、背からは四枚の半透明な翅を震わせている。
全体的に体が細い人型の昆虫の亜人、主な攻撃方法は右手に持つ短剣と、石をも砕く大顎だ。
「亜人、400メートルに到達!!!」
「回回砲、放てぇぇぇぇッ!!!!」
長城に、轟音が響き渡った。
次の瞬間、無数の火薬弾が弧を描くように長城上空を越え、亜人の群れの中央へと落下する。
地面が揺れた。
眩い閃光とともに、爆風が砂塵を巻き上げ、数十体の亜人を一瞬で呑み込む。
爆炎の中、黒い影がいくつも宙を舞い、体が吹き飛んだ亜人が地面に叩きつけられる。
さらに、間髪入れず火薬弾は放たれ、次々と戦場に強烈な爆発が起きていく。
炎の閃光が連続し、戦場は瞬く間に爆炎の海と化した。
黒煙が立ち昇り、焦げた肉と硝煙の匂いが長城の上まで届く。
「……止まらない……!」
祐基は息を呑んだ。
亜人たちは、焼かれ、吹き飛ばされてもなお、足を止めることなく走り続けている。
まるで地獄の軍勢、同じ生きている生命体とは思えない。
「亜人、200メートルまで接近!!!」
「弓兵部隊、バリスタ!!!攻撃開始ッ!!!」
号令と同時に、長城が弓の弦を引く音で満たされる。
風を裂く矢の音、空が黒く染まるほどの一斉射。
雨のように降り注ぐ矢に、亜人たちは防ぐ術もなく次々と地に沈んでいく。
「火爆矢、用意!!」
精鋭弓兵たちが一歩前に出る。
矢に取り付けられた筒に火が灯り、導火線がジリジリと燃え進む。
「放てッ!!!」
矢は空を舞い、1本の矢が蔓絡人の胸を貫いた。
だが核には当たらなかったようで、蔓絡人は気にせず動き続ける、その瞬間。
ボンッ!!!
小さな筒の導火線が燃え尽き、爆音とともに爆発した。
周囲の亜人を巻き込み、三〜四体がまとめて吹き飛ぶ。
無数の火爆矢は次々と亜人を射抜き、夥しい数の敵を粉砕する。
中には亜人に当たらず、地面に突き刺さってしまう火爆矢もあるが問題はなかった。
例え当たらずとも、その場で爆破するため周囲の亜人を吹き飛ばすことができる。
先日よりも圧倒的に激しい攻撃に、亜人はなす術もなく夥しい死体の山を築き上げていた。
これなら、何とか守り切れるのでは。
祐基がそう思った、その刹那。
「魔道機人来るぞぉぉぉ!!!伏せろぉぉぉぉッ!!!!!」
指揮官の男の絶叫が長城に響く。
その声に兵士たち、そして祐基たちは反射的に頭を伏せ、体を縮こまらせた。
直後、長城に向けて40発ほどの火球が飛来する。
轟音と閃光が立て続けに走り、長城の石壁が震えた。
主な着弾点は壁面だったが、身を屈むことができない、敵に晒されていたバリスタ部隊には直撃弾が降り注いだ。
火の玉を喰らったバリスタは爆ぜ、燃え崩れる。
巻き込まれた兵士たちは火に包まれ、絶叫を上げながら地を転げ回り、やがて動かなくなった。
「全員、迂闊に頭を上げるなよ!!魔法攻撃だッ!!!」
紅蓮の怒鳴り声が祐基たちの耳を打ち、祐基はそっと戦場を覗き込む。
視界の先、そこに立ち並ぶのは、全身が金属でできた異形の軍勢だった。
胸部には淡く光り輝く球体、蔓絡人のような核と思えるものが埋め込まれている。
目は赤く光り、掌には丸い空洞。
あれは魔道機人。
詳しい生態などはわかっていない謎が多い亜人で、主な攻撃方法は自身の動力源である魔力を使った魔法攻撃だ。
奴らは一歩も動かず、ただ右腕を長城へ向ける。
次の瞬間、掌より眩い光が生まる。
再び火球が放たれ、長城は揺れた。
怯む弓兵達だったが、すぐに頭を上げ、攻撃を再開する。
だが厄介なことに、金属で体ができた魔道機人には矢は通用しないため、他の亜人を狙うしかなく、魔法攻撃をただ受け続けるしかなかった。
そして、空を覆うように羽音が響いた。
振り仰げば黒い影が迫っていた。
長城に向けて急降下してくるのは、大顎と硬い外殻を持つ昆虫の亜人、蛇蜻蟲だった。




