11.国の命運を賭けた戦い
「紅蓮隊長、一ついいですか?」
長城へと入り、冷たい石の階段を登っていく途中、列の中から1人の新兵が声を上げた。
「....なんだ」
「先程...前代未聞の事態だと言っていましたが、一体何が?亜人の襲撃は珍しくもないと訓練施設で習いましたが.....」
その問いに、紅蓮は黙り込んだ。
だが五秒ほどの間を置き、口を開く。
「正直に言おう、私も何が起きてるのか.....いや、副司令にも総司令にも誰にもわからない。ただ一つ言えることは、龍華帝国の歴史上最大の.....国家滅亡の危機が迫っている」
「「はっ!!?」」
「「国家滅亡.....!?」」
列のあちこちから驚愕の声が漏れた。
そう言った紅蓮の表情は、冗談など一欠片も含まれていない。
「現在、総司令部が全東部方面長城の戦力をここ、第46地区へ集結させようとしている。我々の任務は、それまで命を賭してこの場を守り抜く事だ」
「それほどの事態.....一体何が起こったんですか.....!?」
「.....もうじき着く。見ればわかる」
紅蓮の短い言葉に、仲間たちは息を詰めたまま黙って歩いた。
そして紅蓮たちは階段を登りきり、歩廊へと出た。
空はどんよりと曇り、風は冷たく肌を刺す。
昨日とは明らかに違う、世界そのものが不穏に染まっている、そんな空気だった。
歩廊の上では弓兵とバリスタの遠距離部隊、盾や剣、槍を構えた近接部隊が整列し、誰もが微動だにせず、ひたすら前方の荒野を凝視していた。
異様な光景だった。
兵士たちが皆、呼吸すら忘れたように沈黙し、何かを見つめている。
まるで、嵐の前の静けさがそのまま形になったような静寂。
祐基は無意識のうちに、彼らの視線を追った。
そして、次の瞬間。
「......っ!!?」
息を飲み、足が止まった。
その光景を見た瞬間、理解した。
紅蓮の言葉の意味を。
背筋に、氷の戦慄が走った。
荒野の向こう。
そこには、地平を埋め尽くすほどの影があった。
夥しい亜人の群れ。
数は、もはや数えきれない。
視界に映る限りの荒野がすべて、敵で塗り潰されている。
一瞥しただけでも、その数は万を優に超え、そしてその全てが、沈黙の中で長城を睨みつけていた。
「......え?」
新兵たちも一様に絶句し、祐基は冷や汗が頬を伝うのを止められない。
もし、これほどの大軍が一斉に押し寄せてきたら、長城など10分ともたず瓦解するはずだ。
「な....なんだ....あの数.....」
「しかもあれ....昨日の蔓絡人....!?」
「それだけじゃねぇ.....!!」
そこにいたのは昨日、長城を襲った亜人、蔓絡人。
そして、それ以外の亜人の姿もあった。
「蔓絡人に毒蠍人......蛇蜻蟲 .....鱗魚人....!!!」
「オークに水のオーク....ゴブリン......魔道機人まで.....!!?」
そこにいたのは、荒野の支配層。
普段なら互いに争い、殺し合うはずの亜人たち。
その全てが今、同じ方向、“人類”に牙を剥いていた。
長城全体を、息が詰まるような緊張が包み込む。
誰もが理解していた。
これは、ただの襲撃ではない。
国の命運を賭けた、戦いだ。




