第8話「清算の旅」
見積もりから、一月が経過した今日、他郷の国にお金を渡す清算がある。
前回の見積もりで、少しもやもやした部分が解決する日でもあり、一年一度の王宮の地下に保管してあるお金を使うことが許される日でもある。
六ケ所巡ることになっていて、大きいからくり工場があるシラクリコリト、お菓子の国ケートゥン、洋服の町錦舞国、野菜の楽園ジアトリノ、幻影の肉王国ミートリアス・ポマール、最後に、花の都フラッツェリア。
それと、からくり人形と時計を営んでいるラグマールも同席してもらっている。
シラクリコリトに用事があるみたいで、大きい鞄を二つ持っている。
最初に行く、幻影の肉王国ミートリアス・ポマールに興味があるみたいで、馬車の中は、噂話が萬栄していた。
「幻影の肉王国は、同じ場所に戻らないそうだ。それと、巨大な蜘蛛の上に国があるから、留まれないそうだ」
「すいません、それは……」
ルナセインが水を差す。
「すべて言い終えるまで、話を遮るな、王様」
「――すいません」
この調子である。
馬車に乗り込むまでは寡黙な人だと思っていたのに、乗ってからは噂話を次々と語り始め、今に至る。
そろそろ話をやめていただきたい。
「リリシラ様は、なにか噂話はあるのかな?」
「えーっと……」
ルナセインの方を見ると、「なにか話を作ってくれ」と言っているような表情をしていた。
この場を少しでも変えるなら、やるしかない。
「ミートリアス・ポマールは、雲の上に在って、地上の人には見えない」
「それは、聞いたことがない。どこで、その噂話を?」
「私のふるさと、ターナル王国です。父から……」
「父からですか……想像が捗りますな」
なんとか話を作って、この場を凌ぐことはできた。
……ごめん、お父さん。話の出しに使っちゃった。
馬車が止まり、扉が開いた。
「皆さん、ミートリアス・ポマール着きました」
ラスファールは言ったのと同時にラグマールが降りた。
ラグマールは、興奮交じりに周りを見渡したあと、ラスファールに尋ねた。
「この下に蜘蛛がいると思うか?」
「いると思われます。入り口はこちらでございます。僕は、そこな辺りで休憩していますので、お気になさらず」
ラスファールは入る隙も与えないほどの早口で言い、頭を下げながらミートリアスポワールの入り口の方に手で示している。
「では、参りましょうか、リリシラさん、ラグマールさん」
お金を渡す場所は、見積もりをした所のミートリアス・ポマール当主ミルキークのお家で行うことになっている。
当主の建物の前でミルキークが待っている。
「お待ちしておりました。リリシラ様、ルナセイン様……そちらの方は?」
「お初にお目掛かります。からくり人形屋、時計屋を営んでおります。ラグマールと申します」
「からくり人形を作っている方ですか?」
「はい、そうです」
「私事なのですが、修理をお願いしたいのです」
「……修理。構いませんよ、簡単なものでしたら、ここでもできると思います」
「そうですか。少しお待ちください」
ミルキークが駆け足で家を出た。
「何をしに行ったのでしょうか?」
ルナセインがラグマールに尋ねた。
「修理してほしい人を集めているのではないかと思っている。からくり人形を作っている人が来るなんて滅多に無いことだからな」
「はあ……そういうことですか」
ラグマールの意見にルナセインは感心したみたいで、大きく首を縦に振っている。
懐中時計の秒針が三周ほど回った時、家の扉が開いた。
「ラグマールさん、来ていただけないですか?」
「――あっ、はい」
ミルキークの言葉に従って、ラグマールが退出した。
そこから、五分ほどの何もない時間が発生した。さっきから待つことが多く、嫌になる。
「お待たせしました」
「ラグマールさんを連れて、何をなさっているのですか?」
「子どもたちのからくり人形を治してもらっているのです。からくり人形を治してくれる人がこの国はいなくて、困っているときに来て頂いたので、せっかくならとお願いしたら、快く承諾していただきまして、感謝しております」
「……なるほど、理解しました」
「ありがとうございます。今回は、清算のために来たのでしたよね」
「ええ」
ルナセインはお金の入った袋を渡した。
「ちょっと、汚いことなのですが、確認してもよろしいですか?」
「ええ、構いませんよ。万が一何かあったら大変ですからね」
「ありがとうございます」
ミルキークはテーブルにお金を出し、独り言をぶつぶつと言い始めながら、お金を積み始めた。
なにか異様なものに、憑りつかれたみたいで、怖い。
積む高さはバラバラで、何かの法則性があるとは思う。
独り言が止み、ほっとした顔で
「ちょうど、頂きました」
「狂いはなかったですか」
ルナセインも安堵の表情を見せた。
「間違いはないです。ラグマールさんの修理を見に行きますか?」
「ええ、行きます」
ルナセインの表情が、子どものように輝きだす。
ラグマールが修理しているところは、普段食事を行うところで建物の面積も広く、テーブル大きいので修理しやすいという理由で選ばれた。
修理に来たのは、老若男女と幅広く、国の半数が修理に行っているという。
一日あっても足らなそうだけれど、どうなのかな?
ラグマールが修理している建物に入ると三人が椅子に座って、待っていた。
ミルキークは突然、指を折り曲げて何かを数えている。
「リリシラさん……ラグマールさんって凄い人なのですね……」
ミルキークの驚いた様子でぼそっと呟いた。
「そうみたいですね」
ミルキークの反応を見るに、とんでもなく人数がいてこの建物が賑わっていると考えていたのだろう。
待っていた三人の修理もあっという間に終わり、ラグマールにこちらに来た。
「リリシラ様、ルナセイン様、お時間を御掛けました」
「いえいえ、有意義な時間でしたよ。からくり人形の蘇る姿を拝めたのですから。それにね……」
「ルナセイン様、あの件お詫びします。そのような言葉を言わないように尽くします」
「よろしい」
初めて、ルナセインが王様の意義を見た気がする。
王妃として引き締めないと。
「皆さま、お済みですか?」
さっきまでいなかったラスファールがいる。
「馬車がこちらに着けましたので、早く乗ってください。次のシラクリコリト、遠いですから」
「ええ、わかったわ」
次の大きいからくり工場ある――シラクリコリトに向けてミートリアス・ポマールを離れた。
★
シラクリコリトに向かう馬車の中で、ラグマールは浮かない顔をしている。
ルナセインが言うには、この時期になるといつも悩んでいるらしく、きっとからくり人形のことだろうと。
からくり人形のこととは、リュナリア王国が多く作ってしまうことで、本来、見積もりで決めたことは変えられないみたいで、今回は五百体から、全体の四割に変わった。
なぜ、多く作ることになったのというと、元々すべての子どもに我々が作ったからくり人形を渡すという決まりがあったのだが、からくり人形の作る量が年々多くなり、リュナリア王国では賄いきれなくなり、他郷にお願いした歴史があり、出来ればこちらで作りたい気持ちがあることから見積もりから変更が毎度あるみたいだ。
「それにしても、五百体から全体の四割って何があったのですか?」
「それがですね……サンタクロース会議の時は、一体も出来ていなかったのですが、お二人さんから頂いた試作機を分解してみたら、意外と簡単に作られているのを発見して……」
「それで、多く作ることが出来たと」
「いえいえ、その時は、五百体と考えていました。三日ほど試作機の作りに勤しんでいた時、娘と息子が言ったんです。歯車を減らしたら、もっと簡単出来るよって。今まで、そんなことを言われたことなかったので、戸惑っていたんです。言われた通り、歯車を少なくしてみたんです。そしたら、軽快に動くのです。息子と娘にもからくり人形作りを携わってもらった結果、思ったよりも早くからくり人形が出来まして、この速さなら、半分ほど作れると確信がありました。それから一割を減らして、全体の四割になったんです。頑張りすぎはいけないですからね」
「……なるほど、よくわかりました」
「それと、今回のからくり人形は一味も違います。より複雑なり、見ごたえがあります。その分、このからくり人形をどのように作っているのか想像がつきます。だからこそ、謝罪の気持ちが強くなるのです。見積もりの時は、一体も出来ていないとおっしゃったのですよね?」
「ええ、今の状況を話すべきだと思いましたから」
「そうですよね。その時、してやったりと思ったはずです。そしたら、一週間後。全体の四割に変わりました、ごめんちゃいみたいな玉梓が来たらどうする?」
「――怒ります」
「それで、直接謝罪」
「ああ、納得です。今の説明でようやく理解しました。前回の説明だと二割しか理解できなかったので」
「それで、お二人さんに謝罪の言葉を考えてほしいのです」
「……」
「……」
謝罪の言葉って思いつかない。
自分が当事者ではないから思いつかない可能性もあるが、ここまでの重要性がある失態をしたことがない。
だからこそ、思いつかない。
思いつかないことを説明はできるが、肝心のことは出てこない。
「本当に申し訳ございません。私のプライドが行動に人を点け、思ったよりも作りすぎてしまいました。毎度、毎度申し訳ございません。これはどうでしょうか?」
「なるほど。こういう形で謝罪をすればいいのですね」
これから、私とルナセインを、からくり人形工場の長――カルタークに見立てて謝罪の練習が始まった。
最初は、言葉が詰まる感じで何を言っているのかわからなかったが、徐々に言葉が聞き取れるようになってきた。
馬車が止まり、ようやくシラクリコリトに着いた。
何度も、何度も謝罪を向けられると、何もしていないのに罪悪感が出てくる。
私って、悪いことさせちゃったのかなって。
「皆さん、着きましたよ……え⁉ 皆さんげっそりしてますよ。なぜですか?」
ラスファールはひどく驚いている様子で、こちらを見ている。
「大丈夫です。ごめんね、ラスファール……ごめん」
「はあ……行ってらっしゃいませ」
ラスファールは戸惑いながら送り出した。
前回、見積もりを渡した建物に到着した。
ラグマールは軽く息を整え、扉のリングを扉に三回叩いた。
すると、怒声とともにカルタークが現れた。
「六割になるって、どういうことだ? 説明しろ」
カルタークが現れたのと同時にラグマールはゆっくりと地面に膝をつけ、頭を地面に近づけた。
「毎度、毎度、迷惑をかけてしまい申し訳ございません」
練習で聞いたどの言葉より短く、誠意が感じられた。
カルタークは、ラグマールの土下座を見て固まっていた。
「あの、どなたかわかりませんけれど、顔をあげてください」
「いえ、頭をあがるわけにはいきません」
「頭をあげてください。どなたかわからない土下座を見ても、心が晴れません。それに謝罪に土下座をもってくる愚かな人ではありませんよ」
「そうですか」
ラグマールは顔をあげ、立ち上がった。
「ルナセイン様、リリシラ様、この方はどなたですか?」
「こちらの方は、時計とからくり人形を作っているラグマールさんです」
「あの生きる伝説のラグマール……会えてよかったです。こ、こちらにお入りください。狭いところですが」
「失礼します」
ラグマールと聞いてから、カルタークの口調が変わった。恐縮しているような緊張している感じ。
見積もりをした部屋に入ると、からくり人形を中を見るカルタークとそれを後ろから眺めているラグマールがいた。
これは、何?
今、何を見せられているのだろう?
「また、やってしまいましたか、改善」
「すいません。歯車を少なくした方が動きが軽快になるので」
「いえいえ、私たちには出来なかったものをこうも簡単に言われると、関心しかありません」
「そうですか」
「実は、カルタークさん。ラグマールを尊敬しているんですよ」
後ろにいるルナセインが耳元で囁いた。
「ということは?」
私も同じ声量で、ルナセインに尋ねる。
「あまり怒ってないということです」
「確かに」
あんなに笑顔のカルタークを見たことがない。
まるで、子どものような純粋な笑顔。
「お二人さんこちらに来てください」
「ええ」
私とルナセインはからくり人形を寝転がっているテーブルの付近の椅子に腰を下ろした。
「今日って、聖なる夜ですか?」
「いえ、清算の日です」
「ハンドベル鳴らないですね。故障でしょうか?」
「いえ、清算の日なので、鳴りません」
「皆さん、サンタクロースの格好していないですね」
「いい加減に……」
私が思いっきり手をテーブルに叩こうと手を上げると、ルナセインがその手を握る。
「気持ちはよくわかりますが、こちらを確認してください」
ルナセインは私の手をゆっくりと降ろし、お金が入った袋をカルタークに渡した。
「清算ですよね。わかっています。確かに頂きました。どうして、ラグマールさんが来られたのですか?」
「私の仕出かしたことを詫びるためです」
「……あの事ですか」
「ええ」
ラグマールは頭を下げる。
「謝らなくて、結構です。気にしてないですから」
「――気にしてないのですか? いつも意見書みたいな玉梓しか渡していないですよね?」
「頑固な職人だと思っていましたから……。それに、サンタさんが作るからくり人形には愛情がある、熱意がある。サンタ産のからくり人形は芸術品です。一目見るだけで怒りが吹き飛びます」
「許してくれるのですか?」
「許しますよ」
カルタークは、手を伸ばし、ラグマールに握手を要求した。
ラグマールは、カルタークの手を握り、握手をした。
「このからくり人形を頂いてもよろしいですか? ラグマールさん」
「いいですよ、聖なる夜に届くものは、これよりも良いものですが」
「楽しみにしています」
カルタークは馬車付近まで歩き、ラグマールの師弟みたいな感じで話していた。
「行ってらっしゃい、皆さん」
「ええ、行ってまいります」
私たちは馬車に乗り込んだ。
★
三か所目、ケートゥン王国には私の心残りがある。それは、ナコッタが私に食べてほしいと言われたプリンが食べられなかったことだ。
見積もりが終わってから今日まで、プリンを食べるのを我慢している。ナコッタが選んだプリンを食べてからと子どものような考え方をしている。
「……プリン」
「ケートゥン王国でプリンを食べたいのですか?」
「ち、違うわ。ルナセイン」
「最近、避けていますよね。プリン」
「――偶然。偶然よ」
小さく、ファンファーレが聞こえる。
馬車がケートゥン王国に近づけば、近づくほど音が大きくなる。
なにかの警戒音かしら。
それとも、歓迎の音かしら。
「ケートゥン王国って、もうすぐ着くのですよね」
「ええ、お菓子の匂いが強くなっていますから」
相変わらず、嗅覚がさえている。
「甘いものが苦手ですよね?」
ルナセインがラグマールに尋ねた。
「そうなんですよ。年を取ると、甘いものが受け付けなくなってきてね。昔は甘いもの好きだったのにね」
「私たちもそうなってしまうのでしょうか?」
私は心配になりラグマールに尋ねた。
「それはわからないです。うちの妻は未だに甘いもの好きですから」
「そうなんですか」
「どんなケーキにも生クリームを追加するんです。小皿が溢れるぐらい」
「……それは凄いですね」
私たちよりもよっぽど甘いもの好きだ。
公言することが恥ずかしくなってくる。
馬車が止まり、扉が開いた。
扉の先にはカーペットが敷かれ、周りには人が並んでいる。
これは、いったい。
馬車から出ると、三人が立っていた。
二人はわかる。
一人は、十二代目ケートゥン王国の王様――チョレコット。
もう一人は、ケートゥン王国のお姫様のナコッタ。
三人目の女性の方は初めてお会いした。
上品で、美しく。眩いオーラを纏っている。
「初めまして、王妃のサージュと申します。うちの娘からいい話を聞いております」
一言、二言言っただけでわかる。
私と彼女のふるまいの違い。
言葉のしなやかさと絵のように佇む姿勢。
これは、長年積み重ねてきたことによってなされているもので、短時間で身に付くものではない。
「では、皆さん。王宮に向かいましょうか」
サージュの言葉に押されるように私たちはケートゥン王国の王宮に歩き出した。
王様たちの食事が出される部屋に案内された。
「これから、ケーキ発表会を始めます。リュナリア王国の方たちは椅子にお座りください」
サージュの言葉に従い、四人が座ると、奥の扉から白い服を着た方が続々と出てきた。
「代表の方は前に」
とサージュが言うと、四人が前に出てきた。
どうやら、この方たちが代表の人なのだろう。
四人の中で、二人はわかる。
王様――チョレコットとお姫様――ナコッタだ。
後の二人は初めてお会いする。
「では、ケーキ作りを始めてください」
サージュがそう言うと、奥の扉に続々と入っていった。
あそこが、調理場なのだろう。
「待っている間に清算してしまいましょうか」
「ええ……」
使いの方にお金の入った袋を渡した。
渡した後、使いの方は手前の扉を開けお辞儀をして部屋を出る。
「皆さん、安心してください。あの方はケートゥン王国の財担当の長です。何も心配することはありません」
私たちが揃いも揃って使いの人を見ていたから、そう言ってくれたのだろう。
ここから、他愛のない話が始まった。切り出したのはもちろん、王妃のサージュさんからだ。
リュナリア王国での生活の様子や好きなもの。
どんな専門性が高い話題でも話が尽きないように話を広げながら話している。
あそこまでの博識は然う然う無い。
話が盛り上がっている中、四人の代表者がケーキを運んでくる。
「リリシラさん、キャラメルリボンのプリンケーキです」
大きいキャラメルでリボン形に固まっているキャラメルが上に乗っていて、その下にはカラメルソースが焦がしてあり、香ばしい匂いがくる。
ナコッタは恐る恐る皿をテーブルに置いた。
少し危なっかしく、手助けしたかったがそういう雰囲気ではなかった。
ルナセインのは、こんがりした焼目が特徴のバスクチーズケーキ。
ラスファールのは、三種のベリーに上に乗っているタルト。
ラグマールのは、何層にも重ねられたオペラというチョコレートケーキでコーヒーが少し入っていて、芳醇な味わいのケーキ。
「皆さん、ご賞味ください」
サージュの言葉に導かれ、各々がケーキを口に入れる。
口に入れると、甘ったるいキャラメルに焦がしているカラメルソースと固めのプリンの苦さが引き立っていて、おいしい。一番下のスポンジケーキのところは、ニンジンが入っていて独特の甘味がある。これが組み合わさることで飽きないでずっと楽しめる一品となっている。
三人をみても、満足な表情で噛みしめている。
こんなケーキを食べたことがなかったし、どこか温かみを感じる。
「皆さん、一言ずつお言葉をもらってもよろしいですか?」
私を含めて四人とも同時にうなづいた。
「では、手前のラグマールさんから」
「――はい。バランスのいいケーキは初めてです。久しぶりにチョコレートケーキが食べられました。ありがとうございます」
「そう言ってくれてありがとうございます。実は、苦めに作ってみたんです。甘いものが好きな方では、思わず飲み物を欲してしまうほどに。それが功をなしたのですね」
と、代表の方が語る。
「続いて、ラスファールさんお願いします」
「えー、とってもおいしいです。僕、ベリーが苦手なのですが、甘いタルトに補助するように抑えめのベリーの酸っぱさが合って、おいしかったです」
タルトを作った代表の方は何も言わずにお辞儀をした。その目には涙がみえた。
「ルナセインさん、お願いします」
「――はい。鼻に広がる香ばしい匂い。しっとりしているチーズケーキ。とてもおいしかったです」
それを聞いて、チョレコットは満足しそうにルナセインを見つめていた。
「最後にリリシラさん、お願いします」
「ええ。甘いキャラメルを包むようにほろ苦いプリンが組み合わさって良かったです。一番下のニンジンケーキはそっといる感じで、邪魔をしていない。最高のケーキでした」
「良かった。おいしいって言ってくれて……」
ナコッタは涙を溢しながらもにこっと微笑んだ。
「皆さんに好評を頂き、誠にありがとうございます。聖なる夜に渡すお菓子にも自信がつきます」
サージュは、深くお辞儀をした。
馬車に乗るまで私は、口に残る余韻を楽しんでいた。
……本当においしかった。
★
四か所目、錦舞国で座ったあの姿勢は、正座というもので、国の伝統らしい。
足が痺れて、しばらく立てなくなる。不思議な座り方だ。
今回は、お城には行かずに洋服を作っている所にお金を渡してほしいと玉梓に書いてあった。
洋服を作るところは、私も気になる。
それと、着物というものにも興味がある。
ドレスとは違う独特の華やかさ。
私が着てみたら、どう見えるのか。
......気になる。
「着きましたよ」
ラスファールが馬車の扉を開けている。
馬車の中には、私ひとりだけが座っていた。
「ルナセインとラグマールさんどちらに?」
「洋服の工場です。先に向かわれました。リリシラ様、寝ていましたから」
「ええ、私も向かいます」
「お願いしますよ、リリシラ様。一時間待ったんですから」
恥ずかしさの気持ちを抱えつつ洋服工場に向かった。洋服工場の外見は王宮と民家を組み合わせた見た目で白を基調としている。
ルナセインとラグマールのいる部屋に通されると、ちょうど会話が盛り上がっているところだった。
「ちょうど来て頂きましたし、着物を着ていただきますか?」
「是非お願いします」
ルナセインとラグマールは同時に頭を下げる。
「リリシラ様、行きましょうか」
ただ言う通りについていく。
寝ていたからか、現実味がない。
今も夢の中だろうか。
案内された部屋には、多くの人がいて作業をしている。きっとサンタクロース関係のことだろう。
「始めましょうか」
案内してくれた女性の方が、次々と布を持っていき、私と布を交互に見て、また新しい布と私を交互に見るのを繰り返し行っている。
もしや、今から私に合う着物を作ろうとしているのかもしれない。
彼女はああでもない、こうでもないと呟きながら布と私を見ている。
「もしかして、今から着物を作ろうとしてます?」
とぼけた質問を投げてみる。
「そうよ。普段、どんな色のドレスを着ているのかしら」
「黄色とか赤、オレンジ、ピンクの明るい色を選びます」
この色たちを選ぶ理由は一つ。
気分が上がるから。
落ち着いた色も試してみたけれど、いつもしっくりこない。
結局、暖色系に戻ってしまう。
寒色系でも合う着物とかないのかしらと考えていると、鮮やかな緑の布を持ってきた。
彼女は私と布を見て満足そうにうなづく。
「良いのが出来そう」
彼女はそう言い残して、奥へと消えていった。
近くに椅子があったので腰を下ろし、周囲を眺める。
私の存在が見えていないのか、それとも気にしていないのか。
洋服づくりに夢中である。
長い針がちょうど三周まわった時、彼女が戻ってきた。
「最高の着物が出来ました」
彼女が持っているのは、さっき見ていた鮮やかな緑の布を使った着物。
「これを着ましょうか」
彼女の言葉に三人の女性が来る。
「リリシラ様に合う最高の着付けを」
「初めての着物に感動を」
「私たちが作り上げます」
三人とも、張り切っている。
着物の着付けが始まった。
ドレスの着方とは違っていて、布を体に纏わせるのが特徴だ。鮮やかな緑に蝶々と花の装飾が描かれた布を自分の体に合わせて調整していく。
それと、足袋というものを初めて履いてみた。
靴下に似ているが、少し違う印象。見た目も独特。
「リリシラ様、どうでしょうか?」
「悪くないわ」
鏡を見ながら、自分の格好をみる。明るい緑にピンク色の蝶々と花の装飾に薄紫色の帯がかなり自分に合っている。
中々着ない色の組み合わせだから新鮮だ。
「見せに行きましょうか?」
「――え?」
「ルナセイン様、ラグマールさん楽しみにしてるんですよ」
「――わかりました」
草履を履いてルナセイン、ラグマールさんのいるとこに向かわないといけなくなるのか。
初めて履くもので、向かう途中で転んでしまうか不安だ。
「行きましょう」
ルナセインとラグマールがいる部屋に戻った。
私の着物を見たルナセインとラグマールは、じっと見つめていた。
「……美しいです、リリシラさん」
ルナセインはしんみりと答える。
「麗しいでございますぞ、リリシラ様」
ラグマールは驚いたように言う。
二人とも満足しているようだった。
今まで着ていたドレスに着替え、馬車のある場所へ向かう途中、
着物のときから一緒にいた女性が、馬車に乗り込むまで見送りをしてくれるようで、一緒に歩いていた。
馬車に乗り込むとき、彼女から木箱を渡された。
「特別な日に、この着物を着てくださいな、リリシラ様」
「ええ、わかったわ」
私はそう答えて、木箱を受け取った。
箱の中には、あの着物が綺麗に畳まれて入っていた。
桐の木箱に収められていて、この箱に入れておくと長持ちするらしい。
★
次の野菜の楽園――ジアトリノには、ラグマールの親友がいて時間が余れば寄りたいと言っていた。
玉梓でしか交流したことがないらしく、実際に会うのは初めてみたい。
書かれている文字は小さく丸っぽい字で、女性の方だとルグマールは考えている。
最近、文字が丸みを増していて、包容力がある人だろうとも言っていた。
「皆さん着きましたよ」
ラスファールが馬車の扉を開くと、真っ先にラグマールが外に飛び出た。
「――ここが、あの人が住んでいる所」
ラグマールは目に焼き付けるように周りをじっくりと見渡している。
「私たちも、行きましょうか。リリシラさん」
「ええ」
外に出ると、心地よい風が吹く。
清算は、前回見積もりをしたところで行うことになっている。
確か、白い髭が床に付く長さの長老。
……タスリスさんだ。
この方からもらった干し野菜は、とても美味しさが凝縮していた。
丸太と紐で組み合わされた階段を一段、一段踏みしめながら登る。
ルナセインは扉を叩く。
「来てくれましたか。さあさあ、こちらに」
「――失礼します」
私たちは近くにある椅子に腰を下ろした。
タスリスは四つのコップにお茶を注ぎ、ひとつずつ手渡した。
ほんのりとうもろこしの匂いがする。
「こちらです」
ルナセインはお金の入った袋をタスリスに渡した。
「――確かに、頂きました。つかぬことを聞いてもよろしいですか?」
「ええ。構いませんよ」
と、ルナセインは答える。
「あの方は、どなたですか?」
タスリスは視線をその人に向けながらルナセインに尋ねた。
「あの方は、からくり人形・時計屋を営んでいるラグマールさんです」
ルナセインは簡単に説明した。
「あのからくり人形を作る方でしたか」
「改めまして、ラグマールと言います……」
ラグマールは立ち上がり、自分の名を口に出した後、一拍置いて、タスリスに尋ねる。
「……ヨスメリアという方をご存知でしょうか。 ジアトリノにいると書いてあったのですが……」
「存じております。ジアトリノの長ですからね。ご案内いたします」
ヨスメリアという言葉を聞いた瞬間。
タスリスは目が泳いでいたように見えた。
何かあるのだろうか。
「少しお時間をもらってもいいですか? 急に来られるとひどく驚いてしまいますので、ここでお待ちください」
タスリスは飛び出して行ってしまった。
「あそこまで焦って行く必要があるのかな」
ラスファールは天井を見上げて呟く。
「きっと、最高の会場を作っているんだよ。なにしろ三十年もやりとりしている仲だからな」
「……三十年。僕二人分……」
「そんなに若かったのか?」
「はい。まあ、若いって言われるような年齢でもないですけれどね」
ラスファールは苦笑しながら、言葉をこぼした。
「お、お待たせしました」
タスリスさんが花を抱えて戻ってきた。
菊、リンドウ、アネモネ。
……タスリスさんは、粋なことする。
私は深く息を吸って、大きく口を開いた。
「皆さん行きましょうか。ヨスメリアがいるお家へ」
ヨスメリアが住んでいる家は、ここから少し遠い所にあり、ツリーハウスではなく、レンガ造りの一軒家。
タスリスは、その家に扉を叩く。
扉が開き、一人の若い女性が出てきた。
「ラグマールさんお久しぶりです。ここではゆっくりお話はできないのでしょうから家の中に入り下さい」
「一つ聞いてもよろしいですか? ヨスメリアさん」
「あなたは……リリシラ様ですね」
「ええ。あなた、ヨスメリアさんではないですよね?」
「何を言っているのですか、リリシラさん。ヨスメリアさんに失礼ですよ」
「でも……私、気づいてしまったんです。タスリスさんが花を抱えて持ってきたことで、わかってしまいました。もう……」
そう言いかけると、彼女は口から漏らした。
「ヨスメリアは、私の母です。母は……」
彼女が最後の言葉を口にする前に、ラグマールは私に向かって優しく言った。
「二人にしてください。ゆっくりお話をしたいので」
彼女とラグマールは家の中に入り扉を閉めた。
「ああ、リリシラ様、怒らせちゃった。あんなことを口走っちゃうから」
ラスファールは不安を漏らした。
「仕方がないでしょ。察しちゃったのよ。あそこまで直接言うつもりなかったなかったの。でも、彼女に嘘をついて欲しくなかったから……それで直接言っちゃいました」
「どうして、リリシラさんはわかったのですか? 僕は気付かなかった……」
タスリスさんが花を抱えた時点で只ことじゃないなって感じたの。花を見たら、確信に変わったわ」
「わかりすぎましたかね。元から打ち明ける予定でした……この花も打ち明ける理由の一つでした。花に少し教養があればわかるものですもんね」
「ええ。その通りです。それとヨスメリアさんがこの花たちを選ぶとは思わなかったというのもあります」
「――やっぱり無理でしたか」
タスリスは肩をすくめ、苦笑いをこぼした。
「皆さん、お時間をおかけしました」
扉が開き、ラグマールと女性が姿を見せた。
女性はラグマールの前に出て、口を開いた。
「皆さんに、嘘をつこうとしていました。すいませんでした。私の名前はモンステラと申します。母は、母は……妖精になりました。妖精は玉梓を書くことはできません。今から見に行きませんか? 母が今、住んでいる場所へ」
私たちはモンステラに着いていき、辿り着いた先には、一つの石が置かれていた。
石のまわりには白い花が咲き誇り、一筋の光が静かに差していた。
ラグマールは、石の前に駆け寄り、話し始めた。
「私たちはお邪魔なので、私の家で待っていましょうか」
「ええ、そうしましょう。二人だけの時間にしたいですから」
ラグマールが戻ってくる間、モンステラはラグマールと玉梓をやりとりすることなった経緯を語ってくれた。
「五、六年前に母――ヨスメリアが亡くなり、途方に暮れていました。そんなとき、玉梓が届いたんです。大体今ぐらいの時期ですね。母はいつも欠かさず読んでいて、そのときは決まって笑顔でした。その玉梓を読んでみたんです。母があんなに笑顔になる玉梓がどんな内容が気になってね。とても美しく書かれていて、話も面白く手元に置いておきたいものでした。毎年、毎年、返しの玉梓を忘れずにやっていたことを思い出して、ラグマール宛に書いてみることにしました。もちろん、母を真似てね。ラグマールさんが書いた玉梓を読んでいるとき、返しの玉梓を書いているときは、母が近くにいる気がして……。次の年も、その次の年も、繰り返して今に至ります。なんて情けない娘なのでしょうね……。母と偽って玉梓をやり取りしているなんて、大人なのに、まるで子どもみたい……」
そう言って、モンステラは言葉を締めくくった。
ラグマールが戻ってきて、次の花の都――フラッツェリアに向かうため、馬車に乗り込んだ。
馬車が動き出してしばらくすると、声が聞こえた。
「ラグマールさん、私……私やめます。お元気で」
モンステラの声だった。
扉を開けてジアトリノの方を見ると、モンステラが息を整えながら立っていた。
ラグマールは外に顔を出し、大きな声でモンステラに伝えた。
「モンステラさん、玉梓お待ちしております。あなたの言葉で」
私たちに向けてラグマールは謝罪を添えた。
「大声で、わがままなこと言ってしまいました。すいません、リリシラ様、ルナセイン様」
「今回は許しましょう、ね? リリシラさん」
「ええ、許します」
「……ありがとうございます」
ラグマールは涙と感謝の言葉を溢した。
★
最後に訪れるフラッツェリアは別名、花の聖地と呼ばれていて、花の聖地――オリベリアの近い所にあるらしい。
前回、訪れていないこともあって緊張する。
リリーラから聞いているのは、最適な環境で調整されている『花の家』というところがあるのと、フラッツェリアの人々は花を一目見ただけで花の状態と花の名前がわかるみたいで、動く図鑑たちと呼ばれていると言っていた。
さきほど訪れた野菜の楽園――ジアトリノに近い所にあるらしく、そろそろ到着するみたいだ。
馬車は止まり扉を叩く音が聞こえた。
時計を見ると、長針が一周半のところを指していた。
「リリシラ様、お先に出てください」
「ええ……」
ラスファールの言う通り、私だけ外に出た。
目の前に一人の男の子が立っていた。
白い服に豪華な装飾が描かれていて、赤いマントを羽織っている。
この格好は王子っぽい。
「あなたが、サンタクロース王妃のリリシラ様ですか?」
「ええ」
「一月前、オリベリアに何しに来た?」
「サンタクロースに必要な花を摘みに来ただけです」
「なんの花だ?」
「デンファレとキョウチクトウ……です」
「食べられる花と毒の花……どちらも見た目が似ている。なぜその花を選んだ?」
「食べられる花はマフィンに入れるためで、毒の花は……注意喚起ってことで押し花にしました」
「マフィンの中に花? どんな加工を施したんだ?」
「花を乾燥させて、砂糖菓子にしました」
「クリスタライズドフラワーってことか」
「ええ……そんなところです」
あれってクリスタライズドフラワーって言うんだ。
……かっこいいな。
あとで同じことするなら、そっちの名前を使おう。
「良い話を聞いた。もういいぞ、他の人も外に出てください」
男の子はそう言って、ラスファールに扉を開けてと目配せした。
ラスファールは懐疑的な表情を見せつつも、馬車の扉を開けた。
「リリシラさん。そんなロマンティックな方だったんですね。花をお菓子の中に、想像するだけでわくわくしますね」
ルナセインは私を見て言う。
「花を菓子に。嫁さんにいい土産話になります」
ラグマールも私の目を見て言った。
ラスファールも同じことを言うんじゃないかと思って彼を見ると、ラスファールは空を見上げていた。
「リシュワースに付いてきて下さい。王宮に迎えます」
「ええ」
リシュワースは歩き出し、私たちはその背中に付いていった。
王宮の外観は、ところどころに花の模様が描かれていて、さすが花の都と呼ばれているだけはある。
王宮の中にも花の模様があちこちに散りばめられていた。
リシュワースは巨大の扉の前で足を止める。
巨大の扉が開く。
「父、母上、リュナリア王国の方がお見えになりました」
リシュワースは席を指定した。
席は横一列に並んでおり、フラッツェリアの王様近くにルナセイン、その隣に私、奥にラグマール、一番奥にラスファールが座った。
「リシュワース、リュナリア王国の方々に挨拶は済ませましたか?」
「……あっ、忘れておりました」
リシュワースは私たちの方へ振り向く。
「フラッツェリア王子のリシュワースと申します。好きな花はボタン。わかりますよね? 皆さん!」
リシュワースは前かがみになって、私たちに問いかける。
……どうしよう。
どの花か、思い浮かばない。
何か言わないといけない気がする。
「わかる……わかります」
私が答えると、吐息が伝わるほどの距離で、前かがみになってじっと見つめてきた。
「やっぱり、わかりますよね。どんなところですか?」
思わず首が後ろに引いてしまう。
「リシュワース、お金を頂いて頂戴ね」
「母上、わかりました。リュナリア王国の皆さま、お金を頂いてもよろしいですか?」
「――ええ」
ルナセインはリシュワースにお金の入った袋を渡した。
「母上、お金を頂きました」
「では、父上に渡してください」
「貰い受け……ようか」
緊張しているのか、言葉がおかしい。
「リリシラさん、あまり気になさらないでくださいね。緊張しているだけですから」
私が懐疑的にフラッツェリア王を見つめていたからか、注釈してくれた。
それを聞いて、フラッツェリア王は慌てふためいている。
「リシュワース、花の家を見せてあげて」
「わかりました、母上」
王宮を出て、ある建物に入った。
レンガとガラスが組み合わされた不思議な建物。
太陽の光がレンガで少し遮られていて神秘的な光景だ。
「花の家では、最適な温度、最適な光、最適な土壌があり、花がもっとも輝く育て方をしています」
どの花も言葉を失うほどに美しい。
私の後ろで、ラグマールが何やら話している。
「ラスファール、この花。からくり人形の潤滑油として使っているんだよ」
「――へえ。この綺麗な花が、潤滑油になるのですね」
「今、なんて言いましたか?」
「からくり人形の動きを軽快にするために、潤滑油として使うんですよ」
「ぼ、僕のからくり人形にも使われると思いますか?」
先頭にいるリシュワースは後ろに振り向き、ラグマールに尋ねた。
「リュナリア王国で作っている物だったら使われていると思います……」
ラグマールは自信なさげに言う。
確か、他で作っているからくり人形は潤滑油をさしていない物も多いのだとか。
費用も跳ね上がる。
元々、潤滑油をからくり人形にさすことを知らない人もいるみたいで、自信がないのは仕方がないこと。
「花で潤滑油が出来るんですね」
リシュワースはラグマールの両手を握り顔に近づける。
「――そうなんだよ」
ラグマールは戸惑っている。
ちなみにルナセインは輝いた目で手招きしている。
私に向けてやっているのだろうか?
試しに近づいてみると、手の動きがさらに速くなった。
どうやら、やはり私に向けていたようだ。
「リリシラさん、見てくださいこの花、いいですよね?」
「ええ……いいと思います」
ルナセインがこんなに花に興味を持っているのは初めてだ。
オレンジ色に近い黄色の花で、先端が尖っていて、どこか凛々しい。
この花にこの花に惹かれるのもわかる。
「へえ、かっこいいですね」
ラスファールが私の背後からひょっこり顔を出して言った。
「へゃ⁉ ラ、ラスファインさん?」
「僕、困らせることしました?」
ラスファインは首をかしげて尋ねる。
「だって……急に出てきたから」
「自重します」
「ラスファイン、この花かっこいいよね?」
ルナセインが指さして言う。
「わかります」
「この……」
ルナセインは、延々とラスファインにこの花の魅力を語っていた。
それを聞くラスファインは、明らかに気乗りしない様子で、いやいやながら耳を傾けていた。
……なんだか、ちょっと可哀そう。
花の家をひと通り見終え、王宮へ戻ってきた。
「リリシラさん、花の家はどうでしたか?」
「ええ、良かったです。どの花も美しく、魅力的で輝いていました」
「良かったわ」
フラッツェリアの王妃は太陽のように微笑んだ。
そして、一言添えた。
「聖なる夜、よろしくお願いしますね、サンタクロースの方々」
「……ええ、お任せください」
私たちはそろって答えた。
直々にサンタクロースと名指しされると、重圧がのしかかり、不安がじわじわと湧いてきた。





