表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/10

第4話「花屋さん」

 今朝、ある(たま)(あずさ)に目を通した。

 それがきっかけで、私は花屋——クゥアーニーの前に立っている。


リュナリア王国十五代目王妃リリシラ様


お久しゅうございます

リリーラと申します

突然の(たま)(あずさ)に慌てふためいていることでしょう

しかし、安心してください

時期に慣れます

ところで、クゥアーニーの協働(きょうどう)をお願いできないでしょうか

王妃なら良い花を選べるに違いないと確信しました

花の情熱

花の関心があるリリシラ様に是非とも協働(きょうどう)して頂きたいです

いつでもお待ちしております


リリーラ


 王妃でも、自分の意思を貫く文体。

 少し恐れをなしてしまう。

 

 さて、クゥアーニーに入ろう。

 今日は、身が凍るほど寒い。

 昨日よりも、着飾らなければ寒さが体に伝わる。

 だからこそ、今日のドレスは、なんだか重たい。下に岩が入っているのかと思わせるほどの重みがのしかかる。

 こんな日に、オレンジ色のマフラーがあって良かった。これを巻かないと、寒さに耐えられない。


「おっ、早いですね」

「えっ、ええ……」

 

 リリーラは扉を開け、出迎えてくれた。


「ちょっと早いですが、お入りください」

 

 リリーラに言葉に甘えて、店の中に入る。


「改めまして、クゥアーニーを営んでおります。リリーラと申します」

「リリシラです」

「ところで、花を選ぶとは何だと思いますか?」

「なんでしょう?」

「私は、人の想いを可視化するものだと思います」

「可視化?」

「落ち込んでいる人に明るく華やかな花を選んだり、どこか、癒される花に贈ったり——そんなふうに、花に想いを込めるのです」

「……なるほど」

「そういう意味では、私が選んだお花は押しつけがましかったかもしれませんね」

「ええ、そうね……でも、その時はお忍びで行ったわけですし、あの花たち、結構気に入っているんですよ」

「ありとうございます。では、始めましょうか」

 

 リリーラは分厚い本を渡してきた。


「ここに、花言葉と花の名前が書いてあるから、それを見ながら、私に似合う花たちを選んでみて」

「――今からですか?」

「そうだよ。あと、もうちょっとで人が来るから、それまでに終わらせたいね」

 

 ……本当に言っているのね。

 

 明日、筋肉痛になりそうなくらい重たい本を片手に、花を選び取る。

 かなり熟達してないと厳しそうだけれど、やってみてと言われたら以上、やるしかない。

 

 浮かない気分のまま、本のページをめくる。

 見開きページには、一つの花を説明している。

 左上には大きく、花の名前が書かれており、その下に、花の絵が描かれている。一番下には、咲く場所が簡潔に記されていた。

 右ページには、右ページには、『特徴』と『花言葉』の二つの欄が設けられていた。

 これを見ながら、リリーラに似合う花たちを選ぶってことか。

 ――気が遠くなりそうだ。

 

 私から見て、リリーラはどことなく、明るく。

 距離感が近い。

 表裏がない感じに見える。

 そこから、連想される花を選び取る――これでいこう。

 

 ページをめくって気づいたことがある。

 それは、店に置いている花には、花の名前の部分に丸がつけられている。最後の数ページに一覧があり、そこにも店に置いてある花には丸がついていた。

 

 さて、明るい性格が似合う花はなんだろう。

 赤色、オレンジ色、黄色、桃色——私が思う明るい色。

 

 店に置いてある花で……。

 店内を見渡すと、手前に黄色の花が目に入った。

 

 これは……。

 

 パラパラとページをめくり、この花に似た絵を発見した。

 クロッカス——花びらは細く、少しだけ開いているのが特徴的で、花言葉は、愛の懺悔。

 

 ……この花はやめよう。

 

 次に目に入ったのが、一つの壺にたくさん生けられたオステオスペルマム・キャンディフィールズ。

 この花は、咲くたびに花の色が変わるらしく、黄色からオレンジ色に変わるらしい。

 目の前に見えているのは、赤に近いオレンジ色。

 花言葉は、元気、無邪気。

 この花は、彼女にぴったりだ。

 ようやく一つの花が決まった。

 

 これをあと何回か繰り返さなければならないのか。一つの花を決めるだけでかなり時間をかけてしまった。そろそろお客様が来るみたいだし、一つだけで――。

 

 ……その考えはやめよう。

 

 花“たち”って言ったのだ。

 せめて、三つは決めよう。

 

 残りの二つをどうしようか。

 もう一度、店を見渡す。

 さっき明るい色を意識していたせいか、赤や黄色の花ばかりが見に入る。

 次の花は、周りを彩る花にしたい。だからこそ、さっき選んだ花と似たようなものは避けたい。

 白か、それに近い淡い感じの花。

 

 そういえば、さっき通り過ぎたところに白い花があった。

 ヒルガオ――花言葉は、縁、親しいつきあい。

 

 ……これだ。

 

 なんでさっき、気づかなかったのだろう。

 私が通り過ぎた場所に、置いてあった花。

 白く、小さく。

 でも、どこか親近感のお花。

 この花は、オステオスペルマム・キャンディフィールズを際立たせる違いない。

 花たちの二つ目は、これにしよう。

 

 最後の花を選ぶか。

 最後の花には、白とオレンジときたら反対の色を入れたい。

 青か紫を探しに、店内をぐるぐると見て回る。


「――ガーベラ」

 

 一目見た瞬間、花の名前が口からこぼれた。これしかないと、心が教えてくれた気がしだ。

 紫色のガーベラ——花言葉は、希望、前向き。

 これで、私の思う花たちが決まった。


「この三つにしてみました」

 

 私は、花たちをリリーラに渡した。


「なるほど。なるほどね。そう来ましたか。リリシラ様」

 

 リリーラは、不敵な笑みを浮かべなから花を眺める。


「お気になさらなかったですか?」

 

 不安になり、リリーラに尋ねた。


「いえいえ、王妃が思う、リリーラが分かっただけでもこの花たちには、十分に価値がありますから」

「そうですか……」

 

 リリーラはそう言ってくれたけれど、頭の中には不安の言葉が次々と湧き上がる。


「こんな感じでお願いします」

 

 店の扉が開く音と鈴の音が同時に鳴った。


「あの、もう入ってもよろしいのでしょうか?」

「いいですよ。ゆっくりしていってください」

 

 リリーラは女性をテーブルの席に誘導し、席に座らせる。


「今回は、リリシラ様がいらっしゃるんですね」

「そうなんですよ。リリシラ様の選んだ花たちは、最高ですよ」

「あのー、お願いできないでしょうか?」

 

 女性は、か細い声で私に尋ねた。


「ええ、任せてください」

 

 まずは、女性の特徴から。

 可憐で、今にも散ってしまいそうな美しさ。

 雪のような白い肌。

 今回は、白を多めにして。

 他の色を選ぶとしても、淡い色合いにしてみよう。

 

 ――鈴蘭。

 まず、一つ目はこれにしよう。

 一本の茎に、たくさんの白い花がついていて、名前の通り鈴の姿に似ている。

 花言葉は、純潔、純粋。

 まるで彼女自身に映したような、お似合いの花。

 

 続いて、ツマトリソウ。

 星のような形をした白い花弁。

 花言葉は、純真。

 

 その次に選んだのは、シャク。

 この花は、見た目で選んだ。

 どこか、儚く、背景に溶け込んでしまいそうなほど、小さい花が集まっていて、絨毯模様にも見える。

 花言葉は、感謝、優雅。

 

 三本目は、チョウノスケソウ。

 白い花弁に、黄色の何かがせり出している見た目の花。

 花言葉は、清らかな愛、純潔。

 これで、三本決まった。

 しかし、白だけで味気ない。

 何か、派手で可愛い花を加えたいところ。

 

 うーん。

 店内をぐるぐると歩き回る。

 

 うーん……。

 店内を眺める。

 

 うん。

 思いつかない。

 

 彼女が思わず驚くような、そんな色の花にしたいのに、何も引っかからない。

 時間だけが過ぎてゆく。


「あの、すみません」

 

 彼女が話しかけてきた。


「わたくし、カラシーウと言います。今、どんな感じですか?」

「ええ……最後の花選びに苦戦しているところですね。この色入れて欲しいなとかありますか?」

 

 ダメもとで、カラシーウに聞いてみる。


「白……。白です」

 

 ――白か。

 それだけじゃ足りないだけれど、カラシーウがそう言っているから、このまま渡そうかな。

 

 ――ん?

 カラシーウの後ろ方に、うっすらと見える桃色の花が目に留まった。


「ちょっと待っててください」

 

 私は小走りで赤い花の方へと向かい、何かに憑かれたように本をめくり始めた。

 

 ――ポインセチア。

 赤い葉が花のように重なり合って見える、大きな花。

 花言葉は、祝福、聖夜、私の心は燃えている、幸運を祈る。

 最後の二つは、私の心を表しているみたいだ。


「カラシーウさん、こちらになりました」

「ありがとうございます。この赤い花……わたくに合うのでしょうか?」

「ごめんなさい……分からないです。でも、合うと思います」

「そうですね。リリシラ様がそう言ってくださるのなら、そうに違いありません……」

 

 カラシーウは深くお辞儀をして、店を後にした。

 その直後、まるで入れ替わるようにして、新たな客人が店に現れた。


「初めまして、リリシラ様」

「ええ、始めまして」

「今日は、協働(きょうどう)ですか?」

「ええ」

「では、お願いしようかしら。明日、主人が誕生日なんです。その記念に何か花を渡したくて来たのですよ。主人に似合う花を選んでいただけませんか?」

「ええ、構いませんよ。その方はどんな方なんですか?」

「なんと言いますか……心が繊細で力持ち。私のちょっとに感情の起伏にも、先回りして気づいてくれる人なんです」

「――やってみます」

 

 二人目にして、かなり難しいお題が出た。

 心が繊細ってことは、花の選びによっては傷つけてしまう可能性もある。

 

 ……どうしようか。

 

 本のページをパラパラとめくる。

 どうせなら、花を見て元気になれるようなものを選びたい。

 めくる中で、とある花が目に入った。

 

 ――すみれ。

 花言葉は、誠実、小さな幸せ。

 小さく、可愛らしい絵が描かれている。

 これなら、傷つけずに楽しめるに違いない。

 

 店の中を見渡すと、紫色のすみれが目に入った。

 絵の通り、小さく、他の花と混じり合うように佇んでいた。

 

 次に白梅(はくばい)を選びたかった。

 しかし、本の名前の所に丸が付いていなかった。

 一応、店内を見て回ったが、見当たらなかった。

 

 探している中で、黄色のパンジーが気になった。

 見た目は、小動物のような顔つきで可愛い。

 花言葉は、つつましい幸せ。

 すべての花が決まり、リリーラに渡して花束の形にしてもらい、彼女に渡した。


「どうでしょうか?」

「ずいぶん、色が華やかですね」

「そうですね。自然と選んでいたら、こうなっちゃいました」

「こんなに華やかなら、主人も笑顔になると思います。ありがとうございます。リリシラ様」

 

 二人目の客人が店を出た、数時間後のことだった。

 ぞろぞろと人々がやってきた。十人か、二十人はいたように思う。

 みんな、王妃が選んだ花々を求めていて、その対応に追われることとなった。

 

 王宮に戻った時には、気絶してしいそうなくらい疲弊していた。

 あんなに動いたのは、初めてだった。

 

 花屋から王宮へ戻るとき、ふと気づいたことがある。

 私が最初にルドウィックからオレンジ色のマフラーの話を聞いたとき、涙があれほど溢れたのは、もういないと思っていた父の存在を身近に感じたからだ。

 

 そして同時に、やはりもういないのだと、改めて認識してしまったから。

 このマフラーを見るたびに、父との思い出が胸の奥で駆け巡る。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ