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第23話「クリスマス~昔の私に会えるなら~」

 二つ王国の合わせたような城下町。

 街灯が照らす中、私は現地の人々と手を取り合い、子どもたちの贈り物を届けるサンタクロースの姿を思い描いていた。


「リリシラさん、今回は王様と王妃が待っています」


 視線を下に向けると、王様と王妃が手を振っているようにハンドベルを鳴らしている。

 普段は子どもたちのプレゼントを渡しに終えたあとに少し顔を見せるだけという。

 確かにおかしい。

 そういえば、お姫様が十歳と言っていた。

 最後だから見に来たということなのかな。

 王様と王妃が待っている付近にソリを止めた。


「サンタクロースさん、これを渡してはもらえないでしょうか?」


 王妃がソリに駆け寄り、渡されたのは円筒の赤い箱。


「この中には白い帽子が入っています」


 王妃は手を背に回し、傷のある手を隠した。


「慣れないことはするものじゃないわね……」


 ぽつりとこぼした。


「ええ、構いませんよ」

「サンタさん?」

「ほうほう、王妃の為とあれば」


 サンタクロースが言いそうな台詞を自分が出せる野太い声で言ってみた。

 実際、他のサンタクロースが言うのか気になる。


「それと、最後に、最後に渡してくださいね」


 王妃は「最後」を念押しして言う。

 ソリを降り、現地の人と一緒に仕分けをし、そのまま彼らと配りに向かった。ルナセインと私で、十個ずつ手渡していく。


 扉をノックすると、店の小窓が勢いよく開いた。


「おお、サンタさんだ」


 すぐに小窓が閉まった。


「お父さん、サンタクロース来たって!」


 店の外なのに声が響く。

 階段を駆け下りる足音が聞こえ、勢いよく扉が開いた。


「お久しぶりです。サンタさん」


 女性が息を整えながら答えた。


「あたいのプレゼント」


 扉の奥から女の子の声が飛んできた。


「どうしているの?」


 女性が扉の向こうの娘に話しかける。


「だって、お母さんがあんな大きい声で言ったもん。起きちゃったもん」

「ごめん。止められなかった」

「もういいですよ、お父さん。それで……それがプレゼントなんですね?」


 女性は扉を少し閉じながら、私に尋ねる。


「ええ、どうぞ」


 扉がゆっくり開き、女の子の足元が見える。


「待って、サンタクロースいるじゃん」

「そう言っているでしょ。ほら、サンタさんからプレゼントを貰ったし、扉閉じるよ」

「もうちょっと見たーい」

「終了でーす」


 扉が閉まった。……なんだったんだ、今のは。


 仕方なく次の場所へ向かうことにした。


 さっきの家では、サンタクロースの出番なんて、ほとんど無かった。

 あの家族のペースに巻き込まれて、気づけばプレゼントはもう手渡されていた。

 さて、気を取り直して次の家へ行くとしよう。



 まだ外なのに、家の中から笑い声が漏れている。ここは随分賑やかだ。

 扉をノックすると、足音が聞こえてきた。


「ほっ、ほっ、サンタさんじゃ」

「あっ、サンタさんだ」

「サンタじゃん」

「サンタ、来て、来て」


 子どもに引っ張れ家の中に入った。

 目の前には子どもが五人立っていた。


「うちの親は、完全に夢の中さ。あれだけ、お酒を飲んでいたら、こうなるのも仕方がないよね、サンタさん」


 五人の中で一番身長が高い人が口にした。

 同情はしたいが、それでは親の誇りは消えてしまうだろう。

 私はそのことには何も言わず、プレゼントを渡した。


「ありがとう、サンタさん。では、一年後にお願いします」


 二番目に背の高い人物が言葉を発すると、皆が軽く頭を下げた。

 一番背の高い人物は、どこか不満げな表情を浮かべながら、控えめにお辞儀をした。

 残り、あと四つ。


 お姫様を除けば、あと三つで、次の場所で終わりだ。

 手紙に記された内容は同じで、三つ子のようだ。


 扉を開けると、三つ子の両親が出迎えてくれた。


「サンタクロースさん、こちらです」


 案内された大広間に入ると、三人の子どもたちが奇妙なポーズで待ち構えていた。

 真ん中の子が両隣の手を握り、左右の子たちは片手と両足を床につけてバランスを取っている。遠くから見ると、まるで扇子が広がっているような形だ。


「サ、サ、サンタさん……ど、ど、どうですか……?」


 小さい腕をぷるぷると震わせながら尋ねてきた。

 どう反応すればいいのか、正直判らない。


「これは(おうぎ)というもので、サンタさんもやったことがあると思うんですよ」


 三子の父親は耳元で囁いた。

 でも、私は納得できない。

 こういう舞踊(ぶよう)のようなものは、見るものであって、自分でやるものじゃないと思っていた。


「サンタさん、困らしたわね」


 三つ子の母親が茶化すように言う。


「じゃ、サンタさんにプレゼントを貰いましょうか」


 彼女が言うと、三つ子は縦に並び始めた。

 私は一人、一人に一言を言って渡した。


「ありがとうございます、サンタクロースさん」


 三つ子はそろって口に出し、私はその家をあとにした。


 これで残り一つ。あとはお姫様のプレゼント。


 まさか、ルドウィックでやっていたことを私がやることになるとは微塵も思ってもみなかった。

 彼女も私と同じで「サンタさんに会いたい」と書いているのだろう。


 ……まったく手間のかかる願いだ。


 王宮に足に踏み入れた。

 入り口付近で戸惑っていた私のもとに、執事が近づいてきて、お姫様の居場所を丁寧に教えてくれた。


 部屋の扉をそっと開けると、そよ風に髪をなびかせながら、お姫様が窓際で空を眺めていた。


「こんばんは、サンタクロースさん」


 お姫様は一歩前へ出ると、スカートの端を指先でつまみ、ゆるやかに膝を折った。


「初めまして……お姫様」

「あたくしの名前はミッシェルって言うの、ミッシェルって呼んでくださいな」

「――ミッシェルさん」

「ミッシェル」


 両手を下げ駄々をこねる。


「ミッシェル」

「そうそう。それでサンタクロースさん、それってあたくしの?」


 ミッシェルは円筒の箱に指を指した。


「――そうじゃ」


 返しはこれで良いのかな?

 もうちょっと長めの答えの方が良かったのかな。


「ありがとう」


 突然ミッシェルは抱きついてきた。

 子どもながら強い力。


「あのね、あのね。あたくし、サンタクロースに会いたかったの。手紙にも書いたんだよ」

「へえ、そう……嬉しい、嬉しいじゃな」


 なんとか、サンタクロースらしい言葉には切り替えられたものの、どこかおかしかった気がする。


「開けていい?」

「ええ」


 あっ、言ってしまった。

 しかし、ミッシェルは気にせずに円筒の箱を開けている。


「……白い帽子? どうして? サンタさん」

「それはじゃな。日差しの強いこの地域に一番うってつけだと思ったのじゃ。それに、ミッシェルに似合うと思ってな」

「サンタさんに、あたくしの名前を言われた。なんてご褒美を頂いているのかしら」


 ミッシェルは白い帽子をかぶる。


「どう、似合ってる?」

「似合っております」

「良かった」


 ニコっと微笑みを見せた。


「最後に三つの質問に答えて頂戴」

「なんじゃ、答えられるかな?」

「一つ、どこから来ましたか?」

「それは……」


 こういう時ってなんと答えればいいのだろう。

 「サンタクロース王国」とおとぎ話のようにファンタジーで濁すか、本当の国――リュナリア王国と言うべきなのか。

 十歳の私に向けてなら、濁さずに真っ直ぐ答えてほしい。あの頃は、嘘や隠し事にすぐ気づいて、嫌がったからね。


「雪と森に囲まれたリュナリア王国というところじゃ」

「ふーん、次ね」


 ……あれ? 食い気味に王国についての質問に聞いてこないし、王国に対して興味がない?

 それとも、次の質問で聞いてくるのかな?

 

「二つ目は、うーん……」


 ミッシェルは上を見上げ、考えている。


「……好きな食べ物」


 王国についての質問が来なかった。

 ミッシェル的にはあの答えで満足したのかな……。


「……ショートケーキとか、ロールケーキ、チョコレートケーキが好きじゃな」

「あたくしと一緒でお菓子が好きなのね。最後の質問。サンタさんはサンタクロースからプレゼンを貰ったことある?」

「ええ、あります。オレンジ色のマフラーをね」


 最後の質問だけ野太い声を忘れて、自分の声で発言してしまったが、ミッシェルは優しく微笑んだ。


「質問は終わり。楽しかったわ。執事、聞いているのでしょ? サンタクロースを帰してあげて」

「お嬢様、今、寝ているはずです。良い子ですから」


 ミッシェルは「はいはい」と言いながらベッドに入った。


「寝言よ」

「わかりました。ミッシェル様」


 扉が開いた。


「サンタクロースさん、終わったようですね」

「ええ」


 王宮を出るとルナセインが待っていた。


「こちらは終わりましたよ、帰りましょうか」

「ええ」


 ソリに乗り込んだ。


「ところで、リリシラ。少し時間がかかったようですが、お嬢様とは何を話されたのですか?」

「内緒よ」


 ルナセインには教えない。あれは、私にしか答えられない質問だ。

 過去の自分と対面したとき、初めて口にできる答え。

 あまりに恥ずかしくて、今はまだ言葉にすることさえできないから。

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