第22話「クリスマス~斜面の町~」
次の場所は、山の斜面に家を建てられている地域で、山の頂上付近に村長に家があるらしい。村長の家族は大家族で子どもがたくさんいる。
今回の三か所の中で一番時間がかかるとルナセインが言っていた。
山の斜面は足取りを重くし、屋上の付近の家は絶望感を与えますよと格言みたいな形で言っていた。
ソリを平地に置いて、斜面のある民家に向かった。
斜面にあるので民家は少なく、大体三十軒しかないので、プレゼントの数は他のものよりも少ない。
とはいうものの、運びやすいわけではない。
一軒ごとの子どもの人数が多く、渡すプレゼントは全部で五十個にもなる。
しかも、現地の人たちは、自分が転んでしまうと仕事に支障が出るため、手を貸してはくれないということだ。
「リリシラさん、あの通りのプレゼントを渡し終えたら休憩しましょう」
ルナセインは家々が並ぶ通りを指さしながら口にした。
「ええ、そうしましょう」
一番手前の家まであと半分。
半分登るぐらいまではまだ、体力は残っている。
しかし、地面に足に踏み入れるたびに足に負担が増していく。
つらい。
しんどい。
……歩くのをやめたい。
そう思うたびに足取りが重くなる。
ルナセインの方を見ると。
もう着いたようで、やりきった表情で私のことを見ている……いいな、代わってほしい。
「リリシラさん、あともうちょっとですよ。四歩ですよ」
……何を言っているの、ルナセインさん。
私が歩くと八歩。
二倍近くも歩かないといけない。
ルナセインよりも二倍疲れるということだ。
しかし……もうこのことについて考えない。
考え続けても、結局は足が止まるだけ。
そう割り切って、前に、前へと足を運んだ。
「リリシラさん、頑張りましたね」
「はあ、はあ……ええ」
私はその場に座り込んだ。
こんなに座ることが心地いいと感じたのは初めて。
少しお尻が汚れてしまったけれど、座っている間の回復していく感覚の方が、ずっと勝っていた。
ある程度体力が戻ったところで、一番手前の家に向かった。
摺りガラスと木の枠を組み合わせた扉だった。
軽く叩くと、隣の扉が当たり、思いのほか大きな音が響く。
左の扉が右へと動き、男性が現れた。
「ああ、サンタクロースですか。子どもたちのプレゼントを渡しに来たのですよね?」
「ほっ、ほっ、そうじゃ」
担いでいた袋から子供たちのプレゼントを探す。
袋の中には小袋だらけ。
数が多く、皆がかくれんぼでもしているみたいに埋もれている。
何とか見つけて、男性に渡した。
「こちらですね」
「間違いないです。うちの子どもたちのプレゼントです。ありがとうございます」
男性はプレゼントを三つの袋を腕に抱えながら、頭を下げた。
「それと、君のじゃ」
私はクッキーに入った袋を二つ渡した。
渡した途端、男性の瞳から水が溢れだした。
「……これ、貰って良いのですね?」
涙を流しながら私に尋ねる。
「ええ、どうぞ……」
彼の状況に、思わず素に戻ってしまった。
「なんですかね、報われた気がして」
彼の涙がとどまることを知らない。
「では、次のところに向かいますね」
「お願いします……」
彼の涙を止められないまま、次の場所に向かった。
次の場所は、三軒先の所で少し小さい家だった。
扉をノックしようと前に立つと、扉が開く。
「サンタさん……ここで渡してもらっても、よろしいですか?」
「ええ、構いませんよ」
袋から取り出し、二袋を渡した。
「すいませんね、こんなところで渡してもらって……うちの子たち、警戒心が強くて、他の人が家に入っちゃうと、起きてしまうんですよ」
「気になさらないでください。色んな事情がありますから。それと、こちらクッキーです。お二人でこっそり召し上がってください」
女性は一つの袋を開け、口に入れた。
「……おいしい。頑張ってください、サンタさん」
と女性は言って、扉はしまった。
次の場所がこの通りの最後の所だ。
向かうと、家の前で二人が立って待っていた。
どうやら、待ちきれずに外に出てきてしまったようだ。
「ご苦労様です、サンタクロースさん」
二人は深々と頭を下げた。
「サンタクロースとして当然のことをしているだけです」
私は袋の中から、小袋を四つとクッキー入りの袋を二つ取り出し、二人に手渡した。
「奥さん、クッキーで一杯いかがですか?」
「いいわね。サンタクロースクッキーに乾杯ね……」
二人ともお互いを見つめ合っている。
「じゃあ、次の所に行っていますね」
私が次の場所へ向かおうと足を踏み出した瞬間、二人は声を合わせて。
「サンタさん、頑張ってくださーい」
二人の声に背中を押され、私は次の家へと歩き出した。
次の場所は離れていて、ゆるやかな斜面が人がっている。足的にはまだ大丈夫だけれど、気持ちは少し疲れが見えている。
プレゼントは、残り十六個で、後三か所だ。
もう一度気を引き締めて前に進んだ。
人が近づいてきた。
「うちの子どものプレゼント。あんたが持っているのだろう?」
「ええ」
「ここで待っていてください。あとは、親の出番です」
「親に任せてください、サンタクロースさん」
親と名乗る人が、私の持っている地図を広げて、仕分けし始めた。
その様子に気付いたのか、四人の男女が駆け寄ってきた。
「うちの子も、うちの子も」と口々に言っていたので、彼らもまた、親なのだろう。
各々がプレゼントの入った小袋と、クッキーの入った袋を腕に抱えていた。
穏やかな笑みを浮かべながら、家の中に入っていった。
おそらく、ルナセインが隣の家へ入っていく物音を聞いて、気になって様子を見に来てくれたのだろう……本当に助かった。
「大丈夫ですか、リリシラさん」
地面に座り込んでいる私を見て、ルナセインが近づいてきた。
「ええ、平気よ。ルナセインさんは終わったのですか?」
「いや、まだ。村長の家に届けてない」
村長の家と言うことは、山を登るということだ。
斜面の角度をきつく、道の真ん中には紐が張られ、握りながら渡らないといけない。
「リリシラさん、ここで待っていて下さい。私が行きます」
「嫌よ。王妃として最後までやり切ります」
「リリシラさん……一緒に行きましょう」
ルナセインは手を差し伸ばした。
私はその手を握り、体を起こした。
息を整え、村長の家へと向かった。
私は全てのプレゼントを渡し終え、ルナセインだけが袋を担いでいる。
その背中には、少し疲れた様子を見せている。
紐を引っ張り、なんとか前に進もうとする姿が心配になる。
「ルナセイン、半分分けてもらえないでしょうか?」
「これは、私が引き受けたものですから。最後までやり遂げます」
「意地をならないでよ……バカ」
私の口から飛んでもない言葉が飛び出してしまった。
普段なら、そんな言葉を発しないのに。
この場では、息を吐くようにこぼれてしまった。
「お願いします……」
ルナセインは袋の中から小袋を二つ取り出し、私が担いでいた大きい袋に入れて渡した。
「承りました」
私たちは紐に引っ張り前に進んだ。
「リリシラさん、私の両親は小さい頃に亡くなって、親との思い出がほとんど残っていないです。でも、今ふと『助け合い』という言葉を思い出したのです」
「助け合い、ね……」
見上げた空はあまりにも綺麗でぼやけていて幻想的だった。
なんとか登り終え、村長の家にたどり着いた。
ルナセインが扉をノックすると、村長が現れた。
「本当にお疲れ様です」
村長に案内されたのは子どもたちが寝ている所だった。
「子どもたちの枕元に、プレゼントを置いていただけますか?」
「ほっほっ、構いませんぞ」
不安が頭を過る。
子どもたちの名前は知っているけれど、誰が誰なのか、顔と一致しない。
それらしい場所に置いてはいるものの、もし間違っていたらどうしよう――そう思ってルナセインの方を見ると、彼は平然とした顔で、迷いなく枕元にプレゼントを置いていた。
その姿を見た瞬間、私の中の迷いが無くなった。
私も枕元にプレゼントを置き始めた。
すべて置き終え、クッキーを渡すと、村長は大変満足な表情をしていた。
帰りの際、私たちの姿が見えなくなるまで、ずっと手を振ってくれていた。





