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第20話「清算の旅~花の都~」

 最後に訪れるフラッツェリアは別名、花の都と呼ばれていて、花の聖地――オリベリアの近い所にあるらしい。前回、訪れていないこともあって緊張する。


 リリーラから聞いているのは、最適な環境で調整されている『花の家』というところがあるのと、フラッツェリアの人々は花を一目見ただけで花の状態と花の名前がわかるみたいで、動く図鑑たちと呼ばれていると言っていた。

 さきほど訪れた野菜の楽園――ジアトリノに近い所にあるらしく、そろそろ到着するみたいだ。

 馬車は止まり扉を叩く音が聞こえた。

 時計を見ると、長針が一周半のところを指していた。


「リリシラ様、お先に出てください」

「ええ……」


 ラスファールの言う通り、私だけ外に出た。

 目の前に一人の男の子が立っていた。

 白い服に豪華な装飾が描かれていて、赤いマントを羽織っている。

 この格好は王子っぽい。


「あなたが、サンタクロース王妃のリリシラ様ですか?」

「ええ」

(ひと)(つき)(まえ)、オリベリアに何しに来た?」

「サンタクロースに必要な花を摘みに来ただけです」

「なんの花だ?」

「デンファレとキョウチクトウ……です」

「食べられる花と毒の花……どちらも見た目が似ている。なぜその花を選んだ?」

「食べられる花はマフィンに入れるためで、毒の花は……注意喚起ってことで押し花にしました」

「マフィンの中に花? どんな加工を施したんだ?」

「花を乾燥させて、砂糖菓子にしました」

「クリスタライズドフラワーってことか」

「ええ……そんなところです」


 あれってクリスタライズドフラワーって言うんだ……かっこいい。あとで作ることがあったら、そっちの名前を使おう。


「良い話を聞いた。もういいぞ、他の人も外に出てください」


 男の子はそう言って、ラスファールに扉を開けてと目配せした。

 ラスファールは懐疑的な表情を見せつつも、馬車の扉を開けた。


「リリシラさん。そんなロマンティックな方だったんですね。花をお菓子の中に、想像するだけでわくわくしますね」


 ルナセインは私を見て言う。


「花を菓子に。嫁さんに良い土産話になります」


 ラグマールも私の目を見て言った。

 ラスファールも同じことを言うんじゃないかと思って彼を見ると、ラスファールは空を見上げていた。


「リシュワースに付いてきて下さい。王宮に迎えます」

「ええ」


 リシュワースは歩き出し、私たちはその背中に付いていった。

 王宮の外観は、ところどころに花の模様が描かれていて、さすが花の都と呼ばれているだけはある。

 王宮の中にも花の模様があちこちに散りばめられていた。

 リシュワースは巨大の扉の前で足を止める。

 巨大の扉が開く。


「父、母上、リュナリア王国の方がお見えになりました」


 リシュワースは席を指定した。

 席は横一列に並んでおり、フラッツェリアの王様近くにルナセイン、その隣に私、奥にラグマール、一番奥にラスファールが座った。


「リシュワース、リュナリア王国の方々に挨拶は済ませましたか?」

「……あっ、忘れておりました」


 リシュワースは私たちの方へ振り向く。


「フラッツェリア王子のリシュワースと申します。好きな花はボタン。わかりますよね? 皆さん!」


 リシュワースは前かがみになって、私たちに問いかけた。


 どの花か、思い浮かばない。

 何か言わないといけない気がする。


「わかる……わかります」


 私が答えると、吐息が伝わるほどの距離で、前かがみになってじっと見つめてきた。


「やっぱり、わかりますよね。どんなところですか?」


 思わず首が後ろに引いてしまう。


「リシュワース、お金を頂いて頂戴ね」

「母上、わかりました。リュナリア王国の皆さま、お金を頂いてもよろしいですか?」

「ええ」


 ルナセインはリシュワースにお金の入った袋を渡した。


「母上、お金を頂きました」

「では、父上に渡してください」

「貰い受け……ようか」


 緊張しているのか、言葉がおかしい。


「リリシラさん、あまり気になさらないでくださいね。緊張しているだけですから」


 私が懐疑的にフラッツェリア王を見つめていたからか、注釈してくれた。

 それを聞いて、フラッツェリア王は慌てふためいている。


「リシュワース、花の家を見せてあげて」

「わかりました、母上」


 王宮を出て、ある建物に入った。

 レンガとガラスが組み合わされた不思議な建物。

 太陽の光がレンガで少し遮られていて神秘的な光景だ。


「花の家では、最適な温度、最適な光、最適な土壌があり、花がもっとも輝く育て方をしています」


 どの花も言葉を失うほどに美しい。

 私の後ろで、ラグマールが何やら話している。


「ラスファール、この花。からくり人形の潤滑油として使っているんだよ」

「へえ、この綺麗な花が、潤滑油になるのですね」

「今、なんて言いましたか?」

「からくり人形の動きを軽快にするために、潤滑油として使うんですよ」

「ぼ、僕のからくり人形にも使われると思いますか?」


 先頭にいるリシュワースは後ろに振り向き、ラグマールに尋ねた。


「リュナリア王国で作っている物だったら使われていると思います……」


 ラグマールは自信なさげに言う。

 確か、他で作っているからくり人形は潤滑油をさしていない物も多いのだとか。

 費用も跳ね上がる。

 元々、潤滑油をからくり人形にさすことを知らない人もいるみたいで、自信がないのは仕方がないこと。


「花で潤滑油が出来るんですね」


 リシュワースはラグマールの両手を握り顔に近づける。


「そうなんだよ」


 ラグマールは戸惑っている。

 ちなみにルナセインは輝いた目で手招きしている。

 私に向けてやっているのだろうか?

 試しに近づいてみると、手の動きがさらに速くなった。

 どうやら、やはり私に向けていたようだ。


「リリシラさん、見てくださいこの花、いいですよね?」

「ええ……いいと思います」


 ルナセインがこんなに花に興味を持っているのは初めてだ。

 オレンジ色に近い黄色の花で、先端が尖っていて、どこか凛々しい。

 この花にこの花に惹かれるのもわかる。


「へえ、かっこいいですね」


 ラスファールが私の背後からひょっこり顔を出して言った。


「へゃ⁉ ラ、ラスファインさん?」

「僕、困らせることしました?」


 ラスファインは首をかしげて尋ねる。


「だって……急に出てきたから」

「自重します」

「ラスファイン、この花かっこいいよね?」


 ルナセインが指さして言う。


「わかります」

「この……」


 ルナセインは、延々とラスファインにこの花の魅力を語っていた。

 それを聞くラスファインは、明らかに気乗りしない様子で、いやいやながら耳を傾けていた。


 ……なんだか、ちょっと可哀そう。


 花の家をひと通り見終え、王宮へ戻ってきた。


「リリシラさん、花の家はどうでしたか?」

「ええ、良かったです。どの花も美しく、魅力的で輝いていました」

「良かったわ」


 フラッツェリアの王妃は太陽のように微笑んだ。

 そして、一言添えた。


「聖なる夜、よろしくお願いしますね、サンタクロースの方々」

「……ええ、お任せください」


 私たちはそろって答えた。

 直々にサンタクロースと名指しされると、重圧がのしかかり、不安がじわじわと湧いてきた。

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