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第19話「清算の旅~偽りの手紙~」

 次の野菜の楽園――ジアトリノには、ラグマールの親友がいて時間が余れば寄りたいと言っていた。

 手紙でしか交流したことがないらしく、実際に会うのは初めてらしい。

 書かれている文字は小さく丸っぽい字で、女性の方だとラグマールは考えている。

 最近、文字が丸みを増していて、包容力がある人だろうとも言っていた。


「皆さん着きましたよ」


 ラスファールが馬車の扉を開くと、真っ先にラグマールが外に飛び出した。


「ここが、あの人が住んでいる所」


 ラグマールは目に焼き付けるように周りをじっくりと見渡している。


「私たちも、行きましょうか。リリシラさん」

「ええ」


 外に出ると、心地よい風が吹く。


 清算は、前回見積もりをしたところで行うことになっている。


 確か、白い髭が床に付く長さの長老。

 ……タスリスさんだ。

 この方からもらった干し野菜は、とても美味しさが凝縮されていた。


 丸太と紐で組み合わされた階段を一段、一段踏みしめながら登る。

 ルナセインは扉を叩く。


「来てくれましたか。さあさあ、こちらに」

「失礼します」


 私たちは近くにある椅子に腰を下ろした。

 タスリスは四つのコップにお茶を注ぎ、ひとつずつ手渡した。

 ほんのりとうもろこしの臭いがする。


「こちらです」


 ルナセインはお金の入った袋をタスリスに渡した。


「確かに、頂きました。つかぬことをお聞きしてもよろしいですか?」

「ええ。構いませんよ」


 と、ルナセインは答える。


「あの方は、どなたですか?」


 タスリスは視線をその人に向けながらルナセインに尋ねた。


「あの方は、からくり人形・時計屋を営んでいるラグマールさんです」


 ルナセインは簡単に説明した。


「あのからくり人形を作る方でしたか」

「改めまして、ラグマールと言います……」


 ラグマールは立ち上がり、自分の名を口に出した後、一拍置いて、タスリスに尋ねる。


「……ヨスメリアという方をご存知でしょうか。 ジアトリノにいると書いてあったのですが……」

「存じております。ジアトリノの長ですからね。ご案内いたします」


 ヨスメリアという言葉を聞いた瞬間。

 タスリスは目が泳いでいるように見えた。

 何かあるのだろうか。


「少しお時間をもらってもいいですか? 急に来られるとひどく驚いてしまいますので、ここでお待ちください」


 タスリスは飛び出して行ってしまった。


「あそこまで焦って行く必要があるのかな」


 ラスファールは天井を見上げて呟く。


「きっと、最高の会場を作っているんだよ。なにしろ三十年もやりとりしている仲だからな」

「……三十年。僕二人分も?」

「そんなに若かったのか?」

「はい。まあ、若いって言われるような年齢でもないですけれどね」


 ラスファールは苦笑しながら、言葉をこぼした。


「お、お待たせしました」


 タスリスさんが花を抱えて戻ってきた。

 菊、リンドウ、アネモネ。


 ……タスリスさんは、粋なことする。


 私は深く息を吸って、大きく口を開いた。


「皆さん行きましょうか。ヨスメリアがいるお家へ」


 ヨスメリアが住んでいる家は、ここから少し遠い所にあり、ツリーハウスではなく、レンガ造りの一軒家。

 タスリスは、その家の扉を叩く。

 扉が開き、一人の若い女性が出てきた。


「ラグマールさんお久しぶりです。ここではゆっくりお話はできないのでしょうから家の中にお入りください」

「一つ聞いてもよろしいですか? ヨスメリアさん」

「あなたは……リリシラ様ですね」

「ええ。あなた、ヨスメリアさんではないですよね?」

「何を言っているのですか、リリシラさん。ヨスメリアさんに失礼ですよ」

「でも……私、気づいてしまったんです。タスリスさんが花を抱えて持ってきたことで、わかってしまいました。もう……」


 そう言いかけると、彼女は口を開いた。


「ヨスメリアは、私の母です。母は……」

 彼女が最後の言葉を口にする前に、ラグマールは私に向かって優しく言った。

「二人にしてください。ゆっくりお話をしたいので」


 彼女とラグマールは家の中に入り扉を閉めた。


「ああ、リリシラ様、怒らせちゃった。あんなことを口走っちゃうから」


 ラスファールは不安を漏らした。


「仕方がないでしょ。察しちゃったのよ。あそこまで直接言うつもりなかったの。でも、彼女に嘘をついて欲しくなかったから……それで直接言っちゃいました」

「どうして、リリシラさんはわかったのですか? 僕は気付かなかった……」


 タスリスさんが花を抱えた時点でただ事じゃないなって感じたの。花を見たら、確信に変わったわ」


「わかりすぎましたかね。元から打ち明ける予定でした……この花も打ち明ける理由の一つでした。花に少し造詣があればわかるものですもんね」

「ええ。その通りです。それとヨスメリアさんがこの花たちを選ぶとは思わなかったというのもあります」

「やっぱり無理でしたか」


 タスリスは肩をすくめ、苦笑いをこぼした。


「皆さん、お時間を取らせました」


 扉が開き、ラグマールと女性が姿を見せた。

 女性はラグマールの前に出て、口を開いた。


「皆さんに、嘘をつこうとしていました。すみませんでした。私の名前はモンステラと申します。母は、母は……妖精になりました。妖精は手紙を書くことはできません。今から見に行きませんか? 母が今、住んでいる場所へ」


 私たちはモンステラに付いていき、辿り着いた先には、一つの石が置かれていた。

 石のまわりには白い花が咲き誇り、一筋の光が静かに差していた。

 ラグマールは、石の前に駆け寄り、話し始めた。


「私たちはお邪魔なので、私の家で待っていましょうか」

「ええ、そうしましょう。二人だけの時間にしたいですから」


 ラグマールが戻ってくる間、モンステラはラグマールと手紙をやりとりすることになった経緯を語ってくれた。


「五、六年前に母――ヨスメリアが亡くなり、途方に暮れていました。そんなとき、手紙が届いたんです。大体今ぐらいの時期ですね。母はいつも欠かさず読んでいて、そのときは決まって笑顔でした。その手紙を読んでみたんです。母があんなに笑顔になる手紙がどんな内容か気になってね。とても美しく書かれていて、話も面白く手元に置いておきたいものでした。毎年、毎年、返しの手紙を忘れずにやっていたことを思い出して、ラグマール宛に書いてみることにしました。もちろん、母を真似てね。ラグマールさんが書いた手紙を読んでいるとき、返しの手紙を書いているときは、母が近くにいる気がして……。次の年も、その次の年も、繰り返して今に至ります。なんて情けない娘なのでしょうね……。母と偽って手紙をやり取りしているなんて、大人なのに、まるで子どもみたい……」


 そう言って、モンステラは言葉を締めくくった。

 ラグマールが戻ってきて、次の花の都――フラッツェリアに向かうため、馬車に乗り込んだ。

 馬車が動き出してしばらくすると、声が聞こえた。


「ラグマールさん、私……私やめます。お元気で」


 モンステラの声だった。

 扉を開けてジアトリノの方を見ると、モンステラが息を整えながら立っていた。

 ラグマールは外に顔を出し、大きな声でモンステラに伝えた。


「モンステラさん、手紙お待ちしております。あなたの言葉で」


 私たちに向けてラグマールは謝罪を添えた。


「大声で、わがままなこと言ってしまいました。すみません、リリシラ様、ルナセイン様」

「今回は許しましょう、ね? リリシラさん」

「ええ、許します」

「……ありがとうございます」


 ラグマールは涙と感謝の言葉をこぼした。

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