第17話「清算の旅~聖夜を待つ、甘いプレゼンテーション~」
三か所目、ケートゥン王国には私の心残りがある。それは、ナコッタから私に食べてほしいと言われたプリンが食べられなかったことだ。見積もりが終わってから今日まで、プリンを食べるのを我慢している。ナコッタが選んだプリンを食べてからと子どものような考え方をしている。
「……プリン」
「ケートゥン王国でプリンを食べたいのですか?」
「ち、違うわ。ルナセイン」
「最近、避けていますよね。プリン」
「偶然。偶然よ」
小さく、ファンファーレが聞こえる。
馬車がケートゥン王国に近づけば近づくほど音が大きくなる。
なにかの警戒音かしら。
それとも、歓迎の音かしら。
「ケートゥン王国って、もうすぐ着くのですよね」
「ええ、お菓子の匂いが強くなっていますから」
相変わらず、嗅覚が冴えている。
「甘いものが苦手ですよね?」
ルナセインがラグマールに尋ねた。
「そうなんですよ。年を取ると、甘いものが受け付けなくなってきてね。昔は甘いものが好きだったのにね」
「私たちもそうなってしまうのでしょうか?」
私は心配になりラグマールに尋ねた。
「それはわからないです。うちの妻は未だに甘いものが好きですから」
「そうなんですか」
「どんなケーキにも生クリームを追加するんです。小皿から溢れるぐらい」
「……それは凄いですね」
私たちよりもよっぽど甘いもの好きだ。
公言することが恥ずかしくなってくる。
馬車が止まり、扉が開いた。
扉の先にはカーペットが敷かれ、周りには人が並んでいる。
「行きましょうか、リリシラさん」
「ええ」
馬車から出ると、三人が立っていた。二人はわかる。一人は、十二代目ケートゥン王国の王様――チョレコット。
もう一人は、ケートゥン王国のお姫様のナコッタ。三人目の女性の方には初めてお会いした。上品で、美しく。眩いオーラを纏っている。
「初めまして、王妃のサージュと申します。ナコッタからリリシラさんの話を聞いております」
一言、二言言っただけでわかる。私と彼女のふるまいの違い。言葉のしなやかさと絵のように佇む姿勢。これは、長年積み重ねてきたことによってなされているもので、短時間で身に付くものではない。
「では、皆さん。王宮に向かいましょうか」
サージュの言葉に押されるように私たちはケートゥン王国の王宮に歩き出した。
王様たちの食事が出される部屋に案内された。
「これから、ケーキ発表会を始めます。リュナリア王国の方たちは椅子にお座りください」
サージュの言葉に従い、四人が座ると、奥の扉から白い服を着た方が続々と出てきた。
「代表の方は前に」
サージュが言うと、四人が前に出てきた。どうやら、この方たちが代表なのだろう。四人の中で、二人はわかる。王様のチョレコットとお姫様のナコッタだ。あとの二人は初めてお会いする。
「では、ケーキ作りを始めてください」
サージュがそう言うと、奥の扉から続々と入っていった。
あそこが、調理場なのだろう。
「待っている間に清算してしまいましょうか」
「ええ……」
使いの方にお金の入った袋を渡した。
渡した後、使いの方は手前の扉を開けお辞儀をして部屋を出る。
「皆さん、安心してください。あの方はケートゥン王国の財務担当の長です。何も心配することはありません」
私たちが揃いも揃って使いの人を見ていたから、そう言ってくれたのだろう。ここから、他愛のない話が始まった。切り出したのはもちろん、王妃のサージュさんからだ。リュナリア王国での生活の様子や好きなもの。どんな専門性が高い話題でも話が尽きないように話を広げながら話している。あそこまでの博識は然う然う居ない。話が盛り上がっている中、四人の代表者がケーキを運んでくる。
「リリシラさん、キャラメルリボンのプリンケーキです」
大きいキャラメルでリボン形に固まっているキャラメルが上に乗っていて、その下にはカラメルソースが焦がしてあり、香ばしい匂いがする。
ナコッタは恐る恐る皿をテーブルに置いた。
少し危なっかしく、手助けしたかったがそういう雰囲気ではなかった。
ルナセインのは、こんがりした焼目が特徴のバスクチーズケーキ。
ラスファールのは、三種のベリーが上に乗っているタルト。
ラグマールのは、何層にも重ねられたオペラというチョコレートケーキでコーヒーが少し入っていて、芳醇な味わいのケーキ。
「皆さん、ご賞味ください」
サージュの言葉に導かれ、各々がケーキを口に入れる。
口に入れると、甘ったるいキャラメルに焦がしているカラメルソースと固めのプリンの苦さが引き立っていて、おいしい。一番下のスポンジケーキのところは、ニンジンが入っていて独特の甘味がある。これが組み合わさることで飽きずにずっと楽しめる一品となっている。
三人を見ても、満足な表情で噛みしめている。
こんなケーキを食べたことがなかったし、どこか温かみを感じる。
「皆さん、一言ずつお言葉をもらってもよろしいですか?」
私を含めて四人とも同時にうなづいた。
「では、手前のラグマールさんから」
「はい。バランスのいいケーキは初めてです。久しぶりにチョコレートケーキが食べられました。ありがとうございます」
「そう言ってくれてありがとうございます。実は、苦めに作ってみたんです。甘いものが好きな方では、思わず飲み物を欲してしまうほどに。それが功を奏したのですね」
と、代表の方が語る。
「続いて、ラスファールさんお願いします」
「えー、とってもおいしいです。僕、ベリーが苦手なのですが、甘いタルトに補助するように抑えめのベリーの酸っぱさが合って、おいしかったです」
タルトを作った代表の方は何も言わずにお辞儀をした。その目には涙がみえた。
「ルナセインさん、お願いします」
「はい、鼻に広がる香ばしい匂い。しっとりしているチーズケーキ。とてもおいしかったです」
それを聞いて、チョレコットは満足そうにルナセインを見つめていた。
「最後にリリシラさん、お願いします」
「ええ。甘いキャラメルを包むようにほろ苦いプリンが組み合わさって良かったです。一番下のニンジンケーキはそっといる感じで、邪魔をしていない。最高のケーキでした」
「良かった。おいしいって言ってくれて……」
ナコッタは涙を零しながらもにこっと微笑んだ。
「皆さんに好評を頂き、誠にありがとうございます。聖なる夜に渡すお菓子にも自信がつきます」
サージュは、深くお辞儀をした。
馬車に乗るまで私は、口に残る余韻を楽しんでいた。
……本当においしかった。





