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第16話「清算の旅~見積もりを超えた贈り物~」

 シラクリコリトに向かう馬車の中で、ラグマールは浮かない顔をしている。


 ルナセインが言うには、この時期になるといつも悩んでいるらしく、きっとからくり人形のことだろうと。


 からくり人形のこととは、リュナリア王国が多く作ってしまうことと、本来、見積もりで決めたことは変えられないみたいで、今回は五百体から、全体の四割に変わった。


 なぜ、多く作ることになったのかというと、元々すべての子どもに我々が作ったからくり人形を渡すという決まりがあったのだが、からくり人形を作る量が年々多くなり、リュナリア王国では賄いきれなくなり、他の王国にお願いした歴史があり、出来ればこちらで作りたい気持ちがあることから見積もりから変更が毎度あるみたいだ。


「それにしても、五百体から全体の四割って何があったのですか?」

「それがですね……サンタクロース会議の時は、一体も出来ていなかったのですが、お二人さんから頂いた試作機を分解してみたら、意外と簡単に作られているのを発見して……」

「それで、多く作ることが出来たということですか?」

「いえいえ、その時は、五百体と考えていました。三日ほど試作機作りに勤しんでいた時、娘と息子が言ったんです。歯車を減らしたら、もっと簡単に出来るよって。今まで、そんなことを言われたことなかったので、戸惑っていたんです。言われた通り、歯車を少なくしてみたんです。そしたら、軽快に動くのです。息子と娘にもからくり人形作りに携わってもらった結果、思ったよりも早くからくり人形が出来まして、この速さなら、半分ほど作れると確信がありました。それから一割を減らして、全体の四割になったんです。頑張りすぎはいけないですからね」

「……なるほど」

「それと、今回のからくり人形は一味違います。より複雑になり、見ごたえがあります。その分、このからくり人形をどのように作っているのか想像がつきません。だからこそ、謝罪の気持ちが強くなるのです。見積もりの時は、一体も出来ていないとおっしゃったのですよね?」

「ええ、今の状況を話すべきだと思いましたから」

「そうですよね。その時、してやったりと思ったはずです。そしたら、一週間後。『全体の四割に変わりました、ごめんちゃい』みたいな手紙が来たらどうしますか? リリシラ様」

「私だったら怒りますね」

「それで、直接謝罪をしようと思い立ったわけです」

「ああ、納得です。今の説明でようやく理解しました。前回の説明だと二割しか理解できなかったので」

「それで、お二人さんに謝罪の言葉を考えてほしいのです」

「「……」」


 謝罪の言葉って思いつかない。

 自分が当事者ではないから思いつかない可能性もあるが、ここまでの重要性がある失態をしたことがない。


 だからこそ、思いつかない。

 思いつかないことを説明はできるが、肝心のことは出てこない。


「本当に申し訳ございません。私のプライドが行動に火を点け、思ったよりも作りすぎてしまいました。毎度、毎度申し訳ございません。これはどうでしょうか?」

「なるほど。こういう形で謝罪をすればいいのですね」


 これから、私とルナセインを、からくり人形工場の(おさ)――カルタークに見立てて謝罪の練習が始まった。

 最初は、言葉が詰まる感じで何を言っているのかわからなかったが、徐々に言葉が聞き取れるようになってきた。


 馬車が止まり、ようやくシラクリコリトに着いた。


 何度も、何度も謝罪を向けられると、何もしていないのに罪悪感が出てくる。

 私って、悪いことさせちゃったのかなって。


「皆さん、着きましたよ……え⁉ 皆さんげっそりしてますよ。なぜですか?」


 ラスファールはひどく驚いている様子で、こちらを見ている。


「大丈夫です。ごめんね、ラスファール……ごめん」

「はあ……行ってらっしゃいませ」


 ラスファールは戸惑いながら送り出した。

 前回、見積もりを渡した建物に到着した。

 ラグマールは軽く息を整え、扉のリングで扉を三回叩いた。

 すると、怒声とともにカルタークが現れた。


「六割になるって、どういうことだ? 説明しろ」


 カルタークが現れたのと同時にラグマールはゆっくりと地面に膝をつけ、頭を地面に近づけた。


「毎度、毎度、迷惑をかけてしまい申し訳ございません」


 練習で聞いたどの言葉より短く、誠意が感じられた。

 カルタークは、ラグマールの土下座を見て固まっていた。


「あの、どなたかわかりませんけれど、顔をあげてください」

「いえ、頭をあげるわけにはいきません」

「頭をあげてください。どなたかわからない土下座を見ても、心が晴れません。それに謝罪に土下座をもってくる愚かな人ではありませんよ」

「そうですか」


 ラグマールは顔をあげ、立ち上がった。


「ルナセイン様、リリシラ様、この方はどなたですか?」

「こちらの方は、時計とからくり人形を作っているラグマールさんです」

「あの生きる伝説のラグマール……会えてよかったです。こ、こちらにお入りください。狭いところですが」

「失礼します」


 ラグマールと聞いてから、カルタークの口調が変わった。恐縮しているような緊張している感じ。

 見積もりをした部屋に入ると、からくり人形の中を見るカルタークとそれを後ろから眺めているラグマールがいた。


 これは、何?

 今、何を見せられているのだろう?


「また、やってしまいましたか、改善」

「すいません。歯車を少なくした方が動きが軽快になるので」

「いえいえ、私たちには出来なかったものをこうも簡単に言われると、感心しかありません」

「そうですか」

「実は、カルタークさん。ラグマールを尊敬しているんですよ」


 後ろにいるルナセインが耳元で囁いた。


「ということは?」


 私も同じ声量で、ルナセインに尋ねる。


「あまり怒ってないということです」

「確かに」


 あんなに笑顔のカルタークを見たことがない。

 まるで、子どものような純粋な笑顔。


「お二人さんこちらに来てください」

「ええ」


 私とルナセインはからくり人形が寝転がっているテーブルの付近の椅子に腰を下ろした。


「今日って、聖なる夜ですか?」

「いえ、清算の日です」

「ハンドベル鳴らないですね。故障でしょうか?」

「いえ、清算の日なので、鳴りません」

「皆さん、サンタクロースの格好していないですね」

「いい加減に……」


 私が思いっきりテーブルに手を叩きつけようと手を上げると、ルナセインがその手を握る。


「気持ちはよくわかりますが、こちらを確認してください」


 ルナセインは私の手をゆっくりと下ろし、お金が入った袋をカルタークに渡した。


「清算ですよね。わかっています。確かに頂きました。どうして、ラグマールさんが来られたのですか?」

「私の仕出(しで)かしたことを詫びるためです」

「……あの事ですか」

「ええ」


 ラグマールは頭を下げる。


「謝らなくて、結構です。気にしてないですから」

「気にしてないのですか? いつも意見書みたいな手紙しか渡していないですよね?」

「頑固な職人だと思っていましたから……。それに、サンタさんが作るからくり人形には愛情がある、熱意がある。サンタ産のからくり人形は芸術品です。一目見るだけで怒りが吹き飛びます」

「許してくれるのですか?」

「許しますよ」


 カルタークは、手を伸ばし、ラグマールに握手を要求した。

 ラグマールは、カルタークの手を握り、握手をした。


「このからくり人形を頂いてもよろしいですか? ラグマールさん」

「いいですよ、聖なる夜に届くものは、これよりも良いものですが」

「楽しみにしています」


 カルタークは馬車付近まで歩き、ラグマールと師弟みたいな感じで話していた。


「行ってらっしゃい、皆さん」

「ええ、行ってまいります」


 私たちは馬車に乗り込んだ。

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