第15話「清算の旅~幻想の肉王国~」
今日は、他の王国にお金を渡す精算がある。
前回の見積もりで、少しもやもやした部分が解決する日でもあり、年に一度の王宮の地下に保管してあるお金を使うことが許される日でもある。
六ケ所巡ることになっていて、大きいからくり人形工場があるシラクリコリト、お菓子の国ケートゥン、洋服の町錦舞国、野菜の楽園ジアトリノ、幻影の肉王国ミートリアス・ポマール、最後に、花の都フラッツェリア。
それと、からくり人形と時計を営んでいるラグマールも同席してもらっている。
シラクリコリトに用事があるみたいで、大きい鞄を二つ持っている。
最初に行く、幻影の肉王国ミートリアス・ポマールに興味があるみたいで、馬車の中は、噂話が蔓延していた。
「幻影の肉王国は、同じ場所に戻らないそうだ。それと、巨大な蜘蛛の上に国があるから、留まれないそうだ」
「すいません、それは……」
ルナセインが水を差す。
「すべて言い終えるまで、話を遮るな、王様」
「すいません」
この調子である。
馬車に乗り込むまでは寡黙な人だと思っていたのに、乗ってからは噂話を次々と語り始め、今に至る。
そろそろ話をやめていただきたい。
「リリシラ様は、なにか噂話はあるのかな?」
「えーっと……」
ルナセインの方を見ると、「なにか話を作ってくれ」と言っているような表情をしていた。
この場の空気を少しでも変えるなら、やるしかない。
「ミートリアス・ポマールは、雲の上に在って、地上の人には見えない」
「それは、聞いたことがない。どこで、その噂話を?」
「私のふるさと、ターナル王国です。父から……」
「父からですか……想像が捗りますな」
なんとか話を作って、この場を凌ぐことはできた……ごめん、お父さん。話のダシに使っちゃった。
「皆さん、ミートリアス・ポマール着きました」
ラスファールが言ったのと同時にラグマールが降りた。
ラグマールは、興奮混じりに周りを見渡したあと、ラスファールに尋ねた。
「この下に蜘蛛がいると思うか?」
「いると思われます。入り口はこちらでございます。僕は、そこらの辺りで休憩していますので、お気になさらず」
ラスファールは入る隙も与えないほどの早口で言い、頭を下げながらミートリアス・ポマールの入り口の方に手で示している。
「では、参りましょうか、リリシラさん、ラグマールさん」
お金を渡す場所は、見積もりをした所のミートリアス・ポマール当主ミルキークのお家で行うことになっている。
「お待ちしておりました」
当主の建物の前でミルキークが待っていた。
「リリシラ様、ルナセイン様……そちらの方は?」
「お初にお目にかかります。からくり人形屋、時計屋を営んでおります。ラグマールと申します」
「からくり人形を作っている方ですか?」
「はい、そうです」
「私事なのですが、修理をお願いしたいのです」
「……修理。構いませんよ、簡単なものでしたら、ここでもできると思います」
「そうですか。少しお待ちください」
ミルキークが駆け足で家を出た。
「何をしに行ったのでしょうか?」
ルナセインがラグマールに尋ねた。
「修理してほしい人を集めているのではないかと思っている。からくり人形を作っている人が来るなんて滅多に無いことだからな」
「はあ……そういうことですか」
ラグマールの意見にルナセインは感心したみたいで、大きく首を縦に振っている。
懐中時計の秒針が三周ほど回った時、家の扉が開いた。
「ラグマールさん、来ていただけないですか?」
「あっ、わかりました」
ミルキークの言葉に従って、ラグマールが退出した。
そこから、五分ほどの何もない時間が発生した。さっきから待つことが多く、嫌になる。
「お待たせしました」
「ラグマールさんを連れて、何をなさっているのですか?」
「子どもたちのからくり人形を治してもらっているのです。からくり人形を治してくれる人がこの国にはいなくて、困っているときに来ていただいたので、せっかくならとお願いしたら、快く承諾してくださいまして、感謝しております」
「……なるほど、理解しました」
「ありがとうございます。今回は、清算のために来たのでしたよね」
「ええ」
ルナセインはお金の入った袋を渡した。
「ちょっと、汚いことなのですが、確認してもよろしいですか?」
「ええ、構いませんよ。万が一何かあったら大変ですからね」
「ありがとうございます」
ミルキークはテーブルにお金を出し、独り言をぶつぶつと言い始めながら、お金を積み始めた。
なにか異様なものに、憑りつかれたみたいで、怖い。
積む高さはバラバラで、何かの法則性があるとは思う。
独り言が止み、ほっとした顔で言った。
「ちょうど、頂きました」
「狂いはなかったですか」
ルナセインも安堵の表情を見せた。
「間違いはないです。ラグマールさんの修理を見に行きますか?」
「ええ、行きます」
ルナセインの表情が、子どものように輝きだす。
ラグマールが修理しているところは、普段食事を行うところで建物の面積も広く、テーブルが大きいので修理しやすいという理由で選ばれた。
修理に来たのは、老若男女と幅広く、国の半数が修理に行っているという。
一日あっても足らなそうだけれど、どうなのかな?
ラグマールが修理している建物に入ると三人が椅子に座って、待っていた。
ミルキークは突然、指を折り曲げて何かを数えている。
「リリシラさん……ラグマールさんって凄い人なのですね……」
ミルキークは驚いた様子でぼそっと呟いた。
「そうみたいですね」
ミルキークの反応を見るに、とんでもなく人数がいてこの建物が賑わっていると考えていたのだろう。
待っていた三人の修理もあっという間に終わり、ラグマールがこちらに来た。
「リリシラ様、ルナセイン様、お時間をお掛けしました」
「いえいえ、有意義な時間でしたよ。からくり人形の蘇る姿を拝めたのですから。それにね……」
「ルナセイン様、あの件お詫びします。そのような言葉を言わないように尽くします」
「よろしい」
初めて、ルナセインが王様の威儀を見た気がする。
王妃として引き締めないと。
「皆さま、お済みですか?」
さっきまでいなかったラスファールがいる。
「馬車がこちらに着けましたので、早く乗ってください。次のシラクリコリト、遠いですから」
「ええ、わかったわ」
次の大きいからくり工場がある――シラクリコリトに向けてミートリアス・ポマールを離れた。





