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第14話「親失格」

 マフィンを見せたら、ルスマリナさんも喜んでくれる。

 そう確信した私は、浮足立ちながら死者の筆談に入った。


 前回と同じ準備をして、マフィンを机に置き、一文書いた。



『お久しぶりです、ルスマリナさん』


 

 すぐに火が灯り、機械が動き出した。



『先ほどは申し訳ございません』


 

 やっぱり、あのことを反省しているんだ。

 そうだ、マフィンを見せたら、きっと喜んでもらえるに違いない。



『マフィンを作ってみたんです』


 

 机の端に置いたマフィンを、真ん中の一筋の光が差す場所へと動かした。

 どうやって見ているのかはわからないけれど、もし見えていたなら嬉しい。



『どうして、そんなものを作ったのですか?』

 


 機械は強い力で万年筆を紙に押しつけ、動いていた。

 また......怒らせてしまった。死者の筆談が終わってしまう。何か書かなくては。



『息子さんが喜んでくれると思って』


 

 書いたあと、後悔した。

 どうして、火に油を注ぐような言葉を書いてしまうんだろう、私。



『これが、リリシラさんが思う最善のプレゼントなんですね』


 

 紙が破けそうなほどの強い力で、文字が書かれている。なんとか、会話を続けなくては。



『オリベリアは良い所ですね。たくさんの花があって楽しかったです』


 

 オリベリアの話題に切り替えて、なんとか流れを持ち直そう。



『話を逸らさないでください、リリシラさん』


 

 ……怖い。

 頭が真っ白になってしまった。

 何も考えられない、時計の針だけが聞こえている。



『大丈夫でしょうか?』


 

 機械は動いている。会話はまだ続けられる。でも、何を書けばいいのかわからない。首元に、ふわりと違和感が走る。手で触れると、それは父と母が編んだオレンジ色のマフラーだった。

 

 私が死者の筆談に乗り出したのは、それを他人事だと思えなかったからだ。父を亡くした私と、母を亡くした子ども――その境遇は、どこか重なっている。

 何かしたいという思いで、ここまで来たのだ。

 だからこそ、ここで食い下がるわけにはいかない。

 私は正直の想いを(つづ)った。



『大丈夫です。マフィンを作った理由は、思い出がきっとお母さんを身近に感じられると思ったからです』


 

 機械は動き出した。


『思い出?』


 

 そのあとを、私は書いた。



『そうです。実際には会えません。しかし、思い出は振り返ることができます。振り返っているときは、実際に会ったときと同じ気持ちになれるんじゃないかと思いまして』


 

 私の伝えたいことを書けた。

 もうこれ以上のことは思いつかない。



『そういうことですか。私もサンタクロースにすべて任せますと書いたのに、つい厳しい言い方をしてしまいました』


 

 納得してくれたみたい。


 ……良かった。



『いえいえ、それほど、息子さんを考えられているといことですから』



 私が書いた直後、機械が動き始めた。



『ありがとうございます。七年前、初めて花を砂糖菓子にしてマフィンに入れて食べてみたんです。花の味はあまりしませんでしたが、少し豪華なショートケーキのような幸せを感じたのです。それから、特別な日に作っていたんです。息子も食べたがっていましたが、こんなものに感動してほしくなくて。どうせなら、私が食べられなかった本物のショートケーキを食べてほしくて、食べさせませんでした。それが、幸運でした。一年ほど前、オリベリアに行き、少し変わった花を入れて食べてみたんです。それが、間違いでした。濁流が口から出て、立っていられなくなり、それからこんな調子です』

『それは、大変でしたね』


 

 どこか他人事のようで、心にもない言葉しか書くことができなかった……。

 

 機械が動き出した。



『でもね、リリシラさん。私、花入りのマフィンを渡してもいいと思います。落ち込んでいる息子に少しでも勇気づけられるなら』

 

 

 ……ちゃんとした返しをしなければ。



『勇気づけられると思います』

 

 

 これしか思いつかなかった。

 もっと、ふさわしい言葉があったはずだ。


 そう考えている最中に、機械が動き出した。


『ありがとうございます。最後の会話が出来てよかったわ、サンタクロース王妃』

 

 

 火が消えた。


「……もっと会話がしたかったよ、ルスマリナさん」

 

 涙がこぼれ落ちる。

 紙に染み込み、インクがにじんでいった。

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