第13話「花入りマフィンの作り方」
翌朝、ルドウィックの言う通りに、パシェードに行ってみることにした。
パシェードに入ると、ミシルが走ってきた。
「リリシラ様、ルドウィックさんから聞いたよ。花入りのマフィンを作るんだよね」
「ええ……そうよ」
話が早い。
私たちがオリベリアに行っている間に、話をつけていたのだろうか。
工房室に入ると、先にフィシィルが、マフィンに必要な材料をテーブルに並べていた。
「リリシラ様、早いですね」
「居ても立ってもいられなくて」
「リリシラ様らしいですね」
「私らしいですか?」
「はい」
ミシルとフィシィルが声をそろえて言った。
なんか複雑な気持ちになる。
「花はどうやって入れるの、リリシラ様?」
ミシルは興奮気味に尋ねてきた。
「それはね……わからない」
何も考えてなかった。
花はそのまま入れるのかな。
それとも、何か加工するのか……。
「とりあえず、リリシラ様が思いつく方法でやってみようよ」
「ええ、そうね」
私が思いついた花の加工は三つ。
一つは、型にそのまま花を入れて焼き上げる。
二つは、卵と片栗粉を使って揚げ物にする。
三つは、五輪ほどすり潰して、ジャムのようにする。
このやり方で、一度試してみよう。
マフィンの作り方は、今まで通り。
鉄のボウルにバターを入れてクリーム状になるまで混ぜ、砂糖、塩、卵を加えてさらに混ぜる。
そして、薄力粉とベーキングパウダー、牛乳を加えて混ぜ、型に入れてオーブンで焼き上げるやり方だ。
とりあえず、三つ作ってみた。
三つの中身には、私が思いついた花の加工がそれぞれ入っている。
白い皿にマフィンを並べた。
見た目はどれも同じで、どれがどの加工を施したマフィンなのか、わからない。
一番手前のマフィンに手を伸ばし、三等分に分けた。
ミシルは大きく口を開けマフィンを口に放り込み、二、三口噛んだところで首を傾げた。
その後も、首を傾げながら食べている。
フィシィルの方を見ると、なんとも言えない表情で食べていた。
不思議な味がするのだろうか。
私もマフィンを口に入れる。
マフィンの甘味が口に広がる。
途中、何かが口に触れたが、なんだったのだろう。
「リリシラ様、この花いらない」
ミシルがとんでもないことを言い出した。
花がいらない?
それでは普通のマフィンになってしまうし、本末転倒になるじゃない。
「あまり花の要素が感じられないですね」
フィシィルが言っていることもわかる。
食べているときに、花独特の甘さは感じられなかったし、風味も消えていた。
もしかして、焼き上げた瞬間に風味が失われたのかな。
「真ん中のマフィン食べていい?」
「三等分にするから、ちょっと待って」
真ん中のマフィンを包丁で三等分にして、ミシルに渡した。
ミシルはさっきよりも小さく口を開き、半分だけ口に入れる。
噛むたびに、ミシルの頭が少しずつ下がっていく。
私とフィシィルも口の中に入れた。
甘いマフィンに、サクサクの衣。
歯ごたえはいいけれど、衣の中は油まみれで、正直まずいと言っていい。
「リリシラ様、最後のマフィン食べてもよろしいのでしょうか?」
「ええ、どうぞ」
ミシルは大きく口を開き、マフィンを口に放り込んだ。
リスみたいに頬を膨らまし、ちびちびと口を動かしている。
私とフィシィルも口に入れた。
これは三つのなかで、一番うまくいった。
マフィンの甘さと花の甘さがうまく組み合わさり、独特のお菓子に変わっている。
しかし、青臭い。
最初は花の甘さを感じていたけれど、途端に青臭くなり、マフィン全体の味が損なわれてしまった。
「フィシィルさん、味はどうですか?」
「最初はね、良かったけれどね」
「ミシルはどう?」
「あのね、うーん……」
ミシルは口元を手で押さえながら答えてくれた。
でも、リスのように食べているせいで、あまり聞き取れなかった。
その後ミシルは、口に入れたものを飲み込んだ。
「なんか、変な味がした。一番きらい」
ミシルはそう言って、コップに水を注ぎ飲んでいる。
よほど青臭さが口に残っているようだ。
「砂糖菓子にしてみますか、リリシラ様?」
「花を砂糖菓子にするのですか?」
「そうです。私も作ったことはありませんが、試してみる価値はあると思います」
さっそく作業に取り掛かった。
花びらを一枚ずつ取り、丁寧に洗ったあと、水分を拭き取り、卵白を塗って、グラニュー糖をまぶす。
「本当は、卵白がなくなるまで冷蔵庫に寝かすのだけれど、今回は試作だから、オーブンで乾燥しちゃうね」
とフィシィルは、オーブンで乾燥させた。
オーブンから取り出すと、見た目は、雪で凍ったような透明感に満ちていた。
触ってみると軽く、手にグラニュー糖がついた。
「これをマフィンに入れるんだよね?」
「ええ」
ミシルは型にマフィンの生地——クリームを半分ほど入れ、砂糖菓子になった花を入れて、蓋をするようにクリームを重ねた。
マフィンが焼きあがるまで、フィシィルはオーブンをじっと見つめていた。
焼き上がると、フィシィルはオーブンからマフィンを取り出し、白い皿に乗せて、満面の笑みで言った。
「出来ましたよ、リリシラ様。お召し上がりください」
二人に見られながら、マフィンを口に入れた。
マフィンの素朴な甘さに、シャリシャリした砂糖菓子の食感がとても合っていておいしい。
砂糖菓子になった花は、嫌な青臭さはなく、花の甘味が引き立っている。
「どうでしょうか? リリシラ様」
「とっても、美味しいわ」
「そうですか……嬉しいです。では、私も」
フィシィルは満面の笑みでマフィンを口に入れた。
それを見たミシルもマフィンを口に放り込んだ。
ミシルとフィシィルに味の感想を聞こうとしたが、あの笑顔で食べているのを見れば、言葉にしなくても伝わってくる。
「それにしても、これ新しいね。ふわふわとじゃりじゃりした食感が癖になる……」
ミシルはつぶやいた。
「お母さんも、そう思います。リリシラ様もそう思いますよね?」
「ええ」
あの笑顔で言われると、少し気恥ずかしくなっちゃうな。
「リリシラ様、これをお持ち帰りください」
「これは!」
小さな透明の袋に入ったマフィン。
「ルスマリナさん用よ」
「ありがとうございます」
私は、パシェードをあとにした。





