エピローグ「 お菓子パーティ」
あれから、二月ほどが経過した。
普段の日常に戻り、聖なる夜での思い出が薄れていく、今日この頃。
そんな中、盛大なお菓子パーティーが幕を開ける。
本来は私とルナセインの二人で行うはずだったが、ルドウィックが「せっかくですし、お菓子パーティーをやるならもっと大規模なものにしましょう」と提案してくれたので、呼べる限りの人を招待してみた。
すると、リュナリア王国の国民全員が来てしまった。
もちろん、私――王妃が呼びかけたというところもあるかもしれない。
そのおかげで同じ物を作らないといけない羽目に。
嬉しさと虚しさが心の中で回っている。
さて気を取り直して、ケーキの仕上げ――ホイップクリームを、乗せていく。
絶妙な力加減が必要な作業。
思わず息を止め、ケーキを見つめ、絞っていく。
まず、ケーキにホイップクリームを落とす。
ここだと感じた瞬間、クリームを離す。
これを繰り返すことで、ケーキの装飾が完成される。
……よし完成。
終わった瞬間、眠気が襲い掛かってくる。
これから、ケーキの食べるのに、ベッドでひと眠りしたい。
私と手伝いの人、あわせて五人で作ったのは。
ふわふわのスポンジケーキに、甘酸っぱいイチゴと白いホイップクリームが重なる――イチゴのショートケーキ。
上品な甘さのクリームをふわっふわのスポンジケーキにくるまれている――ロールケーキ。
マフィンの中に砂糖菓子にした小さいバラを入れて焼き上げた――クリスタライズドフラワーマフィン。
二色のブドウをふんだんに使った――ブドウのタルト。
サクランボの風味が効いたチョコレートケーキにホイップクリームを重ねた――ブラックフォレスト・ガトー。
これら五種類を、二回作った。
これを二つの会場に設置しなければならない。
私は周囲を見渡し、ケーキを運ぶための台車を探した。
……見つけたのは、たった一台。
せめて、六台ほどは欲しい。
皆が張り切り過ぎて、思ったよりも大きいケーキを作ってしまい、本来なら一台で足りるスペースでは足りなくなっていた。
「私たちで探してみます」
手伝いの二人が、勢いよく駆け出していった。
台車の確保は彼女たちに任せるしかない。
時計の秒針が、ちょうど三周した時――。
台車の車輪が床を擦る音と、扉が開く音が聞こえた。
「持ってきました……二台ですけれど」
......どうしよう。
私のグループはすでに予定の時間を大幅に超えている。これ以上、待たせるわけにはいかない。
「分けて運びましょう。イチゴのショートケーキとロールケーキを一つ目の台車に、クリスタライズドフラワーマフィンとブドウのタルトを二つ目の台車に最後の台車にブラックフォレスト・ガトーを置いて」
「はい」
手伝いの四人が声をそろえる。
私たちは慎重にケーキを台車に乗せ、会場へと向かった。 会場には人だかりができていて、台車を押しながら人の波をかき分け、設置場所へと進む。
……まず、一つ目の会場が終わった。
「リリシラ様」
ラスファインが私に、話しかけてきた。
「なんですか? ラスファイン」
「皆さん、衣裳部屋に向かいましょう」
ラスファインに大きな声で伝える。
「ラスファイン。まだ、終わってないのです」
「いえ、終わりました。今まさに運んでいますから」
「――え?」
小さい会場に駆け足で向かうと、確かに私たちが作ったケーキが置かれている。
「……本当に置いてある」
「ようやく、わかってくれましたか」
「ラスファイン、これは一体どういうことなの?」
「フィシィル、ミシル、ルナセイン、ルドウィック、グラアスさんが手伝ってくれたのですよ。」
「じゃあ……」
「気にしないで、着替えに行ってください」
「ええ、わかったわ」
普段よく使っている衣裳部屋に向かう。
扉を開けると、マチャネルがこくりこくりと、身体を前後に揺らして静かに居眠りしている。
あまりの可愛さに、起こすのが惜しい。
そのままにしておきたい。
「ああ、リリシラ様……リリシラ様!」
どうやら、起きてしまったようだ。
……残念。
マチャネルは慌てた様子で、周りをきょろきょろと見回した。
「リリシラ様、どうしてここに?」
「ドレスの着替えに……」
「そうですよね……そうでした。あたちがドレスの着替えをするんでしたね」
「ええ……」
マチャネルは張り切った様子でドレスを選び始めた。
「リリシラ様、こちらを着てみてはいかがでしょうか?」
彼女が抱えていたのは、桐の木箱だった。
「……特別な日じゃないし」
「そう言って、いつも避けていますよね」
「だって……恥ずかしい」
「今日なんて、絶好の日ですし、あたしも着飾っているのですから」
マチャネルは薄紫色のドレスを着ていた。
控えめなフリルのスカートが揺れている。
そんなふうに言われたら、着てあげるしかないじゃないか。
着替えができない私に、何も文句を言わずに手伝ってくれているし……着物を着よう。
「マチャネル、着物の着付けをお願いします」
「はーい、リリシラ様」
マチャネルは可愛らしい声で返事をした。
「実はね……リリシラ様、着付けのやり方をママーラばあちゃんから教えてもらってたの。だからね、着物の着付けは心配しなくていいよ」
「ええ、心配しないわ」
マチャネルはてきぱきと着付けに取り掛かった。
意外と早く、着物が着られていく。
洋服の工場でやってもらった人と大差ないくらいの早さだった。
「出来ましたよ、リリシラ様」
「……いいかも」
鏡を見て、うっとりしてしまった。
「ではリリシラ様、行きますか。ケーキを食べに」
「ええ」
マチャネルと一緒に、大きい会場に向かった。
中に入ると、目の前には多種多様のケーキが展示品のように横一列に並べられている。
ケーキの前には棒に紐がくくりつけられ、人々が触れないように仕切られている。
私、ルナセイン、ミシルとフィシィル、ラタマリア――四つのグループが作る二十個のケーキが、そこに並べられている。
ラスファインは私を見つけると、ルナセインの方に駆け寄って何かを話している。
……なんの話をしているのだろう。
気になって、つい見てしまう。
ルナセインは、紐で仕切られた棒の前に立ち、声高らかに発した。
「今からお菓子パーティーを始める」
その声を聞いたラスファインは、急いで小さな会場へ駆けていった。
……ラスファインさん、とても忙しそう。
その後、仕切りの棒が取り外され、人々はケーキに寄って行った。
「リリシラ様、ケーキを取りに行きましょうよ」
そんな言葉が私に向けられた。
その声の方に顔を向けると、ミシルが笑顔で駆け寄ってきた。
「リリシラ様、ケーキを取りに行きましょう」
「……あたちも……あたしも行きたいです……」
マチャネルがそっと私のスカートの裾をつまんだ。
「お二人とも、一緒に行きましょうか」
「――いいの?」
マチャネルは裾を引きながら、私を見上げる。
「いいのよ。マチャネル、ミシル。一緒に行きましょう」
二人に引っ張られ、ケーキの並ぶ場所にやってきた。
自分の視界から見切れるほどのケーキがそこにはある。
一番右端には、私たちが作ったケーキが置かれていた。
さあ、どれを選ぼうか――。
今持っているお皿には、五つほどケーキを乗せられる。
一番左端にはカップに溢れているふわふわしたとしたもの――スフレが五十個ほど置かれている。
その隣には、小さな透明のビンに黄色のクリームに、白いホイップクリームが上に乗っている――プリンが五十個ほど。
さらに隣には、ひときわ強く放つ香ばしい匂い――バスクチーズケーキ。
続いて、小さい皿に盛られた、二つに割られたチョコレートケーキ――フォンダンショコラが三十個ほど並んでいて、割れ目から、ドロっとチョコクリームが流れ出している。
そして、テーブルの端には、ふわふわのスポンジケーキの上に輪切りされたレモンが乗っている――レモンケーキが、一輪として置かれている。
次のテーブルには、大皿に並べられた、ナッツ入りのチョコレートケーキ――ブラウニーが、小さく四角く切り分けられて置かれている。
その隣には、タルトの中にプリンのようなクリームが詰まった――エッグタルト。
さらに隣には、ビスケットのような生地で城門のように囲まれたケーキがあり、その上にはイチゴとブルーベリーが上に乗っている――シャルロットケーキだ。
次に、ミルクのクリームと薄いクレープを積み重ねた――ミルクレープ。
二つ目のテーブル端に、リンゴの入ったパイの上に、こんがりとしたものが乗っている――シブースト。
三つ目のテーブルには、黄色に近いオレンジ色――キャロットケーキ。
隣には、真ん中に穴が開いた――シフォンケーキ。
その隣に、紫色の細いクリームが山のように重なった――モンブラン。
さらに、茶色のザラメと黄色いスポンジケーキが組み合わせた――カステラ。
最後に、乾燥したバナナが上に乗っている――バナナマフィン。
どのケーキも魅力的だ。
「マチャネルとミシルは、どのケーキにするの?」
「あれ!」
二人は別方向に指をさした。
マチャネルは、エッグタルトの方を。
ミシルは、シブーストの方を。
……選んだ。
「リリシラ様は、何を選ぶの?」
二人に尋ねられた……。
どのケーキをすべて食べるとしても、最初に食べたものは印象に残りやすい
だからこそ、最初のケーキは一番気になっているものを選ぶべきだと思う。
「うーん……シャルロットケーキかな」
「へえ、目の前のケーキにするんだね」
「ええ」
「じゃあ、ケーキを取りに行こ」
三人はそれぞれのケーキ選びに散っていった。
私は先ほど選んだ、シャルロットケーキを皿に置き、ロールケーキ、モンブラン、バナナマフィン、バスクチーズケーキを皿に乗せて、食事用のテーブルへと向かった。
二人はすでに選びきったようで、仲良く食べている。
「リリシラ様も……」
ケーキを頬張った口で二人が何か話しかけてくるけれど、自分の名前しか聞き取れなかった。
私もケーキを食べることにした。
まずは、自分たちが作ったロールケーキを口に入れる。
うーん……これこれ。
甘すぎない、上品な甘さが口いっぱいに広がる。
続いて、バナナマフィンにかぶりつく。
サクッとしたバナナの食感に、ほんのり香るバターの風味。
......口の中が幸せだ。
次はモンブラン。
上品な甘さのクリームがついたフォークで、モンブランに刺して口に運ぶ。
クリームのまろやかさと、紫芋の濃厚な甘みが調和して、極上の美味しさが広がる。
さてさて、シャルロットケーキを頂く。
フォークで崩れないサクサクしたものを刺しつつ、イチゴとクリームをすくって口に運んだ。
サクッとした生地に、甘酸っぱいイチゴとまろやかなクリームが重なり合うのが、とてもいい。
次にバスクチーズケーキ。
清算の時にルナセインが食べたものと似ている。
もしかして――。
だとしたら、楽しみだ。
口に入れると、鼻から抜ける香ばしい匂いが愛おしい。
そこから色んな食べ合わせを楽しみながら、ケーキを食べ終えた。
次のケーキを取りに行こうと席を離れた瞬間、ルドウィックに声を掛けられた。
「リリシラ様、少し席を外していただけますか? 渡したいものがあります」
「ええ……」
ルドウィックがこんなことを言ったのは初めてだった。
私の至高の時間を削いででも、渡したいもの――。
それは一体……?
会場を出て、廊下に出たところでルドウィックに尋ねた。
「ルドウィック、何かしら?」
「こちらの玉梓が届いておりまして……」
ルドウィックからとある玉梓を受け取った。
包んでいる紙の表面には『サンタクロースへ』と書かれていた。
手首をひねって裏面を見ると、『ミルシナ』の文字がある。
「これは、リリシラ様が対応してくれた、例の子です」
「この子が……」
私が無理を言って、死者の筆談を通してプレゼントを考えた――それの返礼として、くれたのかもしれない。
「リリシラ様、まだ封を切っておりません。最初に拝読させてもらえないですか?」
「ええ、構いませんよ」
封を切って玉梓を確認した。
サンタクロースさんへ
お母さんに会えました。
本当に、本当にありがとうございます。
ミルシナより
と、書かれていた。
文字の終わりに近づくほど、インクがにじんでいた。
読み終えたあと、右頬を撫でる風が通り過ぎた。
全10話、最後まで読んでくださって本当にありがとうございました!
皆さんは、どの話が好きですか?
私は7話が一番す。
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