表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

毒親

作者: 美月つみき
掲載日:2025/04/20

キッチンに積まれた空き缶。

灰皿から溢れたタバコ。

家の壁にはヤニが染み付いていて、

いつ買ったのかわからない鉢植の中のサボテンは、原型を留めていない。

父は小学校に上がる前に死んでしまった。

小学校中学年の頃に母は再婚したが、その人から弟の光と私は虐待されていた。

弟のことは庇うが、私のことは見て見ぬふりする母。

いつしか母は他人としか思えなくなっていた。

中学生になると、再婚相手はいなくなった。

その頃から母は、酒と煙草に溺れていった。

その姿が何より嫌いだった。

私にとって2DKのちっぽけな世界、それがその頃の全てだった。

高校を卒業してから15年、私は母とは会っていない。

たが私を縛りつける鎖は、何年経っても錆びることはなかった。


そんな世界にもとうとう終わりが来た。

数時間前に母が倒れたと光から連絡があった。

あぁ、やっとか。

そう思いながら、急いで病院へと向かった。

到着した時には既に母は死んでいた。

呆気なく死んだ母を見て、悲しみよりも安堵が勝るのだから、私は親不孝者だ。

横にいた光は俯きながら、私と同じような、でも悲しそうな表情を浮かべていた。

病院の人は、淡々とこの後の流れを説明してくれた。

でも中身なんて頭の中には入ってこなくて、

ぼーってしていただけだった。

受付の椅子に座って、電話で手配した葬儀屋を待つ間、光は自販機で飲み物を買ってきてくれた。

いつもは冷たい珈琲を買ってくるが、今日は温かい珈琲だった。

温かい缶が、心の冷たさを溶かしてくれるような気がした。

光は俯きながら涙声でこう言った。

「姉ちゃんお疲れ様。」

たった一言。

私の心を溶かすのには充分過ぎる言葉。

大粒の涙が頬を伝い止めどなく溢れてくる。

光はそんな私の背中を、ゆっくりと摩ってくれていた。

ひとしきり泣いたあとに前を向くと、さっきまでいた世界とは全く違うように見えた。

2DKのちっぽけな世界は崩れていき、大きな世界が私の前に現れた。

珈琲缶を空けて1口飲んだ。

温かい珈琲は冷めてしまったが、今までに飲んだどの珈琲よりも美味しく感じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ