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第8話 絶対に引く!

ブクマが2人も⋯

おじさんの恋愛に需要あるのか?笑

どっと疲れた俺は、日曜日は家でゆっくりと過ごしていた。


あのカフェに行くのも考えた。


また井上さんに⋯


ダメだダメだダメだ、あの子は部下だろ。


18の女の子なんだぞ。


なのにこの感情はなんだ⋯


懐かしい感情だった。


遠い昔に失くした俺の感情。


甘くて酸っぱくて、嬉しくて苦しい感情が湧き上がってくる。


俺の中の理性がそれを塞ぎ込もうとする。


交互にそれが思考を侵食する。


目まぐるしく変わる感情で脳が疲弊していく。


もう何も考えたくない。


はぁ、胃まで痛い。


胃薬飲んで寝よう⋯⋯⋯










課長、かっこよかったな。


ずっと頭の中は課長一色だった。


日曜日も会えるかな、そんな期待を込めて家を出た。


課長と会えたスーパー。


課長と食事したカフェ。


課長とお買い物したドラッグストア。


課長とお散歩した道。


昨日のことを思い出しながら歩く。


課長には会えなかった。


会えなかったけど、思い出しているだけで楽しかった。


明日は会えるもんね。


また一週間が始まるんだ。


頑張らないと。










最近は胃の調子を考えて、朝の駅前のカフェでコーヒーを飲むのは控えている。


本当は飲みたいんだがな。


胃に穴が空くのなぁ、痛いんだろな。


俺はPCを開き、今日の予定とメールの確認をする。









「おはようございます!」



今日も課長は先に来ている。


入社してから3日目以降は早起きはしなくなった。



「おはようございます井上さん」



朝から課長は素敵だ。


ラフな感じの課長も素敵だったけど、仕事中の課長はピシッとしている。


それに声が⋯


その声で名前を呼ばれるだけで嬉しくなる。


夢花って名前で呼ばれたらどうなっちゃうのかな⋯


朝から変なこと考えちゃダメよ。


今日も先輩と一緒に挨拶回りしないとなんだから。









井上さんは元気そうだな。


他のみんなも⋯大丈夫そうだ。


直接話しに行きたい気持ちもあるが、いきなり話しかけに行くのも変だろう。


他の新人にもしないと絶対おかしい。


そう思ったら誰にも話しかけに行くことはなかった。









終業時間間際にデスクに座ってPCを使用している俺に、24の男性職員の橋本君が話しかけてきた。



「課長!新入社員の3人も慣れてくる頃合ですし、今週の金曜日に歓迎会やりませんか!」


チラッとデスクから橋本くんの後ろを見る。


社にいる営業課の職員はワクワクソワソワしてるような目を橋本くんの背中に向けていた。


なるほど、みんなも了承済みか。



「分かりました、では申請しておきます」


「やった!」


「新入社員の3人は無理して誘わないようにしてくださいね」


「分かってますよ課長!パワハラは怖いですからね!課長も参加してくれますよね?」


「そうですね、久しぶりに参加します」


「いいですね!みんな喜びますよ!」


「ははは、邪魔にならないようにしますね」


「何言ってるんですか!課長はなんだかんだ言って⋯」



橋本くんがそう言いかけた時に横槍が入った。



「こら橋本、何言ってるの。まだ仕事残ってるんだから早くやっちゃいなさい」



営業課のエースと言っても過言ではないだろう、仕事のできる女性の坂下さんだ。



「すいません課長、橋本には言っておきますので」


「ああ、気にしないでください。あれが橋本くんのいいところですから」



うん、相変わらず凛としていて綺麗な子だ。


黒く長い、絹のような綺麗な髪。


それを後ろでひとつに結わっている。


ポニーテールってやつか。


美人は得だな、何をしても綺麗だ。



「課長は優しすぎですよ?」


「いいじゃないですか。その方が気分よく働ける人もいますから」


「はぁ、橋本には私から言っておきます」


「程々にしてあげてくださいね」



厳しいな坂下さんは。


彼女が営業課を引き締めている感じになってるな。


俺の役割なはずなんだが⋯


甘えすぎか?


今度坂下さんと話してみるのも悪くない。


歓迎会⋯か。


井上さんは来るのかな。










金曜日になった。


今週は大きな出来事はなく、俺の胃にとっても優しいウィークだったな。


これならば今夜の歓迎会でお酒を飲んでも⋯


楽しみだな。



「課長、今夜の歓迎会の場所はバッチリですよ!」



幹事が橋本くんなんだな。


張り切ってるわけだ。


でも幹事はあんまり飲めないぞ?


君はお酒大好きだったろうに。


入社して初めての幹事だから張り切ってるんだろうか。



「来れない人はいますか?」


「今のところ全員参加になってます!」



全員ってことは⋯そういうことか。


何も起こらない、それがいい。


なのに俺は何かが起こることを望み、今日の仕事に臨んでいた。








仕事が終わったら私達の歓迎会をしてくれるみたい。


入社式の時に立食パーティがあったのに、さらに歓迎会までしてくれるなんてとっても嬉しかった。


課長の隣に座れたらどうしよう。


そんな偶然起きたらいいな。


私の方から座りに行くのもアリかな?


そんな勇気出るかなぁ。


でも楽しみ。


お仕事頑張ろ!




今日も相変わらず坂下先輩は美人だしかっこいい。


教育担当?メンター?よくわかんないけど、私に色々と教えてくれる。


坂下先輩みたいな大人の女性になりたいなぁ。


色んな先輩職員が坂下先輩を頼っている。


私も見習って頑張らないと。


今日もたくさん教えてもらった。


全部覚えられてるか不安になっちゃう。



「井上さん、全部いきなり覚えようと思わなくて大丈夫よ。ゆっくり覚えて出来るようになりましょうね」



こんな優しい声掛けまでしてくれるんだもん。


ほんと完璧過ぎて憧れちゃう。


今日もあと少しだ。


ノー残業デーにするって課長が言ってたし、時間内に終わらせなきゃ。









「それでは皆さんお疲れ様でした」



定時の時間になったので俺はみんなに終業を報せる。



「この後は幹事の橋本くんの指示に従ってください、今日は楽しみましょう」


「「「「「「はい!」」」」」」



体育会系みたいか?


たまにはそういうのもいい⋯⋯よな?








橋本くんがみんなを仕切って案内している。


大丈夫か不安になるが、そこは先輩たちがフォローしてくれると信じよう。


予約してくれたお店は和風なお店の居酒屋だ。


席は座敷になっていた。



「それでは席を決めたいと思います!」



皆が各々勝手に座ろうと座敷に上がる前に橋本くんが呼びかけた。



「ここの封筒の中に座席番号が入っているので引いてください!」



いつも適当にみんなやるのに、レクリエーション要素を入れてきたんだな。


張り切っているわけだ。



「ではまず課長からどうぞ!」


「私からですか。わかりました⋯⋯はい、5番ですね」



席に番号札が置いてある。


そこに行けばいいわけだ。


俺は指定された5番の席に座る。


両隣は空いているが、誰になるんだろうか。


⋯⋯⋯⋯⋯⋯まさかな。








まだ課長の隣は左隣が空いてる。


それに前の席も。


これは絶対に引きたい。


この企画を考えた橋本先輩、ナイスです!


次が私の番ね。


引く、絶対に引くのよ夢花!



「次はの井上さんだな、ハイどうぞ」


「行きます!」


「な、なんかすごい気合いが入っているね⋯」



あれ、なんか橋本先輩が引き気味?


気にしちゃダメ、絶対に引くんだもん!



「ええっと、井上さんは、8番だね」



8番⋯8番ってどこ!


課長の番号の隣の番号じゃない。


隣じゃない⋯


前なの?


私は恐る恐る座敷の方へ向かう。


課長の前の席!


やった、隣じゃないけど頑張った。









今は井上さんが引いているんだな。


その動向を見守ってる。


引いた後にガッカリしてる雰囲気だがどうしたんだろうか。


書いてある番号の所へ向かう井上さん。


井上さんの動きを見るのを視線が外そうとしない。


隣か?隣なのか?


来てくれ、隣に、来て欲しい。


無意識に俺は願っていた。



「課長の席の近くでしたね!失礼します」



井上さんの声で我に返る。


俺は今、何を思っていた?


相手は部下だと言っているだろう。


ダメなんだ、ダメなのにどうして⋯



「あ、はい、ど、どうぞ」



隣ではなく俺の目の前に座る。


黒のタイトスカートの井上さん。


井上さんは、スカートの後ろにそっと手を添えると、慎重に腰を下ろした。


その動作はどこかぎこちなかった。


スカートが引っ張られるのが気になるのか、少しモゾモゾと動いている。


膝を揃えながら、ゆっくりと座敷に膝をつく。


その動作はどこか儚げで、仕草ひとつひとつが丁寧だった。



男性がしないその仕草に俺は視線が釘付けだった。


こういうところに女性らしさが出るんだろうか。


普段は意識して見たことなんて覚えていない。


なんで俺はこんなにも心を奪われているのだらうか。


視線を外せない。


外せないせいで、座敷に座った井上さんと視線がぶつかってしまう。



「⋯⋯⋯⋯」


「⋯⋯⋯⋯」



見ていたことが露見し、時が止まってしまう。


井上さんも理解出来なったんだろう、フリーズしている。



「⋯⋯⋯課長?」


「いえ、なんでもないです」


「⋯⋯⋯⋯?」



井上さんが可愛らしく小首を傾げている。


君の一連の動きに見惚れてたなんて言えるわけない。



「も、もうスーツは慣れました?」



相変わらず俺は話題を変えるのに必死だ。



「スーツだと座りにくいですね、慣れてないからかなぁ」


「そうなんですか?そんな風には見えませんでしたよ」



ふう、話題は変えられたようだな。



「隣の席じゃなかったけど、この席も大当たりですね!」



仕事での疲れを感じさせない、弾けるような笑顔だった。


その笑顔で俺の疲れも吹っ飛んで行きそうだ。


目の前にいることで一挙手一投足が目に入る。


そして顔を見ながら話すことができる。


隣より⋯いいかも?







面白いと一欠片でも思って頂けたなら、お手数ですがブクマと星評価をよろしくお願いいたします。


特に星評価をもらえると最高に喜びます。

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