第51話 重なる時
ついにこの日が来た。
今日が夢花の二十歳の誕生日だ。
夢花と恋人になれたのは7月だった。
9月に夢花は19歳を迎えた。
俺はその日にプロポーズをしたんだ。
そして夢花が二十歳になるこの日に結婚式をする約束をした。
プロポーズをしようと決めたのは8月。
その8月中に指輪を用意した。
やもめ暮らしの長かった俺には多少なりの蓄えがある。
だから奮発して婚約指輪を購入したんだ。
「誕生日おめでとう。夢花、これを受け取ってほしい」
「え!誕生日プレゼント?やった!大地さん大好き!」
無邪気に笑う夢花が可愛らしかった。
付き合って初めての誕生日がプロポーズになるなんて思ってもいないんだろうな。
「え?ゆび⋯わ?しかもこんなに高そう⋯え?これって、え?」
混乱している夢花に俺は言った。
居住まいをただし、箱から指輪を手に取る。
そして夢花の左手を持ち上げた。
「夢花、ずっと俺のそばにいてほしい。愛しているよ」
夢花の左手の薬指にそれを嵌める。
夢花を見つめ、覚悟を決め、俺は告げた。
「結婚してほしい」
また泣かせてしまったな。
両の瞳から幾筋もの涙が流れている。
「おっと⋯⋯⋯」
抱きしめてきた夢花を優しく抱き返す。
「ばか!大地さんのばか!突然過ぎます!」
「あはは、すまないすまない。よしよし」
泣いている夢花の頭を撫でながら落ち着かせる。
「私も愛してます!ずっとずっと大地さんのそばにいます!私のことをお嫁さんにしてください!」
抱きしめたまま返事をする夢花。
「ありがとう夢花。一緒に幸せになろう」
「はい!大地さんと一緒ならそれだけで幸せです!」
こうして俺は夢花と婚約した。
「結婚式はしますか?」
「夢花の花嫁姿か⋯見たいな」
「大地さんのタキシード姿⋯見たいです」
婚約して何日後だったか忘れたけど、結婚式をすることに決めたの。
式だけの簡単なもので、列席者はお母さんだけ。
写真だけでも良かったんだけど、ちゃんとお母さんに結婚式の姿を見せたかったの。
私はいつ入籍しても良かったんだけど、大地さんが二十歳になったらってゆずらなかった。
なんでだろう?
でもいいの、早いか遅いかの違いだもん。
毎週週末は大地さんとデートして、過ごしてるからなんの問題もなよね。
でもプロポーズのときは本当にびっくりしちゃった。
あのシーン、動画に残しておきたかったなぁ。
私の泣き顔だけはいらないけど⋯
愛してる、大地さんにそう言われるだけで私の心はぽかぽか温かくなる。
付き合ってから何日目だったろうか。
夢花が甘えに甘えて来るときがあった。
上目遣いで俺をずっと見てくるんだ。
主に唇を。
まさかこれは⋯おねだりと言うやつなのだろうか。
「じーーーー」
見つめる効果音までつけてきたな。
「大地さん、私達は婚約しています」
「⋯⋯⋯そう、だな」
「大地さん、もう付き合って半年以上が立ちました」
「7月からだから、そうなるな」
「お母さんも私達の結婚まで許してくれてます」
「すぐに挨拶に行ったから驚いてたよな、ついこの間付き合ったばっかなのに?って」
「じーーーーー」
こんなに付き合った期間があって、婚約してて親にも承諾を得てる確認をしたのはなんでだろうか。
そんなのは聞かなくてもわかるんだがなぁ。
困ったぞ。
「夢花、結婚する日は決めたよな。その日が夢花の二十歳の誕生日だ」
「はい、嬉しいです!」
「少し前まで二十歳が成人って知ってるか?」
「はい知ってます!結婚は16歳から女の子はできたって聞きました!」
そんなことまで知ってるのか。
「俺の感覚からするとな、夢花はまだ未成年なんだ。今の法律ではそうではないから夢花と付き合うことを決めたんだがな⋯でもやっぱり俺の中では未成年と思う気持ちもあるんだ」
「そう、なんです、ね?」
反応が悪いな。
わかってない感じか?
みたいなことを何度も何度も言われるの。
昔は未成年でも、もう19の大人だもん。
大地さんとキスしたいなぁ。
それ以上もしたいなぁ。
もう毎晩毎晩妄想が捗って大変なんですよ?
大地さんへの愛が膨らみすぎて破裂寸前です。
最近やっといつならいいか教えてくれたの。
「二十歳になったらな?結婚式をしたら、だ。それまで待ってくれないか?」
「むー、わかりました。大地さんがそこまで言うなら待ちます。浮気しても知りませんよ!」
そんなの絶対するわけないけど、困らせるために言ってみた。
「な、そ、それは⋯本当に嫌なんだが⋯だが、くそっ、まって⋯くれないのか?」
予想以上に困惑して、私の方が困っちゃったくらいだよ。
でもやっと今日です。
私、二十歳になりました。
俺はタキシードを身に纏い、教会の祭壇前で夢花を待っている。
あと少しで夢花が来る。
心臓が高鳴るのがわかる。
夢にまで見た結婚。
諦めてしまっていた結婚。
俺の乾いた人生に潤いを与えてくれた女性。
夢花、君に出会えて俺は幸せだ。
君と一緒にいられる時間は短いかもしれない。
だから少しでも長く、君との人生を共に生きたい。
「夢花⋯⋯⋯」
扉が開き夢花が入ってきた。
思わず声が漏れる。
純白のドレスの夢花がいる。
夢花の綺麗な細い肩を出しているドレス。
なんて綺麗なんだ⋯⋯⋯⋯⋯
お母さんにエスコートされて大地さんのいる祭壇に向かう。
眼の前にはタキシード姿の大地さん。
明るいグレーのタキシードがとても似合っている。
私のウエディングドレスは似合ってますか?
かっこいい大地さんに見合ってますか?
まだまだお子様の私だけど、大人の大地さんの隣りにいても変じゃないですか?
「夢花、綺麗だよ⋯⋯」
「嬉しい⋯大地さんもカッコよすぎです⋯⋯⋯」
「大地さん、あとはお願いします」
お母さんから離れ、大地さんの隣りに立つ。
ありがとうお母さん、私はこれから大地さんと幸せになります。
祭壇前に二人で立つ。
神父による式辞が始まった。
「新郎大地、汝は、病めるときも健やかなるときも、この者を愛し、支え合って生きることを誓いますか?」
「はい、誓います」
俺は静かに、だが確たる意思を込めて言った。
「新婦夢花、汝は、病めるときも健やかなるときも、この者を愛し、支え合って生きることを誓いますか?」
「はい、誓います」
色々な思いが溢れていたのだろう。
夢花の声は微かに震えていた。
「指輪は心と心を結ぶ絆。どうぞ、この指輪を交換し、永遠の愛を誓い合ってください」
指輪を受け取り、俺は夢花の左指にマリッジリングを嵌める。
夢花も俺の左手の薬指に嵌めてくれた。
お互いがお互いの左の薬指に嵌まるマリッジリングを見つめていた。
「愛の証として、お二人は誓いのキスを交わしてください」
神父さんのセリフが聞こえる。
これが私のファーストキス。
ありがとう大地さん。
結婚式の誓いのキスが初めてのキスになるの。
そんな人、私くらいじゃない?
大地さんがこんなにロマンチストだと思わなかった。
お互いに向き合う。
大地さんがヴェールを優しく持ち上げてくれる。
泣くのはずっと我慢してる。
でも、もう無理そうです。
綺麗だ夢花。
君と永遠の愛を誓う。
ありがとう夢花。
そっと肩に手を添える。
そして俺は夢花の唇に⋯⋯⋯⋯
愛してます大地さん。
愛してるよ夢花。
重なる2つの唇。
これがキス⋯
少しだけだった。
でも永遠かのような時間が私を支配して。
そんな気がしてしまったの。
ありがとう大地さん。




