第5話 初めての休日
ラブコメ始めました
土曜日になった。
今週はなかなか疲れたな。
胃の調子は多少は良くなっている。
とろろ蕎麦を食べてから今日まで胃に負担の少ない物を食べている。
今日は特にやることないしなぁ。
ゆっくり休むのが1番かもな。
新入社員も研修が終わって本格的に営業の指導が始まっている。
あとは見守るだけだ。
何かあったら助ける、そのスタンスでいないとな。
ふう、少し寝るか⋯⋯⋯⋯
はぁ。
つまんない。
初めての休みの日だけど、お母さんは仕事。
家に1人。
友達はいるけど、大学生を満喫してるから私とは遊んでもくれない。
3日目からは営業課の先輩について色々と教えてもらっている。
初めてだからとても親切に教えてくれる。
20代のお姉さんだった。
とっても美人で優しくて憧れちゃう。
でも彼氏はいないんだって。
こんなに素敵な人なのになぁ。
この人で出来ないなら私なんて絶対無理なんじゃない?
でも私には恋愛とかよく分からない。
今まで男性にときめいたりしたことなんてない。
⋯⋯⋯ときめくってなんだろう。
はぁ、つまんない。
課長は何してるんだろ。
ベッドで横になって目を閉じた。
ね、寝すぎた⋯⋯⋯
もう3時じゃないか。
ぐーっと体を伸ばす。
あたたたたた。
せ、背中が。
はぁ、おじさんだなぁ。
湿布湿布⋯
そうだ!もう無くなったんだ。
お腹も空いたし、ドラッグストアにでも行くか。
あの電車での一件以来、湿布にハマっている。
何かあると湿布を貼る始末。
さすがに湿布臭いまま仕事に行くのは恥ずかしいから仕事中はしていない。
でも欲を言えば貼りたい。
ふぅ、とりあえず家を出るか。
ボサボサだし髭面だけど、近所だし気にする必要ない⋯よな。
まぁ髪の毛くらいは多少なんとかするか。
洗面所で多少の整容を済まし、ジャージ姿のまま外に出る。
俺の言えからドラッグストアは歩いて10分ほどだ。
天気もいいし、散歩がてら少し歩くか。
ガバッと目を覚ます。
え⋯⋯⋯⋯もうこんな時間?
うそうそ、寝すぎだよ。
はぁ、休みの日なのに無駄にしちゃったな。
お腹空いちゃった。
作るのもめんどくさいし、なんか食べに行こうかなぁ。
よし、そうしよう。
パジャマのままは恥ずかしいから着替えないと。
化粧はしなくていいよね。
ササッと髪の毛をとかしてパジャマを脱ぐ。
ブラくらいつけないとだよね。
でもめんどくさいなぁ。
Tシャツを着て大きめのトレーナーをその上に着る。
これで大丈夫だよね。
そんなに長い時間出るわけじゃないもん。
下はジーンズでいいや。
外食じゃなくてスーパーとかでお弁当買って帰ろうかな。
いいお天気だ。
やっぱり寝て過ごしたのは失敗だったかな?
俺はドラッグストアに向かうつもりだったが、ドラッグストアへ行く道とは反対方向へと歩き始めた。
散歩しようと思ったからだ。
普段散歩なんてしないが、こういうちょっとした運動がおじさんには必要なんじゃないかと思う。
必要だよな?
運動不足は否めないから30分くらいは歩かないとなぁ。
20分ほど適当に歩く。
ここに引っ越して来てから散歩は初めてだな。
こんなところにスーパーがあるのか。
そんなに大きくはないんだな。
どれ、少し見てみるか。
ドラッグストアより安いかもしれない。
入り口へ向かって歩き出す。
同じタイミングでこっちに来る女性がいた。
近所の人なんだろう。
うつむき加減で歩いているのでどんな人かは分からない。
さして気にすることなく自動ドアの前に行く。
そろそろ入り口なのでふと顔を上げる。
目の前に男性の後ろ姿があった。
背の高い男性だなぁ。
課長みたい。
その人に続いて店内に入る。
美味しそうなお弁当売ってるかな。
何にしようかなぁ、何があるかなぁ。
店内に入り、買うものはそんなにないだろうけど籠を取る。
今日はお野菜とかは買わないけど、野菜売り場の方から歩く。
どのスーパーも商品陳列は似た配置になっている。
このスーパーももれなくそうだ。
野菜や果物の生鮮食品から始まって、お肉お魚、乳製品と続く。
そこを通りお弁当売り場へと向おう。
あ、美味しそうないちごだ。
いちごもいいなぁ。
ケーキとか食べたくなっちゃう。
この辺にケーキ屋さんないからなぁ。
買うつもりはないけど色々見て歩く。
お、いちごがあるな。
いちごの香りが漂っている。
スーパーの果物売り場の爽やかな香りが結構すきだったりする。
買うつもりはないがいちごを見る。
ん?一緒のタイミングで店内に入った女性もいちごを見てるんだな⋯
「え、井上さん?」
「⋯⋯⋯えっ?」
びっくりして声をかけてしまった。
これは失敗したか⋯⋯⋯
ヒゲ剃ってないしジャージだ。
部下に、しかも若い子にこんなとこを見られるのはかなりきついぞ。
「か、川崎課長!?」
「ぐ、偶然ですね」
いきなり声をかけられて驚く。
さらにそれが課長でもっと驚いてしまう。
これは現実?
もしかしてまだ夢の中なの?
課長はいちご好きなのかな?
今はそんなこと考えてる場合じゃないわ。
私の服⋯⋯⋯⋯やばい。
どうしようどうしようどうしよう。
嬉しいけど嬉しくない。
ううん、嬉しいは嬉しいけど今じゃない。
「す、すごい偶然ですね!いちごお好きなんですか?それに課長はこの辺にお住いなんですか?あれ?でも西口って⋯」
何たくさん質問してるの。
バカバカ、焦りすぎだよ⋯⋯⋯
「本当に驚きました。すみません、お休みなのに声を掛けて」
「いえ、全然!嬉しいです!」
「いちごは好きですよ、果物は好きなんです」
「一緒ですね!私も大好きなんです!」
大好きとか言っちゃった。
どうしよう、変な子に思われてないかな。
課長もいちご好きだなんて嬉しいな。
「住んでるところは東口なんですよ。あの時はドラッグストアに寄る用事があったので西口に行ったんです」
え、そう⋯なの?
じゃあ、あの日は一緒に帰れたかもだったんだ。
あの日以来一緒に帰れてないから分からなかった。
朝も全然一緒にならないし。
「井上さんはお買い物ですよね。ごめんなさいお邪魔して。では私は自分の買う物を買って帰りますね。ゆっくり休んで月曜日から頑張りましょう」
なんかいい感じで切り上げられそうだ。
プライベートまで関わったらダメだろう。
会社で変な噂が流れたら困るしな⋯
壁に耳あり障子に目ありだ。
⋯なんか違うけど誰に見られてるか分からないしな。
「か、課長は何を買いに来たんですか!」
課長が行っちゃう。
もっと話したいのに。
そう思ったらまた質問していた。
「私はお腹が空いたので何かないかなぁと思ってたんです。散歩がてら色々歩いてたらこのスーパーを見かけたんです」
課長も一緒だ。
私もお腹空いたからスーパーに来たんだもん。
「私もなんです!お昼寝しちゃってさっき起きて、お昼も食べてなかったし家に何も無かったんです!」
何ベラベラ話してるの私は。
バカな子みたいに思われるじゃない。
「井上さんはこのスーパーによく来るんですか?」
「はい、近所なんです!」
なるほど、この近所なのか。
次からは来るのは控えた方がいいかもなぁ。
歩いてこれるスーパーがあって嬉しかったのに。
おっと、個人情報を聞いてしまったな。
気をつけなければ。
話が続いてしまったが、どうやって切り上げようか。
いちご売り場で話していると、年配の女性がこちらに来る。
邪魔になるといけない。
2人で場所を占領しているからな。
「井上さん、邪魔になるといけないから歩きましょうか。いちごは買う予定ですか?」
「い、いえ、見ていただけなので!行きましょう!」
わわ、一緒に行けるんだ、やった。
「井上さんはお弁当を買うんですか?それとも自炊ですか?」
「えっと⋯作るのめんどくさいなって思ってお弁当買おうかなぁって⋯」
ここは嘘ついてでも自炊って言った方が良かったのかな⋯
うう、正直に答えるんじゃなかった。
「お弁当売り場はどちらですか?初めてで分からなくて」
「それならこっちです!案内しますね!」
この時間はお弁当残ってるのかな。
ふふ、課長とまた一緒に歩けてる。
嬉しいな。
あ⋯⋯⋯⋯でも私⋯⋯⋯つけてない!
気づかれてないかな、怖い。
チラッと課長を見る。
黒のジャージ姿だ。
仕事の時とは髪型も違う。
ボサボサじゃないけどナチュラルな感じ。
会社じゃなくてプライベートの課長を知れたのが嬉しい。
課長は細身だからジャージ姿も似合ってる。
あ、お髭が生えてる。
なんだかそれが可愛らしく見えた。
「ここがお弁当売り場です⋯けど、全然ないですね⋯」
井上さんの案内でお弁当売り場に着いたが、この時間はほとんど残ってない。
この後にまた増えるのだろう。
タイミングが悪かったかもな。
外食に切り替えるかなぁ。
カップラーメンって気分でもないしな。
パンって気分でもない。
「タイミングってありますもんね、仕方ないです」
「ごめんなさい⋯」
「いやいや、井上さんが謝ることじゃないです。気になさらないでください」
「そうですよね⋯」
なんで落ち込んでるんだろうか。
お弁当がなくて落ち込んでるんだろうか。
これは元気付けないとダメなんだろうか。
「ないんじゃ仕方ないですね。どこかで食べましょうか。井上さんはどうします?」
「この辺で食べるとこあるんですか?」
「さっきこの辺を歩いてる時にカフェを見かけましてね、そこにでもと」
「カフェ!いいですね」
「そうしますか、井上さんも行きますか?」
しまった、これはアウトじゃないか。
何言ってるんだ俺は。
髭もそってないジャージだぞ俺は。
「え、い、行きます!」
うそ、信じられない。
いいの?本当に?これってデート?
待って、本当に待って、服装!
タイミング悪すぎる!
どうしよう、なんで私はこんな格好で⋯
でも断りたくない。
どうしようどうしよう。
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