第49話 ふつつかな娘
「おはようございます」
今目の前には夢花と夢花のお母さんがいる。
俺は駅前で菓子折りを買ってから夢花の家に来た。
何にすればいいかわからないが、以前のお土産で聞いた情報を元にし購入した。
「おはようございます大地さん!」
「いらっしゃいませ。どうぞ、お上がりください」
夢花はとても嬉しそうにしているな。
お母さんの表情が若干硬いというか、キツイ目をしてたと言うか⋯
気の所為か?
スーツで来ようか悩んだが、結婚の挨拶じゃないから悩んでしまった。
カジュアル過ぎないようにジャケットを着ている。
「失礼します。こちら、ほんの気持ちですがどうぞ」
俺は手土産の菓子折りをお母さんに手渡す。
「わざわざありがとうございます。お気遣いすみません」
すんなりと受け取ってくれたな。
幸先はいい⋯か?
だがやはり、お母さんの表情が気になってしまう。
今日も大地さんに会えた。
ジャケット姿の大地さん。
とっても格好良いです。
少し緊張してるのかな。
私も緊張してきちゃう。
お母さんは私達がお付き合いすることを許してくれているから、ただの報告なだけなのに。
「どうぞ大地さん、上がってください!」
リビングに案内し、ソファに座ってもらう。
「あ!お茶の用意してきますね!」
夢花はキッチンへ向かってしまった。
お母さんは一人掛けソファに。
俺は二人掛けソファに座らせてもらう。
「本日は突然の訪問で、大変失礼いたしました」
「とんでもございません、いつでもいらしてくださいね」
「ありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそいつもありがとうございます」
「⋯⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯⋯」
沈黙が苦しいな⋯⋯⋯
早く帰ってきてくれ夢花。
「おまたせしました!」
二人とも無言?
気まずいのかも。
⋯⋯⋯そうだよね、だって私達の付き合う許可をもらいに来てるんだもん。
何度もそのことを考える。
恥ずかしいけどこんなに嬉しいことってないよね。
お茶を配り終え、私は大地さんの隣に腰を掛ける。
「ありがとう夢花」
隣りに座った夢花にお礼を言う。
そして新たに座り直し、夢花のお母さんに体の正面を向ける。
「今日お伺いした理由をお話させて頂いてもよろしいでしょうか」
「はい、もちろんです」
緊張が走ったような気がする。
夢花も膝の上で拳を強く握っているのがわかる。
しっかりと夢花のお母さんを見据える。
逸らしちゃだめだ。
ちゃんと伝えなければならない。
目を閉じ息を整える。
気持ちは整えてきた、だから大丈夫だ。
目を開き、もう一度夢花のお母さんをを見る。
「お母さん、私と夢花が付き合うのを許してはくれないでしょうか」
お互いに一切目を逸らすことはなかった。
長い沈黙が続くのか、そう思ったときだった。
「わかりました」
大地さんが言い終わると同時にお母さんが返事をした。
わかった⋯だけ?
いいとかだめとかないの?
「私は夢花がどんな人を好きになっても、どんな人を連れてきても反対するつもりはありません」
良かった、やっぱり許してくれるんだ。
お母さんにありがとうって伝えようと口を開こうとした時、お母さんが私の言葉を遮るように言葉を続けた。
「ただ、どうして課長さん、いえ、今は大地さんと呼ばせて頂きます。大地さんは夢花を選んだんですか?」
え、それは私も聞きたい。
でもお母さんに聞かれるのはずかしい。
居なくても絶対恥ずかしいだろうけど。
「それにこんなに歳が離れてるのはお分かりですよね?大地さんは女性にモテそうなのに、なんで年下過ぎる夢花なんですか?」
尤もな意見だろう。
だが女性にモテるって言うのは勘違いですお母さん。
なんで夢花を選んだのか、それは知りたいところだろう。
それなればはっきりと伝えないといけないな。
「私は⋯⋯⋯最初は自分の気持ちに蓋をしていました」
夢花にもまだ語っていない俺の葛藤を。
「お母さんの言うとおり、私と夢花の年齢は大きく離れています。それこそ親子のように」
お母さんとの方が年が近いんだろう。
「そのことが最大の問題だと思っていました。さらには今年に入ったばかりの新入社員です。そして私は上司なんです」
言葉を紡ぎながら、二人の視線をしっかり受け止める。
「夢花が自分に好意なんて抱くわけない。そう思っていました」
俺は夢花に視線を向ける。
「でも違ったんです」
夢花が照れたような笑顔を見せてくれる。
「最初は自分に父性を求めているのかと思っていました。そんな夢花を微笑ましく見ているときもあったんです」
その笑顔に勇気をもらえているようだった。
「だけど違いました。夢花の一途な想いが俺の心を変えてしまったんです」
更に俺は続ける。
「ずっと悩んでいました」
俺の苦悩を教える必要はないかと思ったが、気がついたら話している。
「自分が夢花のことを女性として好きになったらだめだと。上司なのに、こんなにも年が下なのに、絶対にだめだと」
私のこと、そんな風に考えていたの?
「それこそ胃に穴が空く位には悩みました。そして実際に空いてしまいましたね。本当に情けなかった」
え、それって、私のせい⋯なの?
「気付いたんです。夢花と何度も接することで。もう抑えられないところまで来ていたんです」
何度も⋯そうですよね、毎日面会に行ってたもん。
「夢花じゃないとだめなんだと」
大地さんの言葉が胸の中に入っていく。
「人生でこんなにも想ったのは夢花だけなんです」
心が震えているのがわかった。
「私は夢花を愛しています。誰よりも」
その言葉を聞いて涙が止まらない。
愛してる⋯私もです。
私も大地さんを愛してます。
言い切ったな⋯
全て伝えられてはいないだろう。
だが俺が夢花を愛している気持ちは伝えられた。
なんて言われるだろうか。
許して貰えないだろうか。
「そこまで夢花のことを想ってくれているんですね」
「はい、その通りです」
嘘偽りない俺の本心だ。
もう迷わないと決めたんだ。
「夢花のことをよろしくお願いします」
「はい⋯⋯任せてください」
しっかりと力強く返事をした。
「大地さん!」
「おっと、お母さんの前だろ⋯」
感極まったのだろうか、勢いよく俺に抱きついてきたのを受け止める。
「だって、だって⋯うう、嬉しいです!」
「あんたって子はなんてはしたないのかしらねぇ」
「大地さんとお母さんのせいじゃん!」
「ありがとうございますお母さん。私達のことを許して頂けて」
夢花の背中をさすりながらお礼を言わせてもらう。
「許すも何も、私は反対なんてしていませんよ。大地さんの気持ちを知りたかったんです。そこまで本気でいてくれるなら安心です」
「そうだったんですね⋯ありがとうございます」
「私も愛してます!私も本気です!」
「あんたは何恥ずかしいこと言ってるの。そういうのは二人きりのときにしなさい。こっちまで恥ずかしくなるじゃない」
「な、なんでよ!大地さんだって言ってくれたもん!」
「それとこれは違うでしょう。はぁ、困った娘だこと。大地さん、まだまだふつつかな娘ですがよろしくお願いします」
「ふつつかって何よ!もう大人だもん!」
あぁ、これだ。
この親子の他愛ないやり取り。
これを見てるのが好きなんだ。
自然と笑顔になってしまうな。
「あ、なんで笑ってるんですか!大地さんもふつつかだって思ってるんですか!」
おっと、俺もこの会話に参加できるのか?
嬉しいな。
「あはは、そうじゃないさ。俺は夢花とお母さんのやり取りが好きなんだ。この会話の一員になれたことが嬉しいよ」
「なんですかそれ!もぅ、せっかく許してもらえたのに困っちゃいます!」
「はいはい、あんたはさっさとその泣き顔をなんとかしてきなさい。お昼ご飯つくるんでしょ」
「うー、もう!今から美味しいご飯作るから待っててくださいね!」
笑顔になってキッチンへ向かう夢花。
その姿をじっと見つめていた。
これで憂いはなくなったな。




