第47話 目撃ドギュン?
日が完全に暮れた。
俺と夢花は抱き合ったままだった。
「夢花、そろそろ帰ろうか」
「⋯⋯⋯⋯はい」
ゆっくりと身体を離す。
助手席に夢花を誘導する。
運転席に乗り込み夢花の家へと向かった。
帰らないとなんだ。
このままずっと一緒に居たいのに。
車だとここからすぐ着いちゃう。
本当に今日はお別れなんですか?
恋人同士なんだから、帰らなくてもいいんじゃないんですか?
⋯⋯⋯ダメだよね。
お母さんが心配しちゃう。
でもこの手を離したくない。
「着いたよ⋯⋯⋯」
車を停め声をかける。
動こうとしない夢花。
それどころか絡んだ指が更に絡まる感じがするほど力を込めているのが分かる。
「帰りたく⋯ないか?」
「⋯⋯⋯はい」
「ふふ、俺も帰したくないんだ」
「⋯⋯⋯え?」
「でもな、ちゃんとしないとだから。夢花のお母さんにもしっかり報告して、許可をもらってからにしないか?」
「わかりました⋯⋯⋯」
どうした?
お母さんに知られたくないのだろうか。
だが真剣に交際するにはお母さんの許可が必要だと思うんだ。
お母さんに言うのが嫌なんじゃないんだけど⋯⋯⋯
ただ単純に恥ずかしいよぉ。
「今日は家に帰ろう。お母さんにちゃんと報告したら、結婚を前提に付き合ってほしい」
け、けっ、け?
「ま、まって大地さん、え、ほ、本当に?」
それって、フィアンセってやつじゃないの?
うそ、婚約?
私、大地さんの奥さんになれるの?
「ああ、俺は真剣だ。このくらい本気にならないと、夢花みたいな若い子には失礼じゃないか。中途半端な気持ちで付き合うのは無理だ」
「と、突然のこと過ぎて理解が追いつきません!」
そ、うか?
18の女の子には早過ぎたか?
逆の立場だったら確かに嫌かもしれないな。
ちょっと⋯いや、かなり急ぎ過ぎか。
「すまない夢花。少し急ぎ過ぎていたようだな。だけど俺はそのつもりだ」
嬉しいの、嬉しいんだけど、急すぎます!
だめ、混乱しちゃう。
だって、だってだよ?
さっき恋人同士になれたばかりなのに、いきなり結婚ってなに?
嬉しすぎます⋯⋯⋯
「わかりました。今日はこのまま帰ります」
「ありがとう。また連絡するな」
「はい、今日は本当にありがとうございました」
夢花と一緒に車を降りる。
マンションの入口前でお別れをする。
また後で、と言い手を離した。
一歩進んだ夢花。
俺はその背を見送る。
「大地さんっ」
俺の名前を呼び、クルッと振り返る。
そのまま俺に抱きついてきた。
「大好きです、大好き!」
「俺もだ。俺も大好きだ」
とっても小っ恥ずかしいな。
だが心が温かくなる。
俺も夢花を抱きしめる。
「このままだと離れたくなくなるな」
そう言われ身体を離された。
もっとこうしてたいのに。
お母さんに報告すればいいのかな?
それなら今すぐにでもしたい。
「離れたくないです。でも、今日は帰ります⋯」
私もなんとか大地さんから離れる決心をする。
でもこの時の私はこんなに恥ずかしい思いをするとは思ってもいなかった。
「それじゃあ行くよ」
離れた身体が徐々に熱を失っていく。
それが物凄く寂しく感じてしまう。
今の俺はどんな顔をしているだろう。
振り返り何度も手を振る夢花。
ちゃんと笑顔で手を振れているだろうか。
泣きそうな顔になっていないか?
崩れそうな表情になっていないか?
マンションのエントランスを通り姿が見えなくなった。
俺は車に乗ることができなかった。
ただその場に立ち尽くしていた。
離れたくなかった。
名残惜しくて何度も振り返っては手を振っちゃった。
ずっと優しく微笑んで手を振り返してくれた。
寂しいけど我慢だよね。
ちゃんとお母さんに報告しないと。
大地さんの言うちゃんとってこのことなんだよね。
お母さんは帰ってきてるかな。
私からも言った方がいい?
それとも大地さんと一緒に報告?
まって、二人で報告って、そんなのまるで結婚報告みたいじゃない?
そんなの嬉しすぎるけど無理、恥ずかしくて死んじゃう!
こんな恥ずか嬉しいの無理だよ!
マンションに帰る人がいた。
それに気付いた俺は、不審がられるのも困るのでその場から動くことができた。
そそくさと車に戻ると余計不審者に思われるだろうな。
なるべく平静を装い車に戻り、家へと帰った。
大地さんにメッセージを送る。
早くお返事来ないかな。
「ただいま~」
家に着いたらお母さんがいた。
「おかえりなさい、ちょっとあんた恥ずかしいわよ?もうちょっと場所を選びなさい?」
「え?なんの、こと?」
帰るなりお母さんにそんなことを言われた。
なんのことなのか全く理解できない。
「アツアツなのはわかったけど、あんな大きな声で好きとか、抱き合ったりとか、こっちが恥ずかしかったわよ」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯え?」
ど、どういう⋯⋯こと?
理解が追いつかない。
「見られたのがお母さんで良かったわねぇ。あんなの人様に見られたらどんな目で見れたか」
「あ、え、ほん⋯⋯とうに?」
見られてた?お母さんに?
全部見られてたの?
「ちょうど私が裏の駐輪場から入ってきたところだったのよ。そしたら課長さんと夢花が居たからびっくりしちゃったわ」
「ええええええええ!」
その夜、私のマンションで、私の叫び声が木霊した。
ふぅ、帰ってこれたな。
スマホを見ると、夢花からメッセージが来ているのに気付く。
『本当に今日はありがとうございました。気を付けて帰ってくださいね。またメッセージ待ってます』
俺はそれを見て、夢花と恋人になれたことを噛みしめる。
またメッセージ待っている、この一言か嬉しい。
もう気兼ねすることなんてないんだ。
好きなだけ夢花と話していいんだ。
誰にも咎められることなんてない。
誰かに夢花を取られることもない。
あとは夢花のお母さんを説得するだけか。
ん?追加でメッセージが来たな。
『大変です!見れれてました!お母さんに全部!』
大変?見られてた?何を?緊急なのか?
急いで俺は返信した。
あっ、大地さんからメッセージだ。
『何があった?何を見られたんだ?』
何って⋯
え?まさか説明しないとだめ?
大地さんと見つめ合って離れ際に大好きって叫んで抱きついて抱きしめ合って名残惜しそうにずっと手を振ってたことを説明しないとだめ?
恥ずかしすぎるよ~どうすればいいの!
でも言ったよ?全部って。
それでなんで伝わってくれないの~
『えっと、その⋯マンションの前でのこと全部です!』
全部⋯⋯⋯だと?
まさか本当に一部始終を見られてたのか?
それはだめなんじゃなかろうか⋯⋯⋯
報告する前に見られてたらだめじゃないか。
なんてこった。
ついこの前のことだろうが、迂闊にしてはだめだと理解したのに。
夢花を付き合えたことで舞い上がっていたな完全に。
はぁ、どうしようか⋯⋯⋯




