第44話 動物園で
「ほら、行き先が見えてきたよ」
今日の目的地の動物園だ。
触れ合える場所が多数ある動物園と書いてあったな。
ここに来るのは俺も初めてだ。
もちろんレッサーパンダがいるのはチェック済。
しかもだ。
レッサーパンダとも触れ合えるらしい。
日本では珍しいんじゃなかろうか。
事前申し込みに空きがあったのはラッキーだったな。
「わぁ、動物園!行きたかったんです!」
繋いだ手の先にいる夢花を見る。
とても嬉しそうだ。
やっぱり夢花は喜んでくれたな。
落胆されたらどうしようかと思ったが、これで一安心だろう。
「動物園なんて中学生以来です!」
凄く嬉しい。
看板にレッサーパンダが居るのが見えた。
私が好きなのことを覚えていてくれたのも嬉しい。
「俺も何年ぶりか思い出せないくらいには来てないな。夢花、ここはレッサーパンダと触れ合えるらしいぞ。予約しておいたからたくさん触れ合おう」
え?触れ合える?
レッサーパンダと?
直接?見るだけじゃないの?
ほんと?
そんな動物園あるの?
予約も取ってくれてるの?
嬉しすぎて混乱してきちゃう。
大地さんとレッサーパンダと私?
天国!天国だよそんなの!
明らかにテンションが上がったな。
俺もレッサーパンダは好きだが、夢花のレッサーパンダ愛は俺より凄そうだ。
駐車場に車を停める。
入口まではそこまで遠くない位置で良かったな。
「大地さん、早く早く、レッパンちゃんに会いに行きましょう!」
車を下りるなり俺の手を引く夢花。
レッパンちゃん?
レッサーパンダのことなんだろうが、初めて聞くなそんな呼び方。
「急がなくても予約の時間まではまだまだあるぞ?」
「その前からたくさん見ないとじゃないですか!それに他の子達もたくさん見たいです!あっ、ほら、カバさんの赤ちゃん産まれたって書いてあります!行きましょ行きましょ!」
「わかったわかった、それじゃあ行こう」
夢花に手を引かれ、俺達は園内へと足を踏み入れる。
入口によくある記念写真のコーナー。
夢花はそんなのに見向きもせず、園内マップを手にし、ぐんぐん進んでいく。
ワクワクが止まんないよ~。
最初は何がいるのかな。
ゾウさんもカバさんも見たいし、え?ここペンギンもいるの?
何ここ、本当にパラダイスじゃん!
「大地さん大地さん、ペンギンに餌やりあります!ここここ!見て見て大地さんっ」
「ん、ああ、ここにあるな。レッサーパンダの時間と被らないし行ってみよう」
「やったやった!絶対行きます!」
「ええっと、あと少しで始まりそうだから、まずはペンギンの所に行こうか」
ペンギンって魚を食べるんだよね?
よく飼育員さんが投げて食べさせるのとか見るけど、そっと咥えさせたい!
俺は夢花に手を引かれ、園内をぐんぐん進んでいく。
動物がいる度にじっくり見たい気にも駆られるが、夢花はペンギンに会いたいようでぐんぐん進んでいく。
「大地さん、ここですね!」
「そうだな。餌やり体験は⋯⋯⋯あそこで申し込みみたいだな」
受付に行くと、まだ受け付けているようなので予約を取る。
あと数分で始まるようだからラッキーだったな。
「良かったな、すぐに始まるみたいだ」
「はい、楽しみです!」
ワクワクしてるのが分かるな。
なんて可愛いらしいんだろうか
動物園を選んで良かった。
「あ、いましたよ!ぺんちゃんかわいいいいいっ」
可愛い可愛い可愛いよ~。
なんなんだろ、本当に可愛いの。
「大地さん、あそこあそこ、ぺんちゃんの赤ちゃんいます!」
「おっ、本当だな。子供ペンギンは可愛いなぁ。歩き方が可愛いすぎないか?あんなちょこちょこ歩いて⋯⋯⋯」
「可愛すぎます~本当になんなんですかね、連れて帰りたいです!」
ダメなのは分かってるけど連れて帰りたいほど可愛いよ~。
複数種類のペンギンがいるようだが、餌やり体験をするペンギンはケープペンギンのようだな。
飼育員さんの案内に従い、説明をよく聞く。
ペンギン舎内を申し込んだ人達であるく。
柵の中だからだろう、ペンギンがすぐ近くを歩いている。
さっき見かけた子ペンギンだろうか。
俺の近くを歩いている。
可愛すぎて歩みが止まってしまう。
手を繋いだ夢花は俺が止まったことに気付き立ち止まる。
「大地さん、どうしまし⋯⋯⋯⋯わ、わわ、わわわわわわわ、か、かかか、かわ⋯⋯⋯かわいい!」
夢花がおかしくなった。
だがそれもよく分かる。
なんせ俺の靴を一生懸命つついているんだ。
その姿が愛らしい。
ああ、連れて帰りたい。
そのまま優しく抱きあげて持って帰りたい。
「大地さんだけずるい!ぺんちゃん、私もつついて~おいで~」
夢花が優しく声掛けするが、子ペンギンは夢花に見向きもせずに俺の靴を無心につついている。
「なんで来てくれないの~でも可愛すぎるっ」
飽きたのだろうか、子ペンギンはそのまま去っていった。
歩く後ろ姿も可愛いらしい。
ほんの数秒だったが最高の時間だったな。
触りたい気持ちをグッと抑えた俺、頑張った。
飼育員さんに怒られたくは無いからな。
大地さんが羨ましい。
ぺんちゃんも優しい人がわかるのかな?
大地さんは優しいもんね。
動物にも伝わる大地さんの優しさ、素敵です。
動物にはしゃぎすぎてるけど、大地さんとだから余計に楽しい。
「こんなに近くで餌やりできるんですね!」
「そうみたいだな。これは楽しいな」
「はい、すっごく可愛いですね!」
あっという間に手持ちの餌が無くなっちゃった。
楽しい時間ってなんでこんなにすぐ終わるんだろう。
いいなぁ飼育員さんは。
「楽しかったな、レッサーパンダとの触れ合いタイムはまだ先だから他を回ろう」
「はいっ、そうしましょ!」
ペンギン舎を後にし、色んな動物を見て歩く。
いちいちはしゃぐ夢花が可愛い。
動物ももちろん可愛いんだが、それ以上に夢花が可愛い。
「そろそろお昼にしませんか?」
一息ついたところで夢花に提案される。
ちょうどベンチとテーブルもあるしそこでお昼にすることにした。
夢花がお弁当を作ってきてくれているんだもんな。
それも今日の楽しみのひとつだ。
「今用意しますね!」
丁寧にお弁当を広げていく夢花。
蓋が開く度に美味しそうなおかずが見える。
どれもこれもお弁当の定番だ。
だがそれが懐かしく俺の目に映る。
「おにぎりかサンドイッチ、どっちにするか悩みましたけど、サンドイッチにしました!」
「サンドイッチは好きだから嬉しいな」
お弁当箱は大きくないが、色とりどりのサンドイッチがぎっしりと詰まっている。
「お口に合うか分かりませんけど⋯」
大地さんが手を合わせて頂きますと言って卵焼きに手をつける。
いつも美味しいって食べてくれるけど、やっぱり心配になっちゃう。
「ん、うん、美味しいなぁ。夢花が作るものは何でも美味しいから嬉しいよ」
その一言でほっと安心する。
「よかったぁ。どんどん食べてくださいねっ」
ゆっくりだけどたくさん食べてくれる大地さんを見ている。
私はこの食事風景がとても好き。
大地さんが嬉しそうに食べてくれるのが1番のおかずかも?
私も箸が進んじゃう。
「ふぅ、美味しかったなぁ。ご馳走様」
箸を置き、夢花の用意してくれたポットのお茶を飲む。
美味しいな。
こんなものまで用意してくれてたんだな。
何から何まで用意してくれてありがたい。
「夢花は良い奥さんになるだろうな。料理も美味しいし、こういう気遣いもできるんだから」
お茶の吹き出しそうになる。
奥さんって言われた。
その事に気が動転するかと思った。
「え、その、え?」
「あ、いや、そのなんだ、夢花はしっかりしてるなって思って⋯な」
「は、はい⋯ありがとう、ございます」
まだお付き合いもしてないのに、奥さんなんて早いよ。
びっくりさせないでください。
でも大地さんと結婚したら⋯⋯
わわ、また変な妄想しようとしてる。
ダメダメ、帰ってからゆっくりしないとだよ!
ってそうじゃない。
今は動物園を楽しむの!
「そろそろレッサーパンダのところに行こうか。今日のメインと言っても過言ではないからな」
「はいっ!そうしましょ!」
ふぅ、なんとか話を逸らす事ができたか。
俺は不用意になんてことを言ったんだ。
レッサーパンダを楽しく戯れて、その後は⋯⋯
よし、気合いを入れないとな。
夢花に気付かれないように心の中で気合を入れ、覚悟を決める。
⋯その前に俺もレッサーパンダと本気で戯れてこようじゃないか。




