第43話 デートの朝は
俺はゆっくりと目を覚ます。
今日はこれから夢花とデートだ。
緊張で眠れないかと思ったが、むしろ腹を括ったおかげかぐっすりと寝れたようだ。
夢花もなかなか寝付けないみたいなメッセージを送ってきていたな。
ちゃんと寝れたか心配だ。
まだ若いから平気だとは思うが。
ついにこの日が来た。
あんまり眠くないけどそれどころじゃない。
朝からお弁当の準備。
大地さんに美味しいって言ってもらいたい。
だから私の愛情たっぷり入れるんだもん。
ふふ、緊張するけど喜んで貰いたいから頑張る。
夢花の家までは車だと5分だ。
そわそわしてしまうな。
まだ1時間もあるのに。
中学生か俺は。
初デートでもあるまいのに。
だがあの青臭い時代を彷彿とさせるような恋をしているんだ。
甘くて苦くて酸っぱくて。
そんな想いを思い出させてくれて感謝しかないな。
酸っぱいは胃酸の可能性もあるが気にしないでおこう。
また胃に穴があくのは勘弁だ。
あと30分。
準備は完了。
鏡の前で服もメイクも髪型もチェック。
うん、バッチリ、だよね?
どこか変なとこないかな?
大丈夫だよね?
誰か教えて~。
大地さんに可愛いって思ってもらえるかな。
でも大地さんは大人の女性が好きそうだけど⋯
大人っぽい服もメイクもわかんないよ。
あーもう、服も買う時間なかったし、メイクの練習時間もないし、仕方ないよね!
そわそわが止まんないよ~。
もう15分前だ。
いいよね?外で待っててもいいよね?
よし、10分前に着くがこのくらいなら許容範囲だろう。
行くか。
久しぶりに車に乗り込む。
エンジンは問題なくかかるな。
ハンドルを握る手が汗ばんでいる。
高揚しているのが分かる。
逸る気持ちを抑えながら発進した。
やっぱり早かったかな、大地さんはまだ来てない。
うー、どうしよう、手汗がすごい。
白のスリーブレスブラウスにパステルピンクのハーフパンツ。
ライトブルーのスニーカー。
ちょっと子供っぽいかな?
でも動きやすい服装って言ってたし。
ブラウスは袖ぐりと前のボタンのとこにレースがあしらわれてるけど可愛い⋯よね?
ガラス戸に映った自分の姿を確認しながら大地さんを待っている。
車の音が近付いてきた。
大地さんかな⋯
そう思ったら心臓の鼓動がさらに早くなる。
音の方を見る。
まだ大地さんか分からない。
それでも私は近づいてくる車を見続けている。
夢花のマンションが見えてきた。
マンション入口に人がいるのに気付いた。
あれは⋯⋯夢花か?
逸る気持ちが加速する。
アクセルを思い切り踏んでしまいそうだ。
少し走ると確信に変わる。
やっぱり夢花だ。
俺より早く来てるなんて⋯
こんなことならもっと早く来れば良かった。
フロントガラスの向こうの人が誰か認識できる距離にきた。
やっぱり大地さんだった。
心臓の音がうるさい。
私の前に車が停る。
乗って⋯いいのかな?
ドキドキし過ぎて動けない。
夢花の前に車を停めた。
サイドブレーキを引き、パーキングに入れる。
一つ一つゆっくりだ。
少し手が震えている。
それだけ俺も緊張しているんだろう。
デートもそうだが、この後の⋯⋯やばいな。
深く深呼吸をする。
少し落ち着いたか?
自問自答し、車を降りる。
動けないでいたら大地さんが車から降りてきた。
声が出ない。
おはようございますって挨拶しなきゃなのに。
背の高い大地さん。
私服姿の大地さん。
優しく微笑んでいる大地さん。
そんな大地さんに見惚れちゃう。
「おはよう夢花。遅くなってごめん」
声を掛けるが返事がない。
どう⋯した?
遅くて怒っている⋯って感じでは無さそうだが。
「夢花?」と声を掛けながら目の前で手を振る。
「お、おおおおはようございます!」
目の前で手を振られたことで我に返った。
どもりすぎだよ~もうやだ。
見過ぎだし!
カッコよすぎるのがいけないんだよ~。
「具合悪い⋯のか?」
「そ、そんなことないです!元気いっぱいです!」
う~心配させちゃったよぉ。
しっかりしないと!
「元気なら良かった。今日も似合ってるよ。とても可愛いらしいな」
俺は素直に夢花を褒めておく。
お世辞抜きに可愛いんだ。
「はぅっ⋯⋯⋯⋯」
そんなの反則です⋯
また身体が固まってしまったかのように動けなくなる。
うぅ、私もかっこいいって言いたいのに。
ずるいよ大地さん⋯
「じゃあ行こう」
声を掛けてから助手席のドアを開ける。
俺の車はセダンタイプの車だ。
夢花が動こうとしないので背中に手をかける。
「さぁ、どうぞ」
そう言われて背中に優しく手が添えられた。
そんな触れたらダメ⋯
今触られたら、本当にダメなんです。
大地さんに触れられた箇所が熱い。
変な子って悟られたくない。
私は無理やり車に乗り込む。
シートに腰掛けると、ゆっくりとドアを閉めてくれた。
ただ車に乗るだけなのになんて大変なんだろう。
今日のデート、私生きてられるかな⋯
さて、それじゃあ出発するか。
俺も乗り込みハンドルに手をかける。
「どこに行くかは着いてからのお楽しみでいいか?」
「は、はい!」
「それじゃあ、今日は1日よろしくな」
そう言って俺は車を発進させた。
気まずくはない。
なのに会話がない。
大地さんは前を向いて両手でハンドルを握っている。
チラチラと手を見てしまう。
触れられたら大変なのに、触れてほしい。
また手を握って運転して欲しい。
ふぅ、心臓がうるさいな。
平静を保つので精一杯だ。
信号に止まる。
夢花にチラチラと見られているのは気付いている。
俺も夢花を見る。
夢花と目が合った。
夢花の右手が座席の間の肘掛けに置かれている。
何度見ても可愛いと思ってしまう。
自然と俺は手を重ねていた。
はぅ⋯ダメなのに⋯
ビクッと震えてしまう。
優しく私の右手が包まれる。
重なる手。
大地さんの温もり。
とても好き。
心まで温かくなる。
大地さん⋯好きです⋯⋯⋯
もう手を繋ぐのが、触れ合うのが当たり前のようだった。
恥ずかしさも高揚感もある。
だけど触れ合うことに喜びを感じてしまう。
手を繋いで帰ったあの日から、ずっとこうしたかったんだ。
やっと触れ合えたんだ。
離したくないな。
手を重ね、優しく握り、信号が青に変わる。
そのまま俺は走り出した。




