第41話 待てないけど待ちます
あれからしばらくして俺は家へと帰ってきた。
スマホを確認するが、夢花からのメッセージはない。
俺からするべきなんだろうか。
夢花はお母さんと何を話しているのだろうか。
ふぅ⋯⋯⋯⋯⋯⋯
「そこに座りなさい」
お母さんに椅子に座るように促された。
返事をして椅子に腰かける。
「夢花が課長さんのことを好きなのは知ってるわ」
いきなりだった。
座ってすぐにそう言われ、私は心臓が跳ね上がる。
「いつも課長さんの話ばっかりだったものね」
そんなにして⋯⋯⋯たよね。
私は返事もせず下を向いていた。
「課長さんとお付き合いしてるの?」
また私の心臓が跳ね上がる。
付き合う⋯⋯⋯⋯
「ううん、してない⋯⋯」
「そうなのね」
お母さんは返事をしたあと黙って私を見つめていた。
まだ夢花からメッセージが来ない。
まさかお母さんに連絡するなとか言われてるのか?
そう言われたらもうどうすることもできないじゃないか。
お母さんを説得するのが一番のネックだったというのに。
まさか見られるなんて⋯
くそっ、どうしたらいい。
待つしか出来ないのか。
沈黙が続いているのが苦しい。
お母さんは何を求めてるの?
「お母さん⋯」
「なぁに?」
「えっと⋯ダメなのかな⋯」
「何が?」
「私が大地さんのこと⋯す、好きなのってダメ?」
「⋯⋯⋯なんでそう思うの?」
なんでって⋯⋯⋯なんで?
私が大地さんを好きになるのはダメなことなの?
「お母さんが⋯⋯お母さんの雰囲気がそんな気がするから⋯⋯」
「はぁ⋯⋯⋯ダメではないのよ。ただね、夢花と課長さんは何歳離れてると思うの?」
「えっと⋯⋯⋯⋯27歳だったよ」
うん、分かってた。
親子だよこんなの。
「そう。そんなに離れているのね。問題はそこよ。夢花はそんな年上の男性でいいの?」
「問題なんてないもん!」
「好きになったからって周りが見えてないだけなんじゃないの?」
「違うもん!」
「落ち着きなさい」
「私は大地さんのことが好きなの!初めてなの!こんなに男性に惹かれたのも好きになったのも大地さんが初めてなの!」
「落ち着きなさい夢花。あなたが課長さんをとても好きなことはわかったわ」
捲し立てるように大地さんへの想いを口にしたことで息が上がってしまう。
ダメだな。
何もする気にならない。
夢花とお母さんが何を話しているのか気になって仕方がない。
このまま俺と夢花の関係は終わってしまうのだろうか。
なんて浅はかだったのだろうか。
人目に付くのは分かっていた。
それならお母さんにも見つかることも考えておかないとダメじゃないか。
後悔の波が押し寄せる。
今更どうすることも出来ないのに。
次回なんてもうないじゃないか。
浅はかな自分の行動を悔いたところで次に活かせなかったら意味が無いんだ。
息が整う。
私が落ち着くのをお母さんは待っていてくれた。
「夢花、いい?私はあなたがどんな人を好きになろうと構わないわ。あなたの人生だもの」
私は黙って聞いている。
「私も好きに生きてきたわ。あなたを産んで直ぐに離婚して⋯⋯本当にごめんなさい。その事で夢花には寂しい思いをさせてたのは事実だわ」
そんなことない。
お母さんが居てくれたから寂しくなんてないもん。
お母さんに謝られたことで涙が溢れてくる。
「夢花が年上に惹かれてしまうのもわかる気がするわ。だからどんな人を夢花が選ぼうと私は反対なんてしない」
「お母さん⋯⋯⋯」
「さっきは私も混乱してしまったの。夢花も課長さんとまだ一緒に居たかったでしょう。ごめんなさい」
「ううん、謝らないで⋯大丈夫だから⋯私はお母さんがいて寂しくなかったよ!ありがとうお母さん」
お母さんも涙が溢れている。
私も止まらない。
二人で泣いている。
テーブルで指を組んでいたお母さんの手が震えている。
その震えた手に私の手を重ねた。
「ありがとう夢花。私は、あなたがいて幸せよ」
「私もお母さんの娘で幸せだよ⋯ありがとうお母さん」
泣きながら二人で笑っていた。
お母さんありがとう。
スマホが音と共に震える。
すかさず俺はスマホを手に取った。
夢花からのメッセージだ。
ロック画面に表示された一部の文章。
その最初の文が『ごめんなさい』だった。
俺の心臓が締め付けられる。
これは⋯⋯⋯そういう、ことなのか?
もう夢花と話すことはできないのか。
夢花と散歩することもできないのか。
夢花の手料理を食べることができないのか。
夢花とのこれからの未来全てがなくなったのか。
様々なことが頭の中を駆け巡る。
俺はスマホを握ったまま動けない。
メッセージの本文を見る勇気が出ない。
スマホのロック画面のままだ。
しばらくしてロック画面がブラックアウトした。
まだ俺は動けないでいる。
それだけ夢花のことを好きだったのだろう。
失恋した。
そう思ったら動けなかった。
ベッドに戻った。
あとは寝るだけ。
その前に大地さんにメッセージを送った。
心配してるかもしれないから。
なのに返事が来ない。
既読にもならない。
寝ちゃったのかな。
ずっと大地さんとのメッセージ画面を見ている。
いちいちスマホの画面が消えるのが面倒だからスクリーンが消えない設定に変える。
お母さんの許可は貰えた。
大地さんは私のことをどう思っていますか?
親子ほどの年齢差だから、娘みたいに思ってるだけですか?
大地さんの声が聞きたいです。
大地さんの温もりに包まれたいです。
明日も会えますか?
会いたいです。
スマホを持ったまま俺はソファにもたれかかったままだ。
メッセージを見る勇気が出ない。
夢花との関係を終わらせたくない。
見たら終わってしまうのかと思ってみれない。
なんて女々しいんだろうか。
俺はこんなにも女女しかったのか。
途方に暮れていると、さらにスマホが鳴動した。
ゆっくりとスマホを見る。
夢花からだった。
『会いたい』
そう表示されていた。
俺は急いでスマホを確認した。
え、ちょっと待って⋯⋯⋯
会いたいって送ってる!
何してるの私、寝ぼけてたから?
だとしてもこんなの⋯⋯⋯ああ、既読になってる⋯
さっきまで全く既読にならなかったのになんで。
送信取り消しできなかったよぉ。
うぅ、恥ずかしい⋯
さっきのメッセージと共に読む。
『ごめんなさい。お母さんと話をしました。それで遅くなって⋯本当にごめんなさい。お母さんには怒られませんでした。大丈夫です。ご心配おかけしました』
『会いたいです』
心が軽くなる。
何度も何度も読み返す。
勘違いだった。
会いたい⋯
俺も会いたい。
夢花に会いたいよ。
『こちらこそごめん。軽率だったと思う。俺も夢花に会いたいよ。だけど待っててくれ。ちゃんとしよう』
まただ。
まってて、ちゃんと。
やっとわかった気がします。
でも待てません。
待てないけど⋯待ちます。
私もちゃんと大地さんと⋯⋯⋯
『待てません。早くしてくださいね?もう待てないくらい⋯⋯⋯だから待ってます』
俺も待てないんだ。
夢花⋯⋯⋯




