第39話 待ってます
夜の道を1人歩く。
夢花にキスをしてしまった。
おでこだがしてしまったんだ。
後悔の波が押し寄せる。
唇に唇を重ねてしまいそうなのを我慢したのはいい。
だが触れてしまった。
本当はそのままキスをしたかった。
キスだけじゃない。
それ以上も⋯⋯⋯⋯
全然立ち上がれない。
キスをされたおでこが熱い。
「大地⋯⋯⋯さん⋯⋯⋯」
なんでキスしてくれたんですか?
大地さんにとって私はなんなんですか?
そっとおでこに手を触れる。
まだ熱い。
キス⋯⋯⋯⋯して欲しかったな。
おでこに触れた手を唇に添える。
ここにされたらどうなるんだろう。
大地さんの柔らかい唇の感触を思い出す。
身体全部が熱くなる。
全然、立てないよ⋯⋯⋯
夢花の事を思い出す。
あそこまでしたんだ。
気持ちを伝えないとダメだろう。
あの子に言わせたらダメだ。
今日までたくさん頑張ってくれたあの子の為に、俺がちゃんとしないとだろう。
夢花にメッセージを送っておこう。
動かなきゃなのになかなか動き出せない。
スマホが鳴ったのが聞こえる。
大地さんかな⋯
私は何とか身体を動かしてスマホの所まで行く。
メッセージの名前は大地さんだった。
心臓がドクンと跳ねる。
おそるおそるメッセージを確認した。
『今日はありがとう。とても美味しかったよ。最後のことは、すまなかった。ちゃんとするから、あと少し待ってて欲しい』
大地さん⋯⋯⋯
なんで謝るんですか?
今も嬉しくて身体が熱いです。
待つって⋯⋯⋯何を?
ちゃんと?
どういうことなんですか?
全然分かりません。
もっとちゃんと詳しく教えてください。
考えてもわかんないよ。
なんて返せばいいの?
スマホの画面を見つめたまま、私は時が止まったかのようにそのまま動けないでいる。
家に着いたが夢花からメッセージが返ってこない。
やはりおでことは言え、キスしたのはマズかっただろうか。
夢花とのメッセージ画面を開く。
既読にはなっている。
なのに返信がない。
嫌だったのだろうか。
だとしたらとんだ失敗だ。
もう一度メッセージを送った方がいいのだろうか。
それとも引き返すべきか?
こんな時はどうすれば⋯⋯⋯
どうしよう。
もう30分も動けないでいる。
既読にしたし、早く返信しないとなのに、なんてメッセージしていいのか分からない。
ボーッとしながら画面を眺めている。
また大地さんからのメッセージが来るのに気付いた。
『やっぱり嫌だったよな。本当にすまなかった』
え、なんで?
⋯⋯⋯あ、私がメッセージしないから?
早くないと。
嫌なわけないじゃないですか。
大地さんが悲しい思いをしてるのかもしれない。
急いで何か言わないと⋯⋯⋯
苦し紛れに俺はメッセージを再び送った。
すぐに既読がついたのに気づく。
画面を見てたのか?
ということは、夢花はメッセージを送ろうと⋯
まさか、早とちりか?
いや、だとしても謝らないといけない案件じゃないのか。
『こちらこそ今日はありがとうございました。また大地さんの為にご飯作らせてください。私、待ちます。よく分からないけど待ちます』
作らせてください⋯⋯か。
夢花らしいな。
よく分からないけど、か。
そうだよな、何を待つかは言わないと分からないよな。
やっとメッセージを送れた。
大地さんが謝ってくれたのは、多分、キスのこと⋯だよね。
そのことについて、なんて言えばいいか解らないです。
待つこともよく分からないけど、大地さんが待っててって言うなら待ちます。
『そうか。待っててくれると嬉しいよ。明日も仕事だろうから、ゆっくり休むんだぞ』
分からないけど分かりました。
待ちますね。
待ったらいいことがあるんですよね?
大地さんにおやすみなさいとメッセージを送り、ようやく私は動き出せた。
明日からも頑張らないと。
夢花からメッセージが来たことに安堵している。
そのままソファにもたれ掛かる。
ちゃんと⋯⋯⋯か。
何からすればいいか、何にもプランニングできていない。
無計画すぎる。
普段の俺からは考えられないな。
俺の気持ちは固まった。
夢花の気持ちも、俺と同じだと思う。
夢花のお母さんだろう。
ここを何とかしないといけないんだ。
だが一体どうやって説得すれば⋯
普通なら許されるはずないだろう。
どうしたらいいんだ。
はぁ、結局退院しても胃が⋯⋯⋯⋯
朝になってしまったな。
あれからずっと考えていた。
答えの出ない問題とはこのことだろうか。
出口のない迷路に迷い込んだのだろうか。
解決策など何も出なかった。
ふぅ⋯⋯⋯
溜息しか出ないな。
夢花は会社に向かっているだろうか。
あれからメッセージが来ることはなかった。
⋯⋯⋯朝になっちゃった。
全然寝れなかった。
大地さんの言葉が、おでこにキスされたことが、抱きしめてくれたことが、大地さんに食事を振舞ったことが、昨日の夜にあったことを思い出していたら朝になっちゃった。
嬉しかったのに、なんだかスッキリしない。
何度もメッセージを送りそうになってた。
聞きたかった。
何を待てばいいのか。
結局なんにも分からなかった。
⋯⋯⋯とにかく用意して行かないと。
どうしたって夢花のお母さんには許可をもらわないといけないんだ。
ウダウダ考えても仕方ないだろう。
誠心誠意、俺の気持ちを伝えるしかない。
あとはいつにするか⋯⋯だな。
早い方がいいんだろうか。
『おはようございます。昨日はありがとうございました。お休みはまだまだありますし、ゆっくり休んで下さいね!』
思考の海に囚われていると、夢花からのメッセージがあった。
夢花は寝れたのだろうか。
俺は一睡も出来なかったが、今日も予定は無い。
夢花からのメッセージを見て、心が安堵したからなのだろうか、なんだか眠気が急に来たな。
俺は欠伸をしながら夢花へメッセージを返信した。
今日も頑張らないと。
絶対眠くなるだろうけど⋯
『おはよう夢花。こちらこそ昨日はありがとう。夢花は今日も仕事だろうから頑張って。なんだか夢花のご飯を朝から食べたくなってしまうな』
⋯⋯⋯え?
それなら朝から作ったのに。
お母さんは結局今も帰っていない。
泊まっていって欲しかったな。
朝まで大地さんと一緒に⋯⋯⋯
わわ、私なんてこと考えてるの!
だめだめ、これから仕事なんだからこういう妄想はしちゃダメ!
絶対今の私、顔が赤くなってる⋯
お仕事頑張らないとなんだからダメだよ。
頑張ったご褒美で、帰ったら大地さんとお泊まりデートの妄想をしないとだよ。
って私は朝から何考えてるのよ。
でもまた食べたいって言ってくれるなんて嬉しいな。
よし、今日も頑張れそう!
欠伸をまた一つする。
そろそろ寝れそうだ。
『いつでもいくらでも作ります!本当に毎日作ります!いつでも来てくださいね!むしろ私が大地さんのとこにいきます!』
夢花のメッセージを見て、自然と頬が緩む。
可愛らしいな本当に。
そのメッセージに返信しようとしながら、俺はそのまま眠りについた。
今日も頑張れた。
大地さんのメッセージのおかげだね。
昼にもメッセージが来てた。
『疲れてないか?午後も頑張るだよ』
いつも大地さんに守られてる感じがしてくる。
短い文章だけど、大地さんの優しさが伝わってくる。
でも少し⋯ううん、だいぶ眠い。
帰ったらすぐ寝ちゃいそう。
一睡もしてない割にはあまり寝れなかったな。
だがスッキリしている。
夢花の食事のおかげだろうか。
それとも覚悟を決めたからだろうか。
なんだか夢花に無性に会いたいな。
いつでも作ってくれる⋯か。
夢花の先程のメッセージを思い出す。
相変わらずのプロポーズ並のセリフに頬が緩んでしまう。
それが実現するように、ちゃんとしないとな。




