表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】おじさんガチ恋物語〜私の初恋は会社の上司。この恋、社会的にアウトですか?〜  作者: 音無響一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/52

第34話 おかえり

入院生活4日目だ。


やっと入浴の許可が降りた。


清拭と言われる身体を拭くことは自分でしていたが、どうにもスッキリしない。


入浴と言ってもシャワー浴なんだがな。


もう車椅子も必要ないくらいには回復している。


朝からとっても美味しい⋯うん、美味しいんだ、一生懸命調理師の方が頑張って作ってくれてるんだ、美味しいと思え。


その美味しいと思い込んで食べる流動食も食べたし元気だ。


午後から咲ちゃんとの約束があるしな。


売店で髭剃りを買って風呂で剃るとしよう。







昨日はたくさんお話できて良かった。


今日も朝から大地さんにメッセージもした。


寝る前にもメッセージした。


すぐに返事が来るから本当に嬉しい。


この前までまなかなか来なかったりしたから。


またメッセージもたくさんしてもいいんですよね?


でも大地さんには困っちゃう。


ちゃっかり女の子とも仲良くなってるし。


小学生だとしても嫉妬しちゃいます。


なんですか折り紙が得意って。


そんなの小学生の女の子が喜ぶに決まってるじゃないですか。


帰り際に私も大地さんからひとつ貰った。


ふふ、可愛い。


ちゃんとお部屋に飾ってますからね。







ふぅ、かなりスッキリしたな。


髭も剃ったし、これで夢花がいつ来ても恥ずかしくないな。


咲ちゃんも髭面のおっさんより、こっちの方がいいんじゃないだろうか。


さて、お昼ご飯まで少し時間があるし、くす玉でも作るかな。


どうせなら見た事のないのを作ってあげようと、少し凝った作りのくす玉を作ることにした。


カッターやノリがないから作れる幅は少なくなるが、それは仕方ない。


サイズ感も大きくなるが⋯


そこは我慢してもらうしかないな。


昨日から作っていたから、なんとか昼ごはんまでには間に合ったな。







「今日も私は行けそうにないわ。大地さんのことよろしく頼んだわ」



アリサさんは毎日忙しそうだ。


アリサさんの分も大地さんのことお世話してきますね。


玉木さんも今日は行かないみたい。


昨日のうちに折り紙は買っといたし、今日も頑張って終わらせよう!







「おじさん、こんにちは!」



咲ちゃんはもういるのか。


俺はくす玉を背中に隠しながら近付く。



「こんにちは咲ちゃん。今日も頑張ってるね」


「だってやることないんだもん。動画ばっかり見てたらママに怒られるし、ゲームしてたらパパに怒られるし、だからこうして折り紙してるのっ」


「あはは、入院生活はつまんないもんなぁ。そんな咲ちゃんにプレゼントだ」



背中に隠していたくす玉を咲ちゃんに見せる。


その大きさにもびっくりしたんだろう。


咲ちゃんの顔より大きい。



「わぁ、これくす玉だ!咲も作ろうかなって思ってたやつ!これ咲にくれるの?」


「咲ちゃんへのプレゼントだよ。もらってくれるかい?」


「やったやったぁ!おじさんありがとうっ」



すごい喜んでくれるんだな。


可愛いなぁ。


くす玉を持って、嬉しいに眺めている咲ちゃんの頭を撫でていた。



「ママとパパにも見せてあげないと!おじさん本当にありがとうっ」


「昨日約束したもんな。喜んでくれて嬉しいぞ」


「うんっ!とっても嬉しい!作り方教えてね!咲も作れるようになりたい!」


「もちろん一緒に作ろうな」



咲ちゃんは明るくていい子だなぁ。


どこが悪いんだろうか。


深いことを聞くのも悪いし聞かないでおくか。


それに一般病棟に来れるくらいだから、そこまで悪くないんだろう。







今日も私は頑張ったわ。


もう大地さんの病室の前にいる。


ノックをしお部屋に入った。


メッセージで事前に面会に行くことは伝えてある。


お返事があったのでそのまま入室した。



「大地さんこんばんは!」


「おかえり夢花」



おかえり、その言葉にドキッとしてしまう。


ただいまって言っていいのかな。


言ったら変?


そんなことないよね、だって大地さんがおかえりって言ったんだもん。







俺は何と言ったのか。


夢花が来てくれたのが嬉しかったのは確かだが⋯


おかえりはないだろう。


見ろ、夢花も動揺してるじゃないか。



「え、えっと、その、た⋯ただいま⋯です⋯⋯⋯」



なんだこの雰囲気は。


どうすればいい。


誤魔化すことなんて出来ないぞ。



「すまない、変なことを言ってしまったな」


「い、いえ」



ここは素直に謝っておくか。



「嬉しい⋯⋯⋯です⋯」


「⋯⋯⋯え?」


「帰る時は、行ってきます、ですね」


「あ、ああ、そう⋯⋯⋯だな」



なんだこれは⋯⋯⋯甘々カップルか。


新婚の夫婦か?


なんだこの空気感は。






顔が緩んでしまう。


ただいま、おかえり、行ってきます、行ってらっしゃい、ただそれだけの言葉が嬉しい。


社内では外回りに行く時に行ったり言われたりしている。


もちろんお母さんとも。


でもそれとは全然違う。


当たり前の言葉なのに特別に思えてしまう。


大地さんのいるところに帰ってきていいんだ。


そう思えたら胸がキュンっと高鳴ってしまう。


私の帰る場所は大地さんのいる場所でいいんですね?


大地さんもですよ?


大地さんの帰る場所も私の元に⋯⋯


そうなって欲しいなぁ。


伝えてもいいの?


私のこの気持ちをあなたに。


今じゃないのは分かってる。


でも⋯⋯⋯⋯もう抑えきれません。






なんだこの空気感は⋯甘い⋯甘すぎる。


嫌じゃないし居心地も悪くないんだが、気恥しさが勝ってしまう。


もういい大人だしおじさんなのに、なんなんだこれは。


学生時代の甘酸っぱい記憶の中にある恋愛に似ている。


いや、あの時もこんなに甘いだけの雰囲気になっただろうか。


これは恥ずかしい⋯⋯⋯


だけど心が温かくなるんだ。


夢花といるといつもそうだ。


何でだろうか。


だからおかえりって言ってしまったのだろうか。


夢花が来るのを、帰ってくるのを望んでいた。


寂しさがあるわけじゃない。


一人の時間が長かったから。


そんなことを思うことすら無くなっていた。


夢花と会って、夢花と過ごしてわかったんだ。


優しい穏やかなこの雰囲気を、ゆったり流れる時間を、俺は求めていたんだろう。


夢花となら⋯⋯⋯⋯






どうしよ、嬉しすぎて無言になっちゃってた。


でもいやな雰囲気じゃない。


大地さんとの時間。


仕事の疲れも吹っ飛んじゃう。


大地さんと目が合った。


優しい笑顔をしてくれる。


またその笑顔を私に向けてくれるんですか?


大地さんの笑顔に合わせて私も口角が上がってしまう。


頬が緩んでいるのがわかる。



「大地さん、あの⋯⋯⋯」


「ん?どうしたんだ?」



何言おう、なんか言いたいんだけど、どうしよう。


今何も考えずに発言したら、絶対事故っちゃう予感しかしないよ。


ちゃんと考えて、考えて考えて考え⋯⋯



「あの!ひげ⋯剃っちゃったんですね」



何言ってるのよ。


どうでもいいのにそんなこと。



「ああ、だらしないし汚らしかっただろ?夢花にあんな姿見せたくなかったからな」


「いえ、お髭の生えてる大地さんが新鮮だったですし、その⋯えっと、かっこよゴニョニョ⋯」



やっぱりだめ、またかっこいいとか言いそうになってるよ。


ちゃんと考えて!







「シャワー浴だけだが許可も降りたからな。久しぶりにさっぱりしてきたんだ」


「そうなんですね、もっと見たかったのに⋯」



髭面なんていいもんじゃないと思うんだが⋯見たかったのか?



「あ、そうです!折り紙買ってきました!ノリとカッターも買ってきました」



そうそう、折り紙で色々やるために夢花に追加で買ってきて貰ってたんだ。



「ありがとう、代金は退院してからでいいか?」


「気にしないでください!」


「いやいや、そういう訳にはいかないだろう?」



部下に立て替えじゃなくて買ってもらうなんてなぁ。


どうしたもんか。



「あっ、じゃぁ、私にも咲ちゃんみたいにくす玉とか作って欲しいです!」



そんなのでいいのか?



「わかった、じゃあ可愛いの作っておくな」


「やったぁ、嬉しいです!」



こんなことで喜んでくれるならいくらでも作るぞ?


咲ちゃんにも作っておいてあげないとな。



「あとあと、バラももっとほしいですし、私も大地さんと一緒に折り紙したいです!」


「あはは、そんなに気に入ってくれたのか?退院したらいくらでも教えてあげるからな」


「ほんとにほんとですか?約束ですよ?」


「ああ、本当に本当だ」



もう突き放すことはしないと決めたんだ。


俺は俺の心に従おう。


自分も夢花も苦しめていたんだ。


ダメなのは分かっている。


こんなに喜んでくれるんだ。


俺も夢花と一緒にいたい。


素直になろう。


何度も思う、ダメなのは分かっている。


だがもういいんじゃないんだろうか。


お互いがお互いを求めている。


自惚れなんかじゃないだろう。


夢花も俺を求めているはずだ。


その結果、誰かが不幸になろうとも⋯






嬉しい、来てよかった。


ううん、帰ってきて良かった。


大地さんの所へ戻ってきた、そう思ってるだけなのににやけちゃうし恥ずかしくなる。


もう少しで行かなきゃだけど、明日また帰って来れんだもん。


寂しいけど頑張らないと。


大地さんとの時間が退院後もある。


それがわかったの。


またドライブした時みたいなデートもできますよね?


たくさんたくさん、デートしてくれますよね?


私は毎日大地さんの為に料理作ります。


えへへ、奥さんみたいだ。


結婚しちゃうのかな?


しちゃうのかな?しちゃうの?


わぁぁぁ、大地さんが旦那さん?


わぁ、わぁ、わぁ、だめ、だめだめ、家に帰ってゆっくり妄想しよう!


ってそうじゃない、落ち着くのよ。






夢花はなんだか1人で楽しそうだな。


何を考えているんだ?



「夢花、そろそろ時間になりそうだ」


「あっ、もうそんな時間⋯」



もうそんな時間なんだな。


夢花は立ち上がり手荷物を持った。


俺もベッドから出て立ち上がる。



「無理しないでください!」


「このくらい大丈夫だよ。もう普通に歩けるんだ」



慎重に立ち上がり、入口まで付き添おうとした。


さぁ行こう、そう声をかけようとした時だった。


急に一瞬膝の力が抜ける。







「大地さん!」



びっくりした。


あの時の事がフラッシュバックしそうになる。


私は急いで手を伸ばす。


必死で大地さんにしがみついた。


やだ、大地さんに何かあったら嫌なの。






夢花がタックルをするかの如く突っ込んできた。


膝が折れ、後ろ荷重の俺にだ。



「うぉっ」


「きゃっっっ」



真後ろがベッドで良かった。


良かったが⋯⋯ダメだこれは。







「夢花⋯⋯⋯」


「大地さん、大丈夫ですか!」



必死だった。


また私の目の前で大地さんに何かあるのが怖かった。


でもこれ⋯⋯⋯⋯え?


私が大地さんを押し倒した?



「ご、ごめんなさい!」



体勢がおかしいのか力が上手く入らなくて起き上がらない。






まて、モゾモゾ動かさないでくれ⋯


必死にもがいて動こうとする夢花を抑えつける。



「夢花、落ち着いてくれ。ただ足がもつれただけだから、なんともないから落ち着いてくれ」


「は、はい⋯⋯⋯」



なんなんだこれは⋯


夢花の荒い息遣いが聞こえる。


心音も早くなり、肩で呼吸をしているのが分かる。


俺は落ち着かせるように背中を優しく撫でる。



「大丈夫だ夢花。落ち着くんだ。俺はなんともないからな」


「はい⋯⋯⋯⋯」



何だこの状況は。


ただ抱きしめてるだけじゃないか。


なんてちっちゃくて細いんだろうか。


それに軽い。







息を整えたいのに整えられない。


どんどん心拍数が上がっちゃう。


大地さんに抱きしめられてる。


身体を動かしたいけど動かしたくない。


ずっとこの大きな身体に包まれていたい。


安心感に包まれているようなの。


でも心音は外にまで聞こえてしまう程に動いている。


背中を大地さんが撫でてくれる。


落ち着かせるためなんだよね。


大きい大地さんの手に触られている。


それが更に心拍数を跳ね上げる。


でも少しくすぐったい⋯⋯⋯


嬉しいけど恥ずかしい。


やめて欲しいけどずっとこうしてたい。


男性と抱き合うなんて初めて。


初めてが大地さんで嬉しい。


でも恥ずかしい。


離れたいけど離れたくないよ。







この体勢はダメだ。


色々ダメだ。


体調不良の俺でもダメだ。


社会的に死ぬぞこのままじゃ。



「夢花、そろそろ⋯⋯」


「もう少し⋯」



夢花はしがみつく手に力を込めた。


自然と頭を撫でていた。


夢花は髪の毛が綺麗だ。


ずっと触ってみたいと思っていた。


セミロングの亜麻色の髪。


柔らかく滑らかだった。







はぅ⋯今度は頭⋯


お母さん以外にそんなことされたことないよ。


なんて大きな手なんだろう。


手を繋いだ時も思ったけど、本当に大きい。


全部、私全部が大地さんに包まれているよう。


心音が治まってくる。


安心感と温もりに包まれて眠くなっちゃう。






「夢花、時間もあるし、そろそろ、な?」


「は、はい⋯」



ゆっくりと夢花を横にずらす。


やっと離れられた⋯


危なかった。


細いがやはり女の子だ。


女の子特有の柔らかさと匂いでクラクラしてしまった。


もう1時間あったら確実に俺は社会的に死んでいただろう。


夢花は乱れた着衣を直し、ドアへと向かった。


俺はベッドに座りながらだ。



「それじゃあ大地さん、いってきます」


「ああ、行ってらっしゃい。帰ってくるの⋯待ってるな」



恥ずかしそうにしていた顔から、弾けるような笑顔に変わる。



「はい!行ってきます!」


「行ってらっしゃい」



音が鳴るんじゃないかと思うほど手を振りながら去っていった。


可愛い⋯⋯⋯な。


ふと病室を眺める。


急に寂しさが襲いかかる。


そこにあった温もりがない。


温かかった俺の身体がゆっくりと熱を失っていく。


それが寂しさを加速させる。


早く明日にならないか。


この感じだと、また抱きしめてしまいそうだな。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ