第19話 おそろい
「うわぁ、いいなぁ!すごいすごい!」
夢花が部屋からの景色を見て興奮している。
「雰囲気もいいし、2人部屋を1人で使わせてもらってるらしいからな、広々してていい感じだよな」
「大地さんずるいです!こんないい部屋で1人なんて!」
「それはそうなんだが、結構寂しいぞ?夢花はアリ⋯坂下さんと玉木さんと同部屋だろう?」
危ない危ない、アリサと呼んでしまうとこだったな。
さっき聞かれているからもう遅いんだろうが⋯
「⋯⋯⋯⋯大地さん、聞いても、いいですか?」
私は何を聞こうとしてるの?
聞いてショック受けるだけかもしれないじゃない。
それに大地さんのプライベートに踏み込む権利なんて私にあるの?
「なんだ?」
何をそんなに改まっているんだろうか。
俺は何か悪いことをしたのだろうか。
顔もすごい真剣だぞ。
「大地さんって、坂下先輩ともプライベートでは名前で呼びあってるんですか?」
言ってしまった。
こんなこと聞いてもどうしようもないのに。
「ああ、それは⋯⋯⋯そうだな、数年前に約束してたんだ」
俺とアリサの関係を疑っているのか?
何も無いんだが、それは説明して通じるのだろうか。
しかしだな、これはなんだ?
恋人が詰問されてる状況か?
「⋯⋯約束、ですか。腕組んだりして、坂下先輩と大地さんは⋯、その⋯もしかしたら⋯」
聞きたくないのに、聞いてもしょうがないのに、なんで私は聞いてるの⋯
大地さんが困るだけなのに。
もしそれで坂下先輩と恋人同士って言われたら⋯言われたら私はどうするの?
「俺とアリサは付き合ってなんかいないよ。名前で呼びあってるのもアリサが俺にお願いしてきたからでな。だからそういう関係じゃないんだ」
心配だったのか。
やっぱり夢花は俺の事を⋯
何を喜んでるんだ俺は。
泣きそうな顔から真顔になり、笑顔に変わっていく夢花。
今彼女の心の中で色々整理していたのか?
それが全部顔に出ているなんて⋯可愛らしいな。
「本当⋯ですか?」
本当に本当に本当?
信じていいんですよね。
でも私がこんなこと聞いてたら、大地さんに私の気持ちバレちゃう。
もう遅いけど、無かったことにしたいよぉ。
あー、なんで私はいつもいつも同じ失敗してるの。
「ああ、本当だ。俺に恋人はいないんだ。だから信じてくれないか?」
「分かりました、急に変なこと聞いてごめんなさい⋯」
「そんなこと気にしないでいいさ。あんな親密なとこ見たら、気になっちゃうからな」
「は、はい⋯」
なんだか雰囲気が暗いな⋯
どうしたらいいんだろうか。
でもこんな話をわざわざしに来た訳じゃないだろう。
本命の話でも促してみるか。
「要件はそれだけ⋯じゃないんだろ?」
「そうなんです!大地さんにプレゼントがあって!」
「俺に?」
「はい!これです!」
夢花は手に持っていた袋を俺に差し出した。
その袋はお土産屋の袋だ。
「これを?」
「開けてみてください!」
袋のテープを丁寧に取り、袋を開ける。
中身を取り出すと⋯⋯⋯
「これは⋯⋯俺が夢花に買った物と色違い⋯か?」
「はい、大地さんも好きって言ってたから⋯私とお揃いになっちゃいますけど、どうかなって⋯」
いやかな、だめかな、こんな子供っぽいのは好みじゃないかな。
うう、心臓に悪いよぉ。
「嬉しいな、俺も買おうかと思うくらい可愛いと思ってたんだ」
え、本当に?
「夢花とお揃いになったら、夢花が嫌がるかと思って買えなかったんだ」
嫌がるわけないじゃないですか。
「それに俺みたいなおじさんがこんな可愛いのをみんなの前で買うのが恥ずかしくてな」
大地さんがこれを買う?
自分用で?
なにそれかわいい。
「ありがとな、どこにつけようか⋯」
持ってくれるだけじゃなくて使ってくれるの?
嬉しい。
私もどこに付けるか考えてないや。
「それじゃあ家の鍵に付けるかな」
カバンにつける訳にもいかないからなぁ。
車でもいいんだが、ほとんど乗らなくなったなぁ。
今度ドライブでも行くのもいいかもな。
「あ、じゃあ私もそれにします!」
せっかくお揃いにするんだもん。
つける場所も一緒にしたい。
大地さんはカバンから鍵を取りだし、早速つけてくれる。
それを見て私もつけたかったが、今は家の鍵を持ってなかった。
鍵についてるとこ一緒に見たかったな。
「まさかこんな可愛いのをこの歳になって付けるとはなぁ。誰かに見られたら⋯⋯見られないようにしっかりと持ってないとな」
「大丈夫ですよ!可愛いの好きな大人の男性も素敵だと思います!」
そんな風に思ってくれるのは夢花だけじゃないか?
さすがにこんなおじさんがコレ⋯レッサーパンダ付けてたらイタイを通り越してキモくないだろうか。
このレッサーパンダ、めちゃくちゃ可愛いぞ?
「それじゃあ私は戻ります!坂下先輩達は温泉に行ってるだろうし、私も行かないと!」
まだまだ話したいけど戻らないとだよね。
ふふ、温泉行く前に私も鍵に付けちゃお。
大地さんに恋人がいないってわかったし、お揃いにもできたし、大収穫だよね!
あんまり楽しくなかったのに、一気に楽しくなって来ちゃった。
私って単純だよね。
でもいいもん、大地さんとお揃いだからね!
夢花が嬉しそうに帰っていく後ろ姿とキーホルダーを交互に見ていた。
お揃い⋯⋯⋯か。
こんなことしていていいのだろうか。
夢花が勘違いしてしまうかもしれない。
だが俺も嬉しかった。
嬉しいのに悩んでしまう。
ダメなのに悩んでしまう。
夢花と話すとずっとこうだ。
もし夢花が俺を男性として好きになったとしても、断る、そう決めたじゃないか。
それなのに未だに踏ん切りがつかないのだろうか。
優柔不断なのだろうか。
それともそれだけ夢花に惹かれているのだろうか。
夢花のことは女性として見ている。
そこに嘘偽りはない。
だからこそ、この気持ちに蓋をしなければいけないのに。
いけないのに⋯⋯⋯⋯⋯⋯
ダメだな、何度考えても結論は出ない。
いや結論は出てるんだ、踏ん切りが付かないんだろう。
娘のような年齢の子とどうこうなろうと考えちゃダメなんだ。
さっさとこの気持ちにケリをつけるんだ。
はぁ、温泉にでもゆっくり浸かれば答えは出るのかな。
俺も行くか。
「ふう、女将さんが自慢だと言っているわけだ。なんて気持ちいいんだろうか」
大浴場に足を伸ばし使っている。
心の疲れまで癒してくれるような感覚に陥るな。
何種類もあるみたいだからな、全部にゆっくり浸かってみたいが、宴会の時間もある。
全制覇もしてみたいが、ここは我慢しよう。
ふむふむ、ここは炭酸水素塩泉とな。
疲労回復と美肌効果と関節痛などに効くと。
女性にはなかなかいいんじゃないだらうか。
さすがに胃痛に効く温泉じゃなかったみたいだな。
その温泉には個人的に行くか。
車で1人で気ままにドライブしながら、なんていいかもしれないな。
久しぶりの温泉はなかなかいいもんだな。
宴会が終わり次第、また来るか。
「やっと来たわね、遅くなると宴会にも遅れちゃうわよ?」
「急いで洗ったので大丈夫です!」
ちゃんと洗えてるはず!
ゆっくり私も温泉を堪能したいけど、また入ればいいから大丈夫だよね。
「井上さんはまだ若いからスタイルいいわねぇ」
「え?え?そんなことないです!」
どう見ても坂下先輩の方がスタイルよくない?
胸も大きいしくびれてるしおしりも大き過ぎないし足も細いし⋯
非の打ち所がないって坂下先輩のことじゃない?
それに比べたら私なんて胸も⋯痩せてはいるけどぷにぷにだし⋯
「わ、私も、井上さんみたいなスタイルが良かった⋯ですよ?」
「ええ?何言ってるんですか玉木さん!どう見ても⋯⋯⋯⋯」
そうなの、どう見てもその大きなマシュマロは反則じゃない?
白くて大きくて柔らかそうで⋯
女の私でも触りたくなるのに。
「い、いや、本当にこれは、あの、恥ずかしい⋯」
「そうよ、何この大きさ。それにあなたこの胸で課長に抱きついてたじゃない」
まって、また聞いてないことだよ。
どういうこと大地さん。
抱きついたってなに?
玉木さんともそんな関係なんですか?
モテすぎなの?
それとも大地さんが⋯軽いの?
「あれは⋯その、だ、抱きついてなんて⋯⋯⋯」
「覚えるんじゃないあの時のこと」
あの時ってなに?
あっ、もしかして飲み会の日のこと?
「わざとじゃないだろうからいいけど、男の人は大きい胸が大好きなんだから、無闇矢鱈に抱きついちゃダメよ?」
「あの、その、は、はい⋯⋯⋯」
坂下先輩、激おこ?
でも詳しく聞かせてくださいその話。
ううん、大地さんに直接聞こうそうしよう。
「⋯⋯⋯なんだ⋯胃痛が⋯」
嫌な予感⋯
そんな馬鹿な。
普通は悪寒だろう。
胃痛で嫌な予感ってなんだよ。
でもこの後の宴会はお酒は控えた方がいいかもなぁ。
はぁ、胃が痛い⋯⋯⋯⋯
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