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【完結】おじさんガチ恋物語〜私の初恋は会社の上司。この恋、社会的にアウトですか?〜  作者: 音無響一


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第16話 名前で呼んで

「課長、少しお散歩しませんか?」


「そうですね、まだ明るいですし、お散歩しましょう」



思ってることと言ってる事が違っていた。


ダメなのに。


もうこれ以上関わってはダメなのに。


なのに俺は⋯⋯⋯⋯



「課長、口調がいつものままです!約束ですよ!」



頬を膨らませているのが可愛いらしいな。



「あ、あぁ、そうだったな。これでいいか?」


「そうそう、その方がいいです!」


「井上さんはお散歩が好きなのか?」


「⋯⋯⋯⋯夢花でいいのに⋯」



ん?どうした?小さすぎて聞き取れなかったんだが。


口調も変えたのに、なんでまだ頬を膨らませているんだ?







「名前⋯⋯名前で!その⋯」



言うのよ、ちゃんと言うの。



「私のこと⋯名前で呼んで欲しい⋯⋯です⋯」



私は目を伏せてしまう。


言えた、課長、嫌な顔してないかな⋯



「夢花」



え?



「これでいいか?」



バッと顔を上げた。


優しく微笑んでいた。


愛おしいような慈しむような、そんな瞳で。


その笑顔に見惚れてしまう。



「は、はい⋯⋯⋯」



嬉しかった。


心臓が高鳴るのが分かる。


なんでこんなにドキドキするの?


なんで課長の笑顔がこんなに⋯⋯


こんなに⋯好き?


好きなの?


ああ!


雷が落ちたような感覚だった。


点と点が繋がったんだ。


そうか、私⋯⋯⋯⋯⋯








「じゃあ少しお散歩しようか」



俺が歩き出すと、井上⋯いや、夢花も俺の横に並び歩き始めた。


チラリとその横顔を見る。


手を後ろに組みながら嬉しそうに、そして照れくさそうな顔をしていた。


可愛いな。


父性を感じている、というより一人の女性として夢花のことを見ているのをしっかりと自覚してしまっている。


だからこそダメなのに散歩までしている。


俺もまだ夢花と一緒にいたいんだ。



「なんですか課長?そんなに見られたら恥ずかしいです⋯」


「ああ、すまない、なんでもないんだ」



君に見惚れてたなんて言えるわけない。



「変な顔してました?」


「変?いや、夢花はとても可愛らしいよ」



何を言ってるんだ俺は⋯








「か、かかかかか、かか、かわいい?」



顔から湯気が出るかと思うほど熱かった。


後ろで組んでた腕を顔に当てる。


可愛いって言われた可愛いって!


可愛い?誰が?私?ほんとに?


きゃーーーー!


どうしよう嬉しいどうしよう!








「か、課長もカッコイイです!」


「あ⋯うん、ありが⋯とな」



はぁ、ダメだこれは。


どうしたらいいんだ⋯⋯⋯⋯


俺たちはお互い無言になり、当てもなく歩いていた。


歩きながら頭の中で同じことを繰り返し問答している。


俺なんか⋯いや、それでも俺と⋯でもダメなんだ⋯俺がこの子を⋯無理に決まってる⋯そんなことない⋯誰にも祝福されるわけないのに⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯








課長にカッコイイって言っちゃった⋯


でも本当にカッコイイんだもん。


私も課長のことお名前で呼んでもいいのかな。


聞いてみたらいいのかな。


それともいきなり?


ハードル高すぎるよぉ。


大地くん?


年上で上司の人をくんでなんて呼んだらダメだよね。


やっぱり大地さん、かな?


いきなり呼び捨てにしちゃうのもあり?


そんなわけないよね。


やっぱり大地さんかな。


⋯⋯⋯⋯⋯言えないよぉ。







「夢花、夕日が綺麗だな」



歩道橋の真ん中で立ち止まり、夕日を見た。


真っ直ぐ伸びる道路の真ん中に夕日が見える。



「うわぁ、本当に綺麗ですね大地さん!」


「え?」


「あ⋯⋯⋯」



彼女はやってしまったという顔をして背中を向けてしまう。


気にすることなんてないのにな。



「俺のことも名前で呼んでくれてありがとう。そろそろ俺もそうしてもらおうと思ってたんだ」


「ほ、本当⋯⋯ですか?」


「ああ、本当だ。だからありがとう」



安心したのだろう。


クルッと回転しこちらに振り向いた。


セミロングの髪が靡き、夕日に照らされる夢花にまた見惚れていた。



「えへへ、じゃあ私も大地さんって呼びますねっ」



心臓を撃ち抜かれた。


2度目かもしれない。


1度目は⋯桜を見たあの日か。


そうか、あの日すでに俺は⋯⋯


あの日から蓋をしていた気持ちが込み上げてくる。


もう蓋をできないほど想いが積み重なったのだろう。


夢花のことを好きになっている。


一人の女性として。








「そうしてくれると嬉しいよ」



嬉しいって言われちゃった。


これから会社以外ではお名前で呼んでいいんだ。


大地さん、大地さん、大地さん⋯


頬が緩んでいるのが自分でもわかる。


大地さんを見る。


夕日をバックにした大地さんはなんだか少し悲しそうに見える。


どうしてだろう。



「行こうか」



微笑みながら声を掛けてくれた。


悲しそうに見えたのは勘違いかな?



「はい、行きましょう!」



勢いで腕を組んで見たかった、手を繋いで見たかった。


こんなこと思うなんて、やっぱりこれが⋯


これが、恋、なんだよね。


私は課長を、大地さんのこと、男性として好き。


大地さんは私のことをどう思ってるのかな。


知りないな、聞きたいな、教えて欲しいな。


変な子だと思ってるのかな。


うるさい子だと思われてるのかな。


嫌われては⋯⋯いない⋯よね?








「そろそろ帰ろうか」



30分くらいは歩いただろうか。


そろそろ引き返さないと日が暮れるかもしれない。



「え⋯あ、はい⋯⋯」



悲しそうな顔をしないでくれ⋯


そんな顔をされたら⋯



「また⋯⋯⋯⋯」



また散歩に行こうと言いそうになってしまった。


何を言おうとしているんだ。


もうやめよう。


これ以上深く関わるのはダメなんだ。



「また?」


「また月曜日に会えるだろ?」


「⋯⋯⋯⋯はい!」


「さぁ帰ろう」


「今度は遊びに行きましょうね!」


「⋯⋯⋯⋯⋯う、うん」



その約束は履行されたのが今日かと思ったが、今回のはノーカウントなのか。


たまらんな、もう関わらないように言い聞かせたのに。






「課長は趣味とかあるんですか?やりたいこととか⋯あっ、温泉は社員みんなでですもんね。じゃあ何がいいかなぁ」



大人の男性が好きな遊びってなんだろう。


全然わかんない。



「いや、温泉はまだみんなで行くとは決まってないんだぞ?」


「あ、そうなんですか!」


「営業課だけでやると、社長がうるさいだろうから、ちゃんと社長に話を通してからにしないとな」


「なんで社長が?」


「あの人はそういうのが好きなんだ。絶対参加したいに決まってるさ」


「ふふ、大地さんは社長と仲がいいですよね」


「うーん、気をしてもらってるだけさ。それにあの人は全員がそんな感じだろ。俺だけ特別ってことはないさ」



もう何回も大地さんって呼んじゃってる。


違和感ないかな。


あなたの名前を呼ぶ、それだけで私の心は喜んでます。







「それじゃあこの辺でお別れしとこうか」


「えー⋯もう少し⋯」


「あはは、これ以上引き伸ばしたら帰れなくなるぞ?」


「むー、仕方ないです、今日は帰りますね!」


「そうだぞ、お母さんに何も言わないで出てきたんだ。帰ったら怒られるんじゃないか?夜に返したら俺が怒られてしまうからな」



一瞬ハッとした表情になる夢花。



「あー!そうだ!怒られるかなぁ」



怒られるかもと心配し落胆する夢花。


全ての表情が愛おしかった。


帰したくない、あと少し、このまま連れてどこかへ⋯⋯⋯⋯


はぁ、ダメだな。



「それじゃあまたな、今日はありがとう」


「こちらこそありがとうございます!また月曜日に!」


「ああ、月曜日に」


「さよなら課長!⋯⋯⋯あ、だ、大地さん⋯」


「言いにくかったら課長でいいんだぞ?」


「大地さんって呼びたいです!」


「ははは、わかった、よろしくな。さよなら夢花、また月曜日な」



夢花は何度も振り返り手を振ってくる。


その姿をずっと見て、手を振られる度に振り返す。


俺はちゃんと笑顔で手を振れているだろうか。


手を振ることで俺の中の夢花への想いを振り払っているようだった。




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