231 外交
私は4年間秘めていた秘密を上司に伝えた。上司は沙汰は半年後になろう。それまでマリエール商会との繋ぎをせよ。との事だった。
231 外交
私は、上司にマリエール商会の担当者からもたらされた情報を伝えた。どうして秘匿したかも含めて。4年以上以前の情報だ。諜報部員として有ってはならない失態だ。極刑は覚悟の上だ。自分の身よりも祖国の安全が大切だった。上司は、
「するとクラーケンもマリエールが操った可能性が高いと言う事か。お前の処分はどうなるか判らないがお前がイワン帝国を救った可能性は高いな。敬意を評して拘束するのは止めて置こう。マリエールの元に走ってもいいぞ。宰相に手紙を書く。返事のあるのは半年後だ。お前には引き続きマリエール商会との繋ぎを任せる。」
今諜報部は北の国と北の国の北の諸国との交易を担っている。間接的にイワン帝国との交易も含まれる。
「仰せのままに。」
マリエール側には彼らがイワン帝国の諜報部である事は知られている。私がマリエール商会と接触して4年が経つ。私が期せずして2重スパイの様な立場にある事は皆が知っている。私がマリエール側の情報を一番得やすいし、マリエール側に流したい情報を流せる。
今私のマリエール商会の担当者は年若い少女だ。なめられたかと思ったがそんな事はなかった。とても知的で美しい女性だ。てきぱきと取り引きを決め、10代半ばの容姿だがとても老練な印象を受ける。そんな彼女から意外な提案を受けた。
「我が国も何時までもこのままというわけにもいけないと思っている。きみには既に我々の気持ちを伝えてある。我々はこれ以上の領土拡大を望んでいない。不戦平和条約の締結をしていきたい。取り敢えず北の国の北側の諸国との条約を締結したい。協力して貰えないだろうか。」
私は混乱した。話しを持って行くのはいい。北の国周辺の諸国はそれを望むだろう。しかしながらイワン帝国のスパイが幾ら正体がばれていると言っても許容されるのだろうか。
「きみはイワン帝国の諜報部員では無く外交官だ。我が国の事も我が国が条約を結ぶべき国の情報を知る有能な外交官だ。先ずは我々が主に取り引きしている北の国の北の国と条約を結ぼう。この書状を責任者に渡してくれ、条約を結ばないなら敵国とみなすと書いてある。当日はドラゴンを控えさせよう。戦争にならないようにしっかり国王に渡して欲しい。」
戦争の口実に使われているのではないか、もしや目の前の女性がマリエール。私はとんでもない役割を与えられているのではないか。
「そのような役割私には身にあまります。」
マリエールは笑った。
「きみが出来ないなら一つ一つ国が滅びるだけだ。私はきみ以外の代理人を立てる気が無い。」
冷血な悪魔だ。始めから私に期待などしていない。
私は引き下がるしかなかった。最後にマリエールは、
「期待しているわ。」
と言った。
早速上司に相談して、手紙を相手国の城に届けた。時間はほとんどない。条約締結は私が手紙を受けとってから5日後の11時だ。国王は目の通すだろうか。私が相手国に手紙を渡したのは翌日の夕方だった。相手国にとって私はただの商人だ。門番に宰相への取り次ぎを願ったがけんもほろろの対応をされた。この事を上司に報告したが、
「良識のある国である事を祈るばかりだな。」
と言われただけだった。
私はマリエール商会の担当者から書状を渡された。北の国の北の小国でマリエール商会の他国との窓口になっている国の国王宛の手紙だ。重要かつ即決しなければならない案件だ。




