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       2 マリエールの評判

 抗生物質等の販売はオマール商会に任せた。来客が少なくなかった。しかし、厄介な来客が増えた。

         2  マリエールの評判


 冒険者ギルドの仲立ちでオマール商会が買取、国や他のギルドや薬局に売ってくれる事になった。比較的近いオマール商会なら通い易い。以前から知っている商会で気易い。大勢薬屋に来られても対応仕切れない。それでも来客は増えた。治療薬などと治癒魔法を掛けて欲しい相談だ。大抵、以前怪我をして治療したが完治しないケースだ。そんな対応は出来ないと言う事と症状を抑える薬を紹介する。

 でも全てが断われるわけではない。

「我が領の貴族令嬢の馬車が横転して顔と右腕を特に酷く怪我された。他の部分は治ったが顔の傷は残り、右腕は動かないままだ。お嬢様は落ち込んだままだ。貴殿の噂を聞き縋ってみえる。日頃我儘は言われない方。この度は特別の頼み是非に応じて欲しい。」

 可能性があるとしても、情報が少な過ぎる。顔の傷がどの程度なのか。腕が動かない原因を知らないままに安請け合い出来ない。万能の医者ではないのだ。

「詳しく知らなければ、治しようがありません。診察しなければ治療方法も、治療可能かどうかさえ判断が出来ません。」

 使者はぐっと身構えた。常識的な事を言っている筈なのに市民が反論する事はないらしい。

「一度お嬢様にお聞きする。」

 マリエールの治癒魔法は特別だ。その部位を無くして再生する事が可能だ。腕なら最悪、腕全体作り直せばいい。顔というあいまいな表現では脳に影響する部分まで損傷を受けているかどうかさえ分からない。脳まで再生したら、令嬢と言えまい。

 しかし、この摩訶不思議の能力は知られたくない。こんな能力が知られたら希望者が殺到するだろう。マリエールは治癒魔法の特殊性では無く、薬で治したいのだ。血迷った希望だ。この依頼も本来マリエールになされない筈だ。誰もどうしようもないから回ってきた話だろう。領主の娘でなければ、断った案件だ。都合悪い事この上ない。

 さて、今回の依頼をこなすに当たって揃えておきたい物がある。防具、武具、装飾品だ。お似合いの衣類も必要だ。そして必要なのはオーガの内臓だ。

「母さん、明日から泊まり掛けの討伐に行ってくるよ。オーガを狩らなければならないからね。」

 母親は心配そうにマリエールを見つめた。

「領主の娘の怪我を治すそうよ。しかも古傷を。顔と腕、腕は上がらないそうよ。そんな傷を治すには、オーガの内臓が必要なの。だから取ってくるわ。」

 要するに偽薬を作るのだ。こんな事出来るなんて知られるわけにはいかない。しっかり代償が必要だ。そのためにも滅多に取れない、オーガの内臓が必要なのだ。無茶な要求する物には、オーガの内臓が必要である事を知らせ、しかも一週間以内の素材でなければならないとする。こんな依頼二度と受けるわけには行かない。全力で阻止させて貰う。

 明けて翌日からオーガ狩りだ。特に記す事もない。ただ、見つけるのに少し時間がかかった。オークより少し強かった。素材は少し貴重な物が多かった。別に蘇生の魔法があるわけでもなかった。

 領主の娘の顔と右腕の治療を依頼された。厄介な依頼だ。2度とこのような事の無い様にしっかり対処しなければならない。

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