166 アリサ 4
長男様は西の国の言語は概ねマスターした。北の国は神様表現があり中々難しい。宗教の知識が必要だ。
長男様は着実に力を付ける。
166 アリサ 4
だいたい同じ日課で進む。最近は長男様に西の国の本と共に北の国の本も読み聞かせする。北の国は西の国と同様に大きく国境線が広がり、流通は盛んだ。しかしながら宗教が違い、文化的な交流は乏しい。別に戦争をしているわけではないが、考えの違う者同士でなれあう事が難しいだけだ。
西の国の言葉はマスターしたと言っていい段階まで来た。マスターと言っても読み書きと日常会話出来る様になった程度だが、西の国とは宗教が同じだから宗教的なやり取りも読み聞かせの材料に出来る。逆に言えば北の国の本は少なく宗教が違うので表現が難しい。なんでこうゆう表現になるのか説明するのかが難しい。宗教が違う事を長男様は理解した。読み聞かせをしているだけなのに。長男様は、
「アリサ、北の国とはこの国と宗教が違うのだね。北の国は神様が沢山居て凄くややこしいね。」
既に長男様は宗教の違いを理解してみえる。確かに文字読むのは貴族や富豪で、彼らは神様表現を多用する。
「北の国の貴族との挨拶では神様表現が多用されます。長男様が北の国の言葉を何に使うかで、北の国の宗教を何処まで知るべきが変わります。」
長男様は真剣な顔で頷く、
「私は全ての知識を得たい。どの国でどんな宗教が信じられてどの様に挨拶して表現されるのか知りたい。」
長男様は我がままだ。この国と西の国は同じ宗教だし宮中行事もどちらも同じ様な神話にちなんでいる。この国が西の国を真似ている。文化や言語は違うのに宗教が同じだ。しかも言語や挨拶に神があまり関わらないことまで同じだ。一方で北の国の貴族や富豪は挨拶や文学で神様表現を多用する。北の国の言語が難しいと言われる由縁だ。しかも北の国は多神教でありそれぞれの神に個性があり、使われる場面で微妙に意味合いが違い中途半端な理解では意味を取り違えるという厄介なものだ。北の国の貴族や富豪だけが神様表現を使い一般平民は使わない。
この国と西北の国の歴史地理政治経済、物理化学生物、文学について学んだ。北の国の宗教についても学んだ。
2ヶ月ほどすると北の国の神様表現の挨拶が出来る様になった。王族が北の国の貴族に会う機会はない。両国に流通があるのは、お互いに黙認しているだけだ。
滞在が2ヶ月を超えて妊娠8ヶ月も後半に入った。変調があった。下り物が増えた。胎盤や産道が軟らかくなった。腹が膨れ妊娠らしくなった。下り物が増えたのは少し気になるが、順調だ。出産の可能性が高まったとみるべきだろう。後宮の医師と打ち合わせ、皇太子妃に面会を求めた。アリサは、
「出産の兆候がはっきりとしました。何時陣痛が起こっても不思議でもありません。胎盤も産道も軟らかくなっています。お腹は緩やかに胎児を包んでいます。運動や練習は最低限にしてください。出来れば後一ヶ月出産を抑えたい所です。早産の防止と破水防止の薬は続けます。健やかな赤ちゃんが産まれる様に胎教は続けてください。」
皇太子妃は前回と違い、危機迫るものではないと知って少し安心した。まだ緊張は抜けないと聞いて気の引き締まる思いだ。
皇太子妃の妊娠は8ヶ月後半になった。下り物は増えたが、問題ない。胎盤も産道も軟らかくなった。皇太子妃に何時産まれても不思議ではないが、後一ヶ月後にしたいと言った。