151 戦争 5
エノラ・ゲイ作戦の第1回が行われた。輸送機に爆風が襲い掛かる。きのこ雲が出来る。研究者の指摘にはなかった事だ。
151 戦争 5
消滅した地域への侵入は何度も試みられる。並行してエノラ・ゲイ作戦も進められる。核爆弾は二つ用意された。ウランとプルトニウムの物だ。核兵器の開発研究施設は破壊されたが研究者は全員生き残っている。ノウハウは健在だ。
エノラ・ゲイ作戦第1段は明日決行となった。西の軍事基地に研究者達は集った。式典に現れた女性の事は気になるが、エノラ・ゲイ作戦自体を止めているわけではないようだ。軍人と研究者の打ち合わせが続く。天気予報によれば明日の目的地の天気は快晴だ。成功は約束されていると皆が思った。
決行当日、午前9時に出発した。現地到着予定は正午だ。輸送機一機を10機の戦闘機が守る。制空権は完全に支配した筈だ。数機の旧式戦闘機が現れても恐れる事はない。
目的地まで順調に進んだ。後は不発でない限り失敗はない。各機は予定通り高めの高度を維持する、核爆弾の落下開始だ。各機落下地点から離れる。落下から40秒後に爆発した。
機長は衝撃を感じた。爆風だ。吹き飛ばされるほどではないが強い風を感じた。後できのこ雲の写真を見せられた。どちらも研究者達から聞いていない話しだ。研究者の予想よりも爆発が大きかったのか。危なかったのではなかったのか。疑念は広がる。
基地に帰ると乗組員全員がガイガーカウンターで測定され、入浴して着替えさせられた。着ていた服は焼却処分された。機体も内外洗浄された。後で聞いた説明では爆発の威力が想定以上に大きく機体にも影響を与えた。放射能は人体に影響の出るレベルではない。次回以降の参考になる。
第2回目のエノラ・ゲイ作戦は、更に3000m上空から落下45秒後の爆発となった。今回は爆風はなかった。ガイガーカウンターで確認したが放射能は検出されなかった、
乗組員は勲章と金一封があった。暫く飲み食い出来る金額だ。十分満足出来る金額だ。その年の所得の半分だ。その時は単純に嬉しかった。でも後で悔んだ。
西の敵国はほどなく無条件降伏した。エノラ・ゲイ作戦のお陰だと賞賛する者が多い。しかしエノラ・ゲイ作戦の非人間性を避難する声もある。機長は自分がエノラ・ゲイ作戦の参加者だという事は回りに伝えないし、伝えた妻には口止めした。詳細が徐々に伝わり
10〜20万人の死者が出たと聞いて更に思いは強くなった。戦争で多くの仲間を失い、自分も九死に一生を得た身でエノラ・ゲイ作戦に加わったため戦争に対する思いは複雑だ。戦争が終わったのだから家族でゆっくりしたいと思う。戦争を忘れたい。正直そう思う。
マリエールはエノラ・ゲイ作戦の第1回の爆心地付近にいた。放射能が思ったよりも少ない事に安堵した。とは言っても酷い有り様だ。永く生きたマリエールにもここまで凄惨な光景を見たのは始めてだ。盛んにシャッターを押し続ける腕章を巻いたカメラマンを見付けた。白人の若い女性だ。報道関係者なのだろう。気軽に声をかける気にもならない。しかし彼女が水溜まりに足を踏み入れようとしたのを見て思わず声を掛けた。
マリエールはエノラ・ゲイ作戦第1回の爆心地に来ていた。彼女の長い人生でも見た事がないほど凄惨な光景だ。