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アイリ視点。
いつだって望みを叶えてくれるのは
エミリオと婚約を破棄して2週間――。
あたしは翌日から城に呼び出されて勉強漬けの日々だ。
王太子妃に相応しいレディになるためだって王子が先生をつけてくれて、一日中ひたすら勉強だ。
知識も立ち居振る舞いも足りてないのは分かるから王子の隣に立つならやらなきゃならない。
だから大変でも頑張るし、頑張れるけど気に入らないこともある。
使用人の態度とかは別にいい。だって認められてないんだから仕方ないじゃない。今は添い遂げてくれるって王子から言質とっただけだもん。
気に入らないのはその王子の態度よ。
同じ場所で暮らしてるっていうのに王子は初日以来忙しいからって全く会いにきてくれない。
エミリオだったらどんなに忙しくても1日1回は顔だけでも出しに来てくれてはずなのに。もし軟禁されたって1度くらいは抜け出して。
まぁそれで見つかってさらに怒られるのがエミリオなんだけど。
――コンコンコン。
「やぁアイリ」
「アレク様!」
やっと会いに来てくれたのね。
会いに来てくれたのは嬉しい、嬉しいけど2週間も放置されていたことへの不満の方が大きかった。
だから、喜んで抱きつくよりも先に出たのはアレク様への不満だった。
「どうして会いに来てくれなかったんですか?」
「すまない、忙しくてさ。これで機嫌を直して欲しい」
ヘラっと笑ってアレク様が差し出してきたのは手のひらサイズの小箱で受け取ったあたしは箱を開ける。
中にはずっと欲しいと願っていたペンダント。
「……これ」
「前に欲しいと言っていただろう」
「うん、そう。ずっと欲しかったやつ」
間違えていたらどうしようかと思ったと安心したように笑ったアレク様は、忙しいからってすぐに帰って行った。
なんでだろ。ずっと欲しかったものが手に入って嬉しいはずなのに、嬉しくない。いらないわけじゃないけど、たった一言頑張れっていって応援してるくれるだけで、それだけでよかったのに。
「はぁ、なんか思ってたのと全然違うな」
ずっと幸せに暮らしましたなんて、物語みたいのは幻想か。どんなに憧れても現実は違うよね。
――コンコンコン。
またノックの音が響いてアレク様かと思ったら、今度はセレスティーナ様がやってきた。
「せ、セレスティーナ様……」
「そう身構えないでちょうだい、届け物を渡しにきただけよ」
警戒するあたしを無視したセレスティーナ様は一通の手紙を差し出してきた。
「全く、王女にお使いさせるなんて人使いが荒いと思わない?」
「え、誰がそんな恐れ多いこと……」
「ふふ、誰でしょう。確かに渡したわ」
楽しそうに笑ったセレスティーナ様はそれだけ言って部屋を出ていった。
「手紙?」
封筒にかかれた、なんとなく見慣れた文字を見つめて、あたしは封を開けた。
『ライアンが姉さんに会いたいって言うから手紙なら届くかもってことでちゃんと届くようにセレンに頼んどいた。ついでにオレも手紙を書けって横でライアンに言われるから少しだけ』
ライアンとエミリオ?
普通に送ったんじゃ確かにあたしに届くかは分からないけど、だからってセレスティーナ様に頼むなんて……。でも、友達なら引き受けてくれるのかな?
『アイリは目的のためならどんなに大変なことでもやり切れるから、王子のために必死でやってんだろうな。オレが言えるのは頑張れってことくらいだけど、うん、まぁ頑張れよ』
ライアンに言われて困った顔して書いてるのが目に浮かぶ。
しかも、あたしが何やってるか分かってるみたいな内容だし。まぁセレスティーナ様から聞いてるのかもしれないけど、なんでいつもドンピシャのタイミングなんだか。
それにしても……バカだよ、エミリオ。
あたし、エミリオにひどいことしたのに、なのにライアンに手を貸して手紙が届くようにしたりとか。
いっそ責めてくれればいいのに、恨みごと1つ書かないで応援してるってバカよ。
ライアンから手紙は、エミリオの手紙とは反対にあたしを怒る内容が中心に書かれていた。
心配もしてくれてるけど、エミリオにイジワルなことはしちゃダメってそんなことばっかりで、エミリオが優しくて頼りになるのはライアンよりもあたしの方がずっとよく分かってる。
「許して、くれるかな……」
考えれば他にも方法はあったはずなのにアレク様の言う通りにやって、エミリオにひどいことした。嫌われて仕方ないけど、今さら都合がいいことを言ってるけど、エミリオには嫌われたくない。
謝りに行かなきゃ。拒絶されるかもしれないけどそれでも――。
だけど、どうやって行けばいいんだろう。この城で頼れるのはアレク様だけなのに肝心のアレク様とはほとんど会えないし、守るためとかって部屋から出してくれないし呼んでも来てくれないから。エミリオだったら必ず来てくれるのに。
打開策が見つからないまま1週間が過ぎて、アレク様は来ないけど話し相手が欲しいからとセレスティーナ様がやってきた。
断りたくもあるけど、断れないので了承してセレスティーナ様にこの前のエミリオとライアンからの手紙の礼をすぐに伝えた。
セレスティーナ様は急に長い時間離れることになったライアンが可哀想だものと言ってカップに口をつけた。
態度や雰囲気から怒っている様子もなくて、セレスティーナ様の言葉通り話し相手が欲しかっただけのようにも見える。
城の外に出られるチャンスだと、あたしはセレスティーナ様にお願いする。エミリオに直接会って謝りたいことを。
「そう、ね。明日だと都合が悪いし、明後日ならいいわよ」
「ありがとうございます、セレスティーナ様」
快く引き受けくださったセレスティーナ様は何やら小さく呟いていたけど、教えてはくれなかった。予言通りとか聞こえた気はしたけど。
ちゃんとエミリオに謝ろう。許してもらえなかったとしても、許して貰えるまで――。
セレンが言った予言はエミリオの予測です。