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傷つかないわけじゃないけどさ

 ひとまずアイリの家族との和解もすんで、オレは出かける準備を始めた。


「エミリオ、どこに行く気だ?」


 昨日あんなことがあったばかりだから外に出て欲しくないんだろう。


「フランシスのとこ。家にいても気が滅入るし、元々約束してたから」

「そうか。仲良くしておくといい」

「もちろん。じゃ、行ってくる」


 他の友達だったら止められたかもしれないけど、フランシスだから何も言われない。


 フランシスは現王の甥っ子、公爵令息だから。

 父の仲良くも純粋に友達として意味もあるけど、権力者としての仲良くという意味も込められている。


 ま、今日だけは前者ってのが大きだろうけどさ。家族以外の相談とか出来る人ってわけだから。


 乗合馬車で近くまで行ったあとは歩いてフランシスの家に向かった。ポケットの小銭で買えるような手土産を持って。


 しょっちゅうフランシスの家に遊びに行くもんだから顔パスで中に入れる。だからオレはそのままフランシスの部屋に向かった。


「よ、フランシス」

「エミリオ。良かった、ショック受けて来ないかもって心配してたんだよ」

「昨日は大変でしたものね」


 ん、フランシスだけじゃない?


「セレスティーナ様……」


 活発そうな容姿に明るい水色の髪をもった我が国の王女様だ。昨日の王子(あのバカ)の妹。


「ここではセレンと呼んでと言っているはずよ。友人として扱ってくれるんじゃなかったの?」

「あー、ごめん。それでセレンはどうしてここに?」


 セレンは実の兄である王子よりもフランシスの方に懐いているためによくここに遊びに来る。

 だからよくここに遊びに来るオレとも顔見知りだ。一応、外聞もあるから普段は知り合いの知り合いくらいの距離感を保ってはいるけど。


「借りた本を返すために……というのは建前で、エミリオがここに来るんじゃないかって思ったから」


 つまりオレの心配をして来てくれたってことか。


「心配してくれてサンキュー。それと迷惑かけたな。色々と大変だろ、城の方は」

「そうね、確かに大変だけど迷惑には思ってないの。むしろ、アイリさんには感謝してるのよ」


 原因はアイリにあるにしろ、その一部をオレも担ってるわけで謝れば、セレンはそれを否定して小躍りでもしそうなほど楽しそうにしていた。

 オレの予想とは全く違う反応だった。


「だって、お兄様がやらかせば私を応援してくれる人が増えるじゃない。そうなれば私が女王になるのも夢じゃないわ」


 この兄妹、(王子)より(王女)の方が優秀なんだけど、生まれた順もさることながら王位継承権は男の方が上になるせいで優秀でもセレンが女王になるのが難しい。


 とは言っても、それを疑問視する声は度々上がっていてセレンを応援する人も少なくないし、歴史の中では継承権が入れ替わった王子王女もいる。


 セレンが女王になるのをかなり否定しているのは伝統を重んじる極わずかで、ほとんどはそれが決まりだからと言うだけの王子派だ。


 だから、ありがたいことに王子()の評判が落ちればそれだけセレンを王にと推す声が大きくなる。勝手に失敗して評判を落としてくれるならセレンからすれば願ってもないことなのである。


 まぁセレンは王になりたいわけじゃなくて、兄に任せたら国が滅びると目指しているだけでそこまでなりたいわけではないらしいが。


私のこと(こんなこと)より、エミリオのことよ」

「平気なわけではないだろう?」


 真っ直ぐにこっちに見てくるフランシスとセレンは心配そうな表情で、どれだけ友達として想ってくれてるのがよく分かる。


「ん、いやまぁ全く傷つかないってわけじゃないけど、思ったよりは平気、かな」


 元々アイリは昔からあんな感じだったし、有言実行したこと驚きの方が勝ってたくらいだ。

 それでも、らしい関係ではなかったけど長年一緒にいたわけだし、ちょっと平常心でいられるかと言うとそうでもない。


「親にはちょっと叱られたけど、アイリの家族とは和解できたし」


 昨日、家に帰ってからここに来るまでのことを2人に話せば、2人とも安心したようだった。


「それに保留にしてたフランシス(お前)の話、考えてみてもいいのかなって。今なら反対もされにくだろうから」

「ああ、そうかもしれないね」

「なんの話?」


 1人仲間はずれにされるセレンは、僅かに拗ねたように尋ねてくる。オレとフランシスは顔を見合わせると二っと笑った。


「僕と一緒にセレンの補佐にならないかって話」

「そうだったの」

「前々から考えてはいたんだけどな。父親がちょっと……」


 女が表にしゃしゃり出てくるものじゃないって考えが強いとこがあって、セレンが王位につくのをよく思ってない節がある。

 だからセレンの補佐になるのが難しい。


 なるためには貴族籍が必要だし、かといって他の家の養子になんてことをしようとすれば今度は母親が――そんなでずっと先延ばしにしてわけだ。

 オレも養子になりたいわけじゃないから、逃げ出したい家族ってわけでもないし。


「いつでも待ってるわね。ぜひとも説得してきてちょうだい」

「僕が手を貸しに行ってもいい」

「もしもん時は頼む」


 そこから先はいつも通りで雑談が始まる。


 今日は昨日のパーティーで誰がどうだったとかそんなこと。あいつは相変わらず派手な服装してるとか、あいつはずっと食べてばかりだとか、ちょっとした笑い話とかを帰るまでずっとしていた。

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