訳あり貴人と契約結婚すれば幸せになれるジンクスがありまして
アレクサンダー伯爵は、屋敷の執務室で手紙を握りしめていた。
その手紙には「男爵令嬢ティータとの婚約が成立しました」との文言が書かれている。アレクサンダーは深い溜息をつき、手紙を机に置いた。
「これで一歩前進だ」と彼は小声でつぶやいた。
アレクサンダーの秘密――それは誰にも知られてはいけないことだった。
アレクサンダーは、実は女性なのだ。
しかし、家を継げるのは男だけという決まりがあったため、男として育てられてきた。
そのため、秘密を守ってくれる結婚相手を求めていた。
男爵令嬢ティータは、適齢期にもかかわらず、なかなか婚約が決まらないことで知られていた。だが、アレクサンダーが婚約の話を持ちかけたとき、ティータはすぐに了承したのだった。
「私の前世の知識では、訳ありの貴人と契約結婚すると幸せになれるという話があるんです。だから私、あなたと結婚します!」
ティータは笑顔でそう言った。
アレクサンダーは少し戸惑ったが、彼女が白い結婚、契約結婚でも構わないと言うので、話はトントン拍子に進み、結婚が決まった。
結婚式は滞りなく終わり、二人は伯爵邸に落ち着いた。初夜、アレクサンダーは重い決意を胸にティータの部屋を訪れた。
「ティータ、話があるんだ」とアレクサンダーは切り出した。
「何でしょう?」ティータはベッドに腰掛け、優しく微笑んでいた。
アレクサンダーは深呼吸をし、決心を固めた。
胸当てで覆い隠していた胸元を見せる。
男ではありえない丸みのある胸だ。
「見てのとおり。実は僕、女なんだ。夫が女で嫌だろうが、この秘密を墓まで持っていかなければならない。君に協力してもらいたいんだ」
その言葉に、ティータは一瞬驚いたようだったが、すぐにニッコリと笑顔を浮かべた。
「男装の麗人ですか?」
ティータはアレクサンダーの手を取り、そのまま自分の胸に引き寄せた。
「むしろ女性として生まれてきてくれてありがとうございます。ご褒美です、そのままのあなたを愛します。私の恋愛対象は女性なんです。男性と営みというのができないから、白い結婚でもいいと仰るあなたの手を取ったのです。両親はずっと嘆いていました。私が男性を恋愛対象に見られないこと」
アレクサンダーはティータの言葉に驚いた。
両親からは「なぜ男に生まれてくれなかったんだ」と嘆かれてばかりだった。
女でいてくれてありがとうなんて、生まれてこの方言われたことがなかった。
こんなに簡単に受け入れられるとは思っていなかった。ティータの目は真剣で、何の迷いもない。
「それじゃあ君は、形だけでなく、本当に僕と一緒にいてくれるのか?」
アレクサンダーの声には少し震えがあった。
ティータは頷き、アレクサンダーの頬に手を添えた。
「もちろんです。あなたが誰であろうと、私はあなたを愛します。私たちは契約結婚ではなく、本当の愛の結婚をするんです」
アレクサンダーは涙を浮かべ、ティータを抱きしめた。二人はその夜、愛を確かめ合いながら、新しい未来への一歩を踏み出した。
その後、アレクサンダーとティータはともに伯爵家を支えながら、愛に満ちた日々を過ごした。周囲には秘密を隠したまま、二人だけの特別な絆を育んでいった。
そして養子を迎え、息子も二人の秘密を守ってくれる優しい子だった。
こうしてアレクサンダーとティータは、誰もが羨むほどの幸せな家族となった。