第三章 2 対等な相手
鐘梨珊瑚。
独田苺。
城悠双葉。
香澄栞。
それぞれの少女がそれぞれの理由でいなくなり、そして二人だけになった。
大喜仰一華。
とても美しく、華のある女の子だ。
宮仕夢羽。
なんでもできる、能力の高い女の子だ。
土曜の一日を置いて、僕たちはハリーランドというテーマパークで遊ぶことになっていた。朝も早くからテーマパークのある駅へ向かうと、当然日曜日だからたくさんの人でごった返している。ハリネズミを模したキャラクターが有名で、その世界観は駅の段階で溢れかえっている。
「どうしたんですか。御坊ちゃま? 全然元気がないじゃないですか」
「そんなことないよ。遊園地にきてウッキウキ」
「そんなに栞様とお別れになったことが寂しいのでしょうか。まさか、今になって後悔していると?」
「まさか」
いいつつ、もちろん寂しいとも思う。その好意が他の誰かによって作られたものだったとしても、もっとも好意を見せてくれたのは彼女だった気がする。
それ以上に、僕は彼女の立ち位置を変えてしまった。彼女を大きく変えてしまったのだ。悪いことをしたつもりはないけれど、その責任に僕は時折押しつぶされそうになる。
ただ、もう終わった話だ。
「ははーん、さては栞様のことを心配しておられるんですね! ご自分の能力で内面を変えてしまったのですから! お優しい御坊ちゃま」
「せっかく心の中で折り合いをつけようとしてたのに指摘してくるんだな」
月夜にデリカシーなんてものを求めるのは間違っているのだろうな。
「ええ、こんなに傲慢な性格なのですから、言及せずにはいられませんよ」
「……ご、傲慢?」
「ええ」
月夜はにっこりと笑った。
「だって御坊ちゃまは、苺様を変えたときはそんなに悩まなかったではないですか」
「あ、当たり前だろ。苺は僕を殺そうとしたんだ」
「ええ、当たり前でしょうね。御坊ちゃまは御坊ちゃまの基準で、誰をどのように変えるかを決めれば良いのです!」
僕の基準、だと?
「いや待ってくれよ。客観的に見て、僕はおかしなことはやっていない」
「ええ! まったくもってその通りです! 御坊ちゃまは他人をそうやって自在に操る王沢(化け物)なのですからね!」
月夜が肯定すればするほど、なぜだか僕は追い詰められていた。
いや、それほどおかしくないよな? 苺は僕を殺そうとしたんだ。多少手荒なことになってしまったのは当然で、責められるほどのことだろうか。
一方で、栞の件だって僕のやったことは彼女の人生のプラスになる。なるはずなのだ。
だから僕の基準だっていいじゃないか。僕にはその力があって、必要があるのに行使しないのは罪だ。
でももし。
もしその基準が間違っていたら?
この能力を使ったせいで、善良な人の人生を狂わせてしまったら?
ハリーの世界観で満たされる幸せいっぱいのこの駅で、僕の心はざわめき続ける。
「やっぱり王沢なんて誰とも対等になれないんだな。僕なんかが、結婚相手を探す資格はあるのか?」
独り言のように出てしまった言葉を、月夜が拾った。
「なれるでしょう。少なくとも王沢とは対等ですよ。王沢の血族に王族の権利は効きません」
「……なんの冗談だよ。仮にそれが本当だったとしても、僕に兄弟と結婚しろとでもいうのか?」
「これは失礼。では他の王沢の手下なんかがいいかもしれませんね。その人物が御坊ちゃまよりも強力な王族の権利の支配下にあれば、御坊ちゃまの能力は届かないでしょう」
それは随分、狭い条件だ。まず王沢を探し、その部下に適齢期の女がおり、尚且つ能力で何かしら操られていないといけないだなんて。
「まぁ残念ながら、それは無理だろうな。僕の能力は王沢の中でも屈指だろうし」
「さすがの自己評価ですねぇ御坊ちゃま! 素晴らしい」
「……いや、冗談だよ?」
「王族の権利は対象者がより王に近いと認めるほど強力になります。御坊ちゃまの傲慢さはいかにも王っぽいです。武器になるでしょう!」
「それって僕が謙虚だったらこの能力は効きづらいってこと?」
「そうとも言えますね」
今まで、王族の権利を使って効かなかったことはない。
え?
僕ってそこまで偉そうだったってこと⁉︎




