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さくらメディカルセンター 1

 開院前のさくらメディカルセンターでは、今日のためだけに佐倉大臣が雇った医療スタッフが数人働いていた。

 万が一に備え、さくらメディカルセンターの正規職員には、特別休暇を与えてもらっていた。

 それは正しい判断だったといえよう。

 防衛大臣の佐倉から、院長の佐倉基浩へ連絡が入ったのは、すでに柿本を車に乗せ、病院へ向かって走り出した時であった。

 佐倉院長は佐倉大臣の本家筋の現当主である。

 元々柿本の長年の主治医をしており、その筋で佐倉大臣は政界に進出できたのだ。

 このさくらメディカルセンターは、地下二階、地上四階建て、政府肝いりの最新医療センターで、助成金を湯水のように使い出来上がったものだ。

 患者は選ばれた者しか受け付けない。

 全ての部屋が個室で、貴賓室である。

 ホテルのスイートルームほどの広い病室さえある。

「伯父さん、総理が撃たれました」

「あーもしもし、はいはい。ところで総理は今夜何食べたいって言ってたんだい」

 打ち合わせ通り、あとは予定日時まで柿本総理大臣を特別貴賓室で休養させれば良い。

 佐倉院長はそう考えていた。

「伯父さんっ! 総理、ほんとに撃たれたの。意識不明。裂傷無し。皮下出血も無し。でも意識が」

 佐倉院長は、姪の必死の訴えに、はじめて事の重大さを理解した。

 予定が狂ったのだ。

 ふりをするだけのはずが、大事になった。

 言わんこっちゃない。

 慌てて医療スタッフを集め、緊急搬送の準備につくよう指示した。

 まもなく柿本を乗せた公安の黒いバンが、病院のエントランスへ滑り込んできた。

「ゆっくり、急げ」

 医療スタッフは慣れた手つきでストレッチャーに柿本を移し病院内へ運び込んだ。

 ほどなく薮田班が現着した。


 中山は真新しいエントランスを駆け抜けた。新造建築物特有の香りがする総合案内のカウンターにいる受付女性に聞いた。

 総理が寝ているのは最上階の特別貴賓室で、そこへ最短で行ける階段を教えてもらい駆け出した。

 中山は、消音加工の施してある階段を駆け上がる途中で、一瞬目の端に違和感を覚えたが、構わず走り抜けた。

 総理の眠る部屋の前で宮地と薮田班は合流した。

「宮地、どうなってる」

「今さん、総理は無事です。意識がまだ戻りませんが、腹部の打撲です。CTスキャンでも内臓に異常はないようです。今は病室で安静にされています」

「そうじゃない」

「すみません。狙撃手から総理を守れませんでした」

 いつもの冷静沈着な宮地には感じられない気弱な一面が見えた。

「そうじゃない。今回のは総理の自作自演だった」

「どうゆうことですか」

 驚く宮地に中山は、捕まえた楢崎が総理に言われ狙撃したこと、それを阻止したが、他の誰かに撃たれてしまったことを手短に説明した。


「院内の警護はどうなっている。」

「我々宮地班が総理の警護を固め、SATの到着待ちです」


「分かった。では我々薮田班は院内の索敵に回る」

「了解です。お願いします。」

「宮地、近寄る警官、身内にも気を抜くなよ」

 中山はそう一声かけて薮田班は散開した。

 薮田班は、各自別々のルートから総理の眠る部屋の真下へ急行する。

 扉を開け、内部を隅々まで確認する。

「異常無し」

「こちらも異常無し」

 手早く野尻と新六が室内を確認した。

 中山は、あけっぴろげのカーテンを閉めた。

 そのすき間から、周囲を確認した。

「もし、自作自演のプランがテロリストに漏れているとすれば、ここも危ないですね」

「あぁ。総理を狙撃した犯人が、楢崎ではない誰かを総理が別に用意した狙撃手なら良いが、そうではない場合は情報が洩れていることになる」

「ここの周囲も射線がいくつかある。SATに総理の病室内をフォローできる位置に狙撃手を配置するよう、要請願います」

「分かった」

「班長、さっき階段で気になったところがあったので見に行きたいのですが」

「分かった。〈新六〉、今さんについてゆけ」

「了解です」

 中山は右の眉毛を人差し指と中指でこすった。

 先ほど感じた違和感を確かめるため、二階と三階をつなぐ踊り場まで注意深く一気に降りてきた。


「黄島ぁ、黄島は何処に行ったの!」

 佐倉大臣が総理の眠る病室で叫んだ。

 総理の秘書と佐倉の秘書とでそれをなだめた。

「辺見は何してるの。あんなヘボを用意して。もし総理に何かあったら、ただじゃおかない」

 佐倉大臣の怒りは収まらない。

 都内展開しているはずの第一師団の動きが何も把握できない。

 情報統制されているはずなので、段取り通りなら、総理が狙撃されたことが大々的に発表され、国民の不安を煽るはずだった。

 しかし、ニュース速報も無ければ、ネットにも上がっていない。

 あの場にいたお抱え記者たちは何をしているのか。

 それに黄島はどこ行った。

「茜、いい加減にしなさい。総理の体に障るじゃないか」

 看護士が柿本の脈を取る向こうで、佐倉院長が姪の佐倉大臣を窘めた。



「ここだ、ここで感じた違和感」

 中山は踊り場から少し下った階段で、視線を上げた。

 記憶の中の映像を集中して巻き戻す。

「蛇だ。黒い蛇」

 中山の記憶の中では、なにか黒い長いものが階段の隅を上にゆっくりと登っている。

 都内の喧騒の中、蛇が院内に入るのはまず無い。

「防犯カメラ、防犯カメラを確認しろ。何か映っているかもしれない」

 中山の指示で新六は梶野に連絡し、一階奥に防犯カメラのモニター室を兼ねる保安室があることと、そこへのルートを教えてもらった。

 二人はそこへ急行した。

 保安室に不安げな警備員が二人。彼らに各階の階段付近の映像を巻き戻させた。

「止めろ」

 映像は総理が寝ている病室の一階下のカメラで、中山たちが踊り場へ向かった少し後のものだ。

 時間的には少し前になる。

 防火扉の下を、何か黒いものが動いている。その床と垂直に立つ扉のちょうど角、廊下の端の隅を真直ぐにスススス―と、よく見ないとまるで縁の影と見間違える。

 他のカメラにも廊下の端を同様のモノが見られた。

 各階、同じ長さのモノが映し出されていた。

「何だ、あれは」

 他の場所のカメラをさらに巻戻すと、エントランスに総理が運び込まれた公安車の下から、さらに長い三本の線が院内にスーッと入り込んでいる。

「新六、お前は梶野へこの映像を送れ。私は総理の病室へ戻る」

 中山は新六の肩を一叩きし、駆け出した。

「各位、床の端、縁を移動する黒い何かがいる。注視せよ」

 中山は、無線で注意喚起を促した。

「今さん、何ですか、それ」

 野尻が聞いてきた。

「私にも分からない。ただ防犯カメラに映っている、黒い長い何かだ」

「長い。蛇とかですか」

「そうだ。いや、蛇のように長いが、動きは直線的でスムーズだ。最初に映っていた時より、だんだんと短くなっている様だ。今はもっと短くなっているかもしれないぞ。」

 中山は駆けながら、先の映像を脳内で反芻した。

 目線は左右の床を注視している。

 しかしそれらしい何かは見つからなかった。

 見つけたのは宮地班だった。

「今さん、これですか」

 送られてきた六秒映像は、床の隅を黒く丸いモノがゆっくりと横移動するさまが映っていた。

「それだ、防犯カメラの映像はもっと長かったが、同じ動きだった」

「それ、最近見たかも」

 梶野が割って入ってきた。

 カタカタと無線の向こうで音がする。

「ナキ国大使館テロ未遂事件の資料の中で。確か通訳者ルワンの妻、初美が勤めている大学で、災害救助機器、小型偵察機が開発されたとありまして。ちょっと興味がわいて情報を掘ってみましたら、“ピルバグズ“という陸上型ドローン、転がるドローンが出てきて、凄いなーって。まさにそれです」

「なんだと」

「ゴルフボールくらいの大きさじゃないですか」

「そうだ」

 宮地班の返事が返る。

「内部に小型カメラと磁石が入った本体の球体と、それを覆う衝撃を吸収する球体の二重構造で、磁力で表面が全方向回転し進みます。進めない段差は、複数個体が連なり、支点となる一個を軸に回転し、順次他の個体の表面を磁力と回転で駆け上がり、目標の上段へ届くまで積み重なります。上段に着いた個体が新たな軸になり、最下段からまた他の個体の表面を進み、どんな段差も超えるそうです」

 機械の動きか、そうだろうあの直線的な動きは生物にはない。それが中山に違和感を覚えさせた。

「ナギ国大使館へのテロリスト達の接触目的は、ルワンの妻、初美にあったのかもしれないな」

 まずいぞ、テロリストに柿本総理の居場所がバレている。

「全員、周囲にゴルフボール大の黒い球体が無いか確認願います」

 薮田が無線で周囲警戒をかけた。

 薮田班、宮地班は、周囲を隈なく捜索した。

 新六が二体見つけた。保安室の隅に潜んでいるのを捕獲した。

 動きはそれほど速くなく、労せず捕まえれた。

 直径五センチほどで、ゴルフボールより少し大きい。

 重さは、外観から想像するよりはるかに重かった。

 表面は黒いが、光を全く反射しない訳ではない。

 握った掌の皮膚の色が、球体の表面にじんわりと映り込んでくるようだ。

 振れば内部の球体が動くのが感じられる。

 覗き込むと、内部にカメラがあるのが分かる。

 新六は、警備員に大雨の時に使う空の土嚢袋を何枚か分けてもらい、その中にソレを入れた。

 宮地班は最上階で六体捕獲した。

「エントランスカメラの映像を解析したところ、院内に潜入したピルバグズは、十二体掛ける三列の合計三十六体です。各階六体ずつ入り込んでいると思われます」

 梶野が無線で知らせてきた。

 その後さらに新六が四体を一階で捕獲した。

 薮田と野尻は三階の六体を無事に捕獲した。

 中山は、転がるドローンは発見できなかったが、もっと大物を見つけた。

 再び階段から上がり、総理のいる病室へ向かう廊下に差し掛かった時だ。

 病室から看護士が出てくる。

 脇にはカルテか何かのバインダーを抱えている。

 黒髪をまとめ上げ、ナースキャップで押さえ、大きめのマスクをしている。

 しかしその歩行は、ここには居るはずも無い先日対峙したあの女と同じだ。

 今は東京拘置所に居るはずの女。

 パンプスの為、先日より背は低く見えるが、間違いなくあの女だ。

 いきなり中山は彼女に詰め遣った。

 すかさず看護士は飛びのき、中山の顔を見てはっと目を見開いた。

「君は、やはりあの時の」

「待てマスター。お前たち班はこの警護から外されたはずでは」

 看護士は半身になり、右ひじを引いた。

 その所作は平和な日本の看護士のものではない、それなりの武術を会得した者か、幾多の修羅場をくぐった者の動きだ。

「君たちの仕業か、我々が外されたのは」

「違う、我々は日本に危機を教えに来たのだ。佐藤が出した暗号は解けたのだろう。」

 看護士は、構えを崩さず、中山へ問うた。

「あぁ、096Z‐96はやっぱり意味があったのか」

「違う、あぁー。あれは96-2960、日本語のアナグラムなら九六-二九六〇、ク・ロ・フ・ク・ロ・ウ。そう伝えたかったんだ」

「クロフクロウ。それがなんだ」

「オーマイガー!」

 欧米人特有の身振りを披露したレディーは言葉をつづけた。

「マスター。通称『ボル』と呼ばれる暗殺者が今回の首謀者だ。この国では、『黒梟』の呼び名と聞いている。聞いたこと無い? リアリィー?」

 中山は一瞬ではあるが戸惑った。マスターとは自分のことかと。いや、それより黒梟、そのワードが中山には引っかかった。

 総理のご子息崇君は、黒衣の男に連れ去られた。

 何か関係あるのか。

「アメリカの犯罪組織がなぜ日本にそれを伝える義理がある」

「取引をしたのだ、ステイツと。我々の呼称『ボル』の件は、国として提供するには信憑性に欠ける情報だが、同盟国の危機に何も伝えないわけにはいかない。そこで、我々みたいな者がかき回すと、ちょうど良いと上が判断したのさ。我々はボスの居場所が分かればそれでよい」

「ボスの居場所」

「あぁ、マスターには関係ない話だ」

 レディーは口が滑ったと、表情に出してしまった。

「ピルバグズはお前たちが放ったモノか」

「ピルバグズだって、気持ち悪い。ダンゴムシなんか放って、日本の警察は捜査がマヒするのかマスター」

「ダンゴムシ?」

「ピルバグズは日本語でダンゴムシのことだ」

「違う」

「違わない」

「違う、偵察ドローンのことだ」

「偵察ドローン?」

「そうだ」

 中山は病室内の総理を気にし、目線をドアへ送った。

「安心しろ。柿本はまだ無事だ」

 レディーは姿勢を正し、中山へ向き直った。

「マスター、私と取引しないか」

「取引、犯罪者とか」

「犯罪者とだ。まだこの国では犯していないけどね」

 レディーはいたずらっぽく笑って見せた。

「まだ『ボル』までたどり着いていないのは、想定外だった。今朝がた、Aの警備が緩んだので、てっきり疑いが晴れたと思ったが」

「何のことだ」

「私は『ボル』の情報を渡す。マスターは私を見逃し、私の邪魔をしない」

 レディーが差し伸べた手を中山は無視した。

「何をする気だ」

「『ボル』に会う」

「やはりテロリストの仲間じゃないか」

 中山が腰を一段落とした。

「違う、早まるな。奴は伝説の殺し屋と言われている。その品定めだ。捕まえれるなら私も捕まえてみたい。どの国の奴だってチャンスがあればそうする。だからマスターたちに協力をする」

「信じると思うか」

「総理は生きている。それが答えだ」

 レディーの眼は真直ぐ中山を見据えた。

 その瞳に迷いや濁りは無い。

 そこに嘘はないと中山は直感した。

 確かに、今しがたこの病室から出てきた。

 騒ぎになっていないところを見ると、事は起きていないということだろう。

「梶野、黒梟について調べられるか」

 中山は無線を使わず梶野へスマートフォンから連絡を入れた。

「今さん、鳥の?」

「違う、暗殺者だ。又は『ボル』で調べてみろ」

 梶野は何かを察し、素早くキーボードをたたく。

 キーボードの打撃音が微かに聞こえてきていたが、すぐに梶野が答えを見つけた。

「今さん、そいつが今回のホシですか。ヤバいです」

 その口調から梶野の興奮が伝わってくる。

「続けろ」

「ほぼお伽話のような大物ですよ、そいつ。ざっと上がってきた情報だけでも、一昔前の各国主要人物の不可解な死とか、全部そいつに嫌疑がかかっています」

「実在するのか」

「俺はすると思います。だって俺が見ているの、ICPOの、そう、インターポールのデータベースですもん」

 得意げに梶野は『ボル』を簡単にまとめた。

「黒梟又は『ボル』と呼ばれるそいつは、年齢、体格、国籍不詳、神出鬼没、きわめて残忍で、被害者は老若男女問わず、殺害方法は何らかの薬物と思われる心臓麻痺が多いが、体術、剣技、銃の腕前もかなりのモノとあります。活動時期もばらばらで、最も古い情報は……」

 梶野がキーボードを強めに打つ音が聞こえる。

「はっ。今さん、だめだ、そいつ。大航海時代にも存在していたことになりますよ。本当にそいつ存在するのか自分もデータを見ていて信じられないですよ。ICPOでさえ、黒衣の男、ただそれだけがはっきりしている情報です」

 黒衣の男。

 中山は視線をレディーへ戻した。

 スマートフォンから漏れた梶野の声を聞き取ったのか、レディーは両手を開き、正しかっただろ。そう言いたげだ。

「今さん。我が国にも、古い記録がありますね。被疑者九六-二九六〇号、通称『黒梟』の。これ大正時代の事件だけど、つい最近アップされた情報ですね。もしかすると庁内で気付いた者が他にもいるかもしれませんね。同一犯と考えるなら、組織又は一子相伝の暗殺集団の一族ですね。で無ければ文字通り不死の化け物なのか」

「違う。『ボル』は一人だ、単独犯だ。周りの者を全部殺してしまうから単独犯にならざるを得ない。そういう意味では、お前の言う通り化け物だ。そこは正しい」

 レディーは梶野の不安を煽った。

「ただ、一子相伝という見解は面白い。我々は、『ボル』の話を知っている、異国の神話を。だから個人だという固定観念があったが、一子相伝なら容姿が定まらないのも頷ける」

 一人納得しているようであった。

「『ボル』は、知識欲の塊で、人の命なんてこれっぽっちも気にしない。マスター、さっき言っていたわね、ピルバグズは、偵察ドローンと。ということは、床を這ってたの、そのドローンは」

「小さなボール型のモノだ」

 相手に渡す情報は最小限に抑えたいと中山は思った。

 それだけ聞いて、レディーは何か思い当たる節があるようだった。

「間違いない、それは『ボル』のモノだ。奴は新しいものが好きだ。奴の習性なのか、とにかく新しいものを試したがる」

 そう言うときょろきょろと辺りを見回した。

「この階のモノは回収したの?」

「あぁ」

「ならまたやってくる。今のうちに柿本を他へ移さないと。それとピルバグズを逆手にとって『ボル』を嵌める」

「総理を囮にするのか」

 レディーは当たり前だろと頷いた。

「もう居場所はバレている。今ここに現れるかもしれない。急がないと」

 レディーは中山を急かした。

「もし、黒衣の男がこの建物に侵入したら、『ボル』の可能性が高い。梶野とか言ったな、お前。この病院の監視カメラをチェックしてるんだろ、そのまま続けて、怪しい奴が現れたらすぐにマスターに連絡。それとマスター、万が一『ボル』と対峙したら、目だけは見るな。死ぬぞ。ただ、奴が人の形で居ればまだ遊んでくれている証拠だ。目さえ見なければマスターなら何とかなるかもしれない」


 中山は、レディーを連れて柿本の病室に入った。

 当然レディーの気配を完全に把握できるよう、中山は背後に注意を払っている。

「今さん、どうしました」

 病室内を捜索していた宮地が、中山の後ろの看護士に目を配らせた。

「先日ナギ国大使館前で捕まえた、島袋です」

 中山は目線のみで背後のレディーを指した。

「そんな馬鹿な。確か再逮捕し収監したと報告を受けましたよ」

 宮地は先ほどまで一緒の部屋にいた看護師が、中山が先日捕まえたテロリストだと気が付かなかった自分を恥じた。

「マスター、本名で呼ばないで。皆さん、レディーとイイマス。仲良くしましょ」

「ややこしくなるから、黙りなさい」

 中山は前に出るレディーをいったん後ろに下げた。

「実は、彼女はアメリカ合衆国からの使者だったようです」


「――使者。いくら今さんでも、にわかには信用は出来かねます」

「確かに、私も言っててそう思った」

 中山は頭をかいた。

 自分でも信じてはいない、黒梟、または『ボル』という暗殺者をみんなにうまく説明できるか。

「何、どうしたの。ちょっとあなた、総理はいつ目が覚めるの」

 部屋の奥から、佐倉大臣が金切り声で詰めよってきた。

「大臣、一刻を争います。敵に、暗殺者にここが察知されている可能性が高いです。総理を早急に他の安全な場所へ移動しなくてはなりません。宮地と共にお逃げください。我々が食い止めます」

 中山は腹を決め、レディーと梶野に捕捉させ、何とか得た情報をここにいる全員と共有することにした。


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