薮田班 4
《キャー!》
微かに首相官邸の方角から悲鳴が聞こえた。
池の向こうの人だかりはパッと蜘蛛の子を散らすようにはじけた。
その中央で誰かが倒れている。
しまった。
中山は一瞬でも安堵した自分を恥じた。
他にもいたのか。
「おい楢崎、お前の他にあと何人この件に絡んでいるんだ」
野尻が楢崎の胸倉を掴み揺さぶった。
「分からない、俺はただ、総理をここから撃てと。総理直々に依頼された」
「総理に、それは本当か」
薮田が頭上から聞いてきた。
「本当だ。俺もさっぱり、何が何だかわからないよ」
観念した楢崎は、我に返ったのかこれまでの経緯を洗いざらい話し始めた。
ある日、楢崎は上司に呼ばれ、警視総監室へ行くとそこに柿本総理本人がいた。
そして「頼む。日本の未来が君にかかっている」そう頭を下げられた。
総理本人と警察上層部もグル。そもそもテロ自体が狂言か。
ここ数日の薮田班への扱いも、それなら納得する。
中山は、一階の渋谷巡査部長へ連絡し、エレベーターで上がってくるよう指示した。
薮田と新六は見張りの四人の警官に手錠をかけた。
万が一この中に楢崎の口封じを依頼された者が居るかもしれない。
上がってきた渋谷巡査部長に簡単に状況説明し、五人の身柄を預けた。
「渋谷警部補、あなたは麹町署へ戻られた方が良い。この件に係ると君のキャリアに傷がつくことになる。よろしいですね渋谷巡査部長」
「あいすいません。お気遣いありがとうございます。隼人、お前は帰れ、後はこっちで処理する」
「叔父さん」
隼人は、意気揚々とエレベーターから出てきたのに、兄たちに除け者にされた弟のようなさみしげな表情を見せた。
「大丈夫だ、みんなお前のことを思ってのことだ」
渋谷巡査部長は小さな子供に言い聞かせるように優しく言った。
「班長、柿本総理は無事です」
梶野から連絡が入った。
「記者団の数名が逃げるさいに軽傷を負ったのと、内一名が意識不明で邸内で倒れていたと情報が入っておりますが、総理は無事です。今、宮地班が開業前の新病院へ護送中だそうです」
「梶野、メディアはどんな状況だ、ぶら下がりの目の前で総理は撃たれた。速報でやっているか」
「いえ、班長。どの局も全く報じていませんね。報道規制が掛かってるかもしれませんね」
そうだろう。
「班長、局長からです。『すぐに薮田班はさくらメディカルセンターへマルタイの護衛に向かえ』 です」
「分かった。データを送ってくれ」
「了解です」




