薮田班 2
『せいちや』の会合から三日間は何も起こらなかった。
厳密には、財務大臣大川と総務大臣後藤が首相近辺で口論になり、警護第二係の連中が二人の間に入り引きはがした。また、ぶら下がりと呼ばれる非公式記者会見時において、一人の記者が興奮し、マイクで首相を突こうとしたが、野尻が咄嗟に体を張って阻止した。
おかげで野尻の脇腹には、赤い擦り傷が出来ていた。
それくらいだった。
記者に手を出すと、警察だけではなくマルタイである総理大臣にも迷惑が掛かるので、力でねじ伏せることは極力避けるため、警護課が出来るのは、自分の体で盾を作るくらいだ。
「テロ警戒中でも、記者に気を使うなんて、この国ぐらいなのでは」
新六が誰に言うでもなく独り言ちた。
「やはり国会が始まるまでは、奴さんたちも大人しくしているんですかね」
梶野は新六の問いを無視して話題を変えた。
「今さんが捕まえた女戦闘員とハッカーは、東京拘置所へ移送されたそうだ」
野尻がそれに答える。
「そうみたいですね。彼らが作戦のキーマンなら、奴らもそろそろ奪還作戦を展開してくるかもしれませんね」
「SNSだったかな。そんなのが普及したおかげで、世界各地で暴動のようなことが現実世界と、非現実世界(SNS)で起こっている。炎上っていうのは、非現実世界(SNS)の暴動、デモってことだろ。それなら毎日、いや、今この瞬間、いつも起こっている。メディアはそれを煽るのはうまいからな、どこの国も政府はメディアには気を遣うもんだよ」
「今さ~ん、今さんだけですよ、僕の話を聞いてくれているのは」
新六が、臆面もなく中山に抱き付いてきた。
「暴動がおこると当然そっちに人員が割かれ、警護が手薄になりますからね」
「佐藤だったかな、あいつはハッカーだったのだろ。ということはその手の情報操作にも慣れている。SNSで炎上しているのが、現実世界に飛び火することは、過去の事例からありうることだ。フランスとかドイツがいい例だろ」
新六を事も無げに引きはがすと、中山は〈薮田〉警部に顔を向けた。
「班長、確か情報通信部に通信ネットワークに強い部署がありましたよね。そこから何か情報は出ていませんか」
「サイバーフォースのことですね今さん」
梶野が中山と新六の間に割り込んでくる。
「そう、それ。梶野、お前の元部署だったかな」
「いえ、でも俺の同期が今もそこに居ます。ただ、あいつら本当に口が堅いんですよ。だから班長に伝わってる情報と、俺が聞き出せる情報がイコールですよ」
「梶尾さん口が軽いからな、だからサイバーフォースに入れなかったんでしょ」
「てめぇ、新六」
二人がじゃれあうのを横目に薮田警部は話を進めた。
「我々警護課は、マルタイの安全確保に集中してくれ、現場では臨機応変に対応することに心血を注いでくれ。犯人捜しは外事の〈国テロ〉や、渋谷君たちがやっている」
「はっ。気を付けます」
野尻は直立敬礼した。
皆、倣って敬礼をした。




